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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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けたたましいアラームの音が、覚醒していない頭に響く。その音源のスマホを叩くようにして音を切断する。

もう少しだけ、と寝返りを打つと、今度は着信音が鳴り始めた。仕方なく体を起こし、通話ボタンを押す。

「…もしもし」

「あ、千尋(ちとせ)?今日始業式だろ。遅刻すんなよな」

「わかってるよ…」

朝から元気だなこいつ、と心の中で嫌味を言いながら柳(やなぎ)との電話を切る。今の時刻は7時。まだ十分間に合う時間だったが、流石に新学期初日から遅刻するのはまずいと判断し、ベッドから下りた。

シャワーを浴び、朝食を軽く済ませて制服に着替える。誰も居ない家は、外の雨の音だけが響いていた。

「いってきます」

返してくれる人はいないと知りながら、いつものようにドアを開ける。あ、傘必要かな、と気づいたその時だった。

「……え」

ドアの横に、人が座り込んでいたのだ。驚いてその場に固まる。

黒い合羽を着ていて、顔は見えない。けれど、体格からして同い年くらいの男子だろうか。長時間雨に打たれていたのか、びしょびしょに濡れている。

…どうすればいいのだろう。家に何か用でもあるのか…?

「…あの、」

迷った末、とりあえず声をかけてみる。しかし、雨音に掻き消されてしまった。今度は声を張り上げてみる。

「あ、あの」

「っ!」

今度こそ聞こえたのか、勢いよく顔を上げる。色白の、ひどく顔の整った少年だった。

「えっと…大丈夫、ですか?」

「あ…ご、ごめんなさい。すぐ立ち去り…っ」

少年は慌てて立ち上がったが、すぐにその場に倒れてしまった。ばしゃっと水が跳ねる。

「大丈夫…じゃ、ないですよね」

「…ごめんなさい、大丈夫、です…」

それでも起き上がろうとする少年の肩を掴んで止め、鞄を玄関に放り投げる。困惑している少年を、ひょいっと抱き抱えた。

「わっ」

「嫌だったらぶん殴ってください。ほっとけないんで」

「…」

びしょびしょに濡れた少年をソファに下ろし、合羽は脱衣所に干しておいて、タオルを渡す。少年はやや遠慮気味に受け取った。

「あ、ありがとうございます」

「いえ」

少年の髪は思ったよりも長く、翡翠の目をしていた。濡れた服が皮膚に張り付いて、痩せているのが分かる。それに、疲れているようだ。何か訳ありなのだろうか。

「…あの、名前は?」

「えっと、琉歌 天(りゅうか あめ)、です」

「宇美月(うみづき)千尋です。天…は、どうして家に来たの?」

「あ、その…ここを選んだ理由は、特にないんだ」

タオルで髪をぎゅっと絞りながら、天はどこか言いにくそうに目線をそらす。やはり何かあるようだ。

言えるようになるまで待っていると、意を決したように天が口を開いた。

「…信じてもらえるかは、分かんないんだけど」

「……俺、水が、操れるんだ」

「は…」

何言ってんだこいつ。そう思うのも仕方ないだろう。何せ、そんなことはファンタジーの世界でしか有り得ないからだ。

けれど、天の表情を見るに、嘘をついているようには思えない。立ち上がり、水道からコップ一杯の水を汲んでテーブルに置いた。

「じゃあ、この水を操ることってできる?」

「わ、分かった…」

天が目を閉じて、コップに手を翳す。部屋が静まり返る。

―水が、宙に浮いた。

「…え…?」

「これでどう、かな」

宙に浮いた水は横に細長く伸び、また縮んでコップに戻った。信じられない光景に茫然としていると、天が悲しそうな眼をして言った。

「…これのせいでさ、親に監禁?されてて。嫌になって、家から逃げてきたんだ。でも、警察に追われて疲れちゃって」

天の黒くて長い髪が首に張り付いている。その白い肌には、痛々しい縄の傷があった。

「そっか」

思ったより、淡々とした言葉が出た。天が驚く。

「気味、悪くないの」

「別に」

本当に、一ミリも気味など悪くなかった。寧ろ、綺麗な…

「そういえば、学校は?制服でしょ、それ」

「……あ」


雨の中、君との出会い。

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