テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
「 🍷 」 (ミホーク)
「 🐊 」(クロコダイル)
🍷「好きだ。 」
その言葉は突拍子も無く部屋に響いた。一度何が起きたのか分からず、クロコダイルは書類を片すべく進めていたペンを止めた。聞き間違いかとも思ったが「好きだ」という言葉に似る聞き間違いがあるか?と頭を暫く悩ませた。だが「隙だ。」「過ぎた。」「隙間。」どれもイントネーションが違ったり、聞き間違えるはずの無い言葉ばかり。深呼吸をして落ち着けば考えるのを辞めた。声のする方に視線をやるとミホークもまた此方を見ていた。視線がかち合えばわざとらしく目を瞑り、紫煙を吐いて問いを投げかける。
🐊「何の話だ?」
低く地鳴りの様な声が妙に聞き心地の良い音色をしている。ミホークはストレートに思いを伝えたと言うのに、此奴はまだとぼけるのか。と立腹気味にグラスに入ったワインを一気に飲み干し、少し乱暴にグラスを机に置いた。するとその様子にクロコダイルが気づいたのか🐊「世界最強の剣士様はお怒りか?」と誂う様にして探りを入れた。
🍷「とぼけるな。おれの言った事が聞こえなかったのか?」
溜息混じりに響く、ハープの様な低音。ミホークのその台詞に思わずクロコダイルは目を丸くした。「好きだ。」と此奴は確かに言ったが何が好きか、とはまだ言っていない。今部屋で流れている音楽が気に入ったのか?それとも今手に持っているワインの味が美味かったのか?どれが正解なんだ?と頭の中に疑問だけが浮かんだ。
🐊「ああ、勿論聞こえたが…。」
頭の中で此奴が好きだと言ったのは何なんだ?と脳内では会議の様なものが開きかねない状況。隣にあるプレーヤーからは優雅な音楽が流れたまま。ミホークの圧に耐えきれず、目線を逸らすとミホークがズカズカと歩み寄り、クロコダイルの葉巻を持っている方の手を左手で掴み、口から遠ざけ右手でクロコダイルの顔を鷲掴みにして口付けをした。
🍷「ならば返事をしろ。」
唖然としているクロコダイルを前にミホークが返事を急かす様に瞬きをした。何が起きたのか分からず、口を付けていた葉巻を落としてしまう程には驚いていた。しばくして、段々冷静になれば「好きだ。」と言ったのはそういう事だったのか。と真実にたどり着き、今までの自分の醜態に思わず顔をうっすらと紅に染めた。その様子を見ては、初めて猫を見た子供の様にクロコダイルの周りをプレーヤーから流れている音楽に合わせてぐるぐると歩いて徘徊し、🍷「今までなんだと思っていたんだ?」と頬を緩ませクロコダイルの左隣で歩みを止めた。
🐊「それを言ったら…てめェは確実に笑うだろう。」
はぁ、と溜息を付けば床に落ちた葉巻を拾い上げ灰皿に乗せる。シガーカッターで新しい葉巻の先端を切り落とし、マッチで赤を灯した。ふと向けられている視線に気付く。その方を見遣るとミホークが此方を見ていた。優雅にワインを嗜む余裕があるのか、とクロコダイルはミホークに呆れた。すると🍷「ほう?おれが笑うか…どれ、聞かせてみろ。」と更に興味を示しワインを進めた。
🐊「…てっきり俺ァ今部屋で流れている音楽かお前の今飲んでるワインの味が気に入ったのかと…。」
こうなりゃ聞かねぇな、と諦め自分の思考の内をミホークに明かした。笑われるだろう、とクロコダイルはミホークに視線をやった。だが、ミホークはぽかんと口を開けたまま固まっている。何処か変な所でもあったか、と考えようとした矢先、ミホークの口元が緩み口角が緩やかに上がった。🍷「んふふふふ…ふははは…!」笑った顔など滅多に見ないが故にその様子を観察する様にしてクロコダイルはそれを凝視していた。
🍷「好きだ。と言う台詞だけでそこまでお前は思考を巡らせる事ができるのか。」
笑いの余韻でミホークはふふふと声を震わせる。クロコダイルはその様子を見て、悔しそうに葉巻に歯を食い込ませた。するとミホークが凛とした声でクロコダイルへ問いを投げかけた。
🍷「返事を聞いていなかったな。YESかNOだ。お前はどうする。」
ミホークはクロコダイルの目をじっと見つめ返事を待っている。クロコダイルは葉巻を口から離し、目を瞑って紫煙を吐いた。口を開けば答えは決まっていたかの様に得意気に答えた。
🐊「YESに決まってる。」
END
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!