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チャイムが鳴り響く。
それは放課後の知らせと同時に、中間テスト終了の知らせでもあった。
「終わった~!」
「お前どうだった?」
「マジ全然ダメ」
「出たよダメダメ詐欺! そう言って点数いいんだろ?」
「よくて40点だな」
「低すぎだろ!!!」
各々話し始める中、ある人物の席の周りに人だかりができていた。
「花野井ちゃん! この後打ち上げするんだよね?」
「そうだよ! カラオケ屋を予約してる!」
「さすが委員長! 準備いいな~!」
「えへへ~まぁね!」
うちのクラスの委員長、花野井彩花はなのいあやかがにこりと微笑む。
さすが、相変わらずの人望だ。
花野井は美少女四天王の一人なだけに容姿が優れているだけでなく、こうして色んな人に好かれるほど性格がいい。
世の中にはすごい人がいるものだ。
「おい須藤! ちょっといいか!」
「どうしました?」
須藤が席を立ち、教卓に向かう。
須藤と言えばこないだ校舎裏で呼び出されたことが記憶に新しい。
が、しかしあれ以来須藤は何事もなかったかのように振る舞っていた。
あの時の須藤がまるで嘘だったかのように。
言ってしまえば、そんな須藤もまたすごい。
もちろん花野井とはまた違った意味で、だが。
「クラスのみんな来るん?」
瀬那が花野井に話しかける。
やはり二人が並ぶと華が違った。
「大体声はかけたかな!」
「盛大だね~」
瀬那の後ろから葉月もやってきた。
これで須藤ハーレム構成員全員、そして美少女四天王が三人揃った。
「……あ! そういえば」
花野井が思い出したように声を上げる。
そしてゆっくり踵を返し、てくてくと歩き始め……。
「……え」
俺の席までやってきて、ニコッと微笑みかけてきた。
「九条くん、この後暇かな?」
「えっと……」
忘れていたが、そういえば打ち上げの話など聞いていない。
まぁ、教室で空気みたいなものだし忘れていても仕方がないが。
「俺は……」
この後店の準備がある。
だから断ろうと口を開いた――その瞬間。
「ダメよ。九条くんはこれから私と“二人っきりで”予定があるんだから」
背後からやってきた一ノ瀬が、胸の前で腕を組んで言い放つ。
一ノ瀬の発言に、教室がしんと静まり返った。
美少女四天王同士の会話。
教室中の注目が一手に集まる。
「そ、そうなんだ! じゃあ一ノ瀬さんも打ち上げには来れない感じかな?」
「そうね。九条くんとはどうしても外せない用事があるから。それも二人きりじゃないと……まぁ、“アレ”な用事だし」
なんでそんな含みのある言い方を……。
「お、おい今聞いたかよ」
「二人きりじゃないといけない用事なんてアレしかないだろアレしか!」
「なんで九条みたいな陰キャが一ノ瀬さんと……羨ましいッ!」
「いいなぁ! 俺も一ノ瀬さんとエロいことしてぇなぁ!」
「一ノ瀬さんの体独り占めとか、前世でどんな徳積んだんだよアイツ!」
一ノ瀬の発言のせいで、ものすごい誤解をされてしまった。
「あ、アレ……はっ!!! そ、そっか! でもほどほどにね⁉ まだ私たち、学生なんだし……」
顔を真っ赤にし、あたふたしながら花野井が答える。
「いや花野井、それは勘違いで……」
「わかったわ。“ほどほど”に、ね?」
「そこ強調しなくても……」
「さ、行くわよ九条くん。一分一秒が惜しいわ」
一ノ瀬に急かされる。
慌てて帰る支度をしていると、須藤がやってきた。
「彩花、そろそろ俺たちも行こうか。予約時間、そろそろだったよね?」
「あ、そうだった! じゃあ打ち上げ行く人は私についてきてくださーい!」
花野井が声をかけると、バラバラと生徒たちが動き始める。
支度を終えた俺は立ち上がり、一ノ瀬に腕に抱き着かれながら教室を出ようとする。
すると須藤が俺の方を見て、いつもの爽やかな笑みを向けてきた。
「またね、九条」
その笑みの裏に隠された表情を俺は知っている。
俺はやはり、面倒な奴に目をつけられたらしい。
「九条くん、早く行くわよ」
「う、うん」
またしても一ノ瀬に急かされ、今度こそ教室を出る。
――そのとき。
「ッ⁉」
反射的に教室内を振り返る。
木下のときに感じたようなおぞましい雰囲気を感じたのだ。
しかしあれは俺に向けてじゃない。あれは間違いなく、花野井に向けられた……。
「九条くん?」
「……いや、なんでもない」
何も起こらなければいいが……。
一ノ瀬に密着されながら帰路を歩く。
体を押し付けてくるだけでなく、さっきからじっと見られてもいた。
……歩きづらいことこの上ない。
「ねぇ九条くん。随分と前髪が長いけど、切ったらどう? それか前みたいにセットしたら?」
「うーん、美容院に行くのもめんどくさいし、朝セットするのもなぁ」
「もったないわね。あんなにカッコいいんだから、もっと顔を出していけばいいのに」
「そう言われても……」
する必要性をあまり感じないのが本音だ。
店で働く時は、さすがに清潔感を出さなきゃいけないのでセットくらいはするが。
「……いや、でもこの九条くんを私だけが知ってるという優越感。……ふふふっ♡ そうね、確かにダメだわ。これじゃ私が独占できないもの」
「い、一ノ瀬?」
「九条くんは私だけのもの……私だけのものなんだから。九条くん、やっぱりそのままでいいわよ? ふふっ♡」
「う、うん……」
あれ以来、一ノ瀬の様子もおかしい。
俺を見る目がヤバいというか、逃げられない気がするというか。
「キャーッ!!! ひったくりーッ!!!!!!」
「ッ!!!」
苦笑していると、前の方で叫び声が聞こえてくる。
見てみると男が女性から鞄を奪い、ちょうど走り去っていこうとしていた。
……ここからならまだ間に合うな。
「一ノ瀬、ちょっとこれ預かっておいてくれ」
「え? わ、わかったわ」
一ノ瀬に鞄を預けると、スタートの姿勢を取る。
「まさか……いやでも、50メートル以上離れて……」
「――大丈夫」
その言葉を皮切りに、地面を蹴る。
徐々にスピードは上がっていき、すぐに被害者女性の横を通り抜けた。
「……嘘でしょ」
空気を切り裂いていく。
さらにスピードは上がり、距離が縮まっていく。
「え、え⁉」
犯人が後ろを振り向く。
その隙を見逃さず、より強く地面を蹴った。
「うわぁああああああッ!!! なんだこいつぅううううううううう!!!!」
犯人の背中がだんだんと近づいていき、そして――