今日もいつも通り依頼が1つ舞い込んできた。どうやら一晩で姉と義兄が消えてしまったらしい。
依頼人は野上と名乗った。どうやら自分の誕生日に姉である「桜井愛里」と義兄「桜井侑斗」がこの街、風都に旅行として連れて来てくれたようだ。こちらとしても嬉しい話である。しかし、今朝起きると、荷物はあるのに姉と義兄の姿はなく、丸1日宿に帰ってこなかったそうだ。せっかく旅行に来てくれたのに、このような目に合わせてしまうとは…。風都の名誉挽回の為にも、この依頼を引き受ける事をすぐに決めた。
依頼人の名前は「野上良太郎」。俺の名前である翔太郎にそっくりでついつい笑ってしまった。しかも姉からは「良ちゃん」なんて呼ばれてるらしい。俺もよく「翔ちゃん」と呼ばれる為に親近感を覚えた。
とりあえず、お姉さん達が消える前日はどこを回って何をしていたのかを良太郎から聞いたあと、良太郎は亜樹子とフィリップに任せて俺は聞き込みに出掛けた。けれど誰に何を聞いても「知らない」「分からない」としか言われず、調査は難航。宿泊したという宿に行ってもチェックインしたのが最後に見た情報だということしか分からなかった。ここで1つ分かったのは、「消えた」若しくは「連れ去られた」の2択である事。「自発的に何処かに行った」のだとすれば、初めて来た風都で誰にも見られず何処かに行くことは出来ない筈だからだ。まあ、「消えた」にしろ「連れ去られた」にしろ、誰に気付かれてないという時点でドーパント絡みの事件であるのは予想が着いた。
お姉さんに関しては写真でも分かるほどの美人だったので、大方そのお姉さんに惚れた人が何かしらのアクションを起こしたのであろう。そうでも無いと初めてこの街に来た人を狙う意図が分からない。その上、同様の事件は無いと情報屋は言う。
この事を相棒に伝えようとスタッグフォンを手に取ると同時に音を鳴らし始めた。どうやら相棒も俺に伝えたい事があるらしい。
その着信に応答し、耳に当てる。「もしもし」と言う俺の声を聞くと一呼吸置いてから相棒が
「桜井愛里、若しくは桜井侑斗に関する事は何か知れたかい?」
といつもの声で聞いてきた。
「いいや、全く…」
肩を竦め、苦笑いを零しながら返事をする。
「そうか…」
それを聞くと相棒は困った様子でうーんと唸るような声を出す。
「で、お前はどうした?」
着信を掛けてきたのはそっちだろ?と何も言わなくなってしまった相棒に要件を聞いた。
はたりと声がしなったかと思えば、すぐ軽く息の吸う音が聞こえて話し始めた。
「ついさっき、桜井愛里について調べたんだ。特に不自然な所もなく閲覧し終えたんだけれど、最後の数ページに文字化けしてる文字が仲間はずれのようにプロフィールが書いてあったページとの間に空白のページを挟んでビッシリと書かれていたんだ。」
「文字化け??今までそんなことあったか??」
「いいや、閲覧出来ない、なんて事はあったけれど、文字化けは初めて見たよ。」
あまりいい事では無いことは理解出来たが、だいたい好奇心旺盛な相棒は、分からない・閲覧出来ないという事があれば「知りたい!」と興奮気味になり飛び出して行ったりするほど、いつもはもう少しテンションが高いものだ。しかし、今回はイマイチで、不安そうな声を漏らしていた。俺が不思議だと思っているのを察したかのようにフィリップは話し始める。
「実はその文字化け、しっかりでは無いが解読出来たんだよ。けれどね、全く意味が理解出来なかった。」
「解読方法が間違ってたとかじゃねぇのか?」
「僕もそう思って何回も解読を試みたんだけど、どう解読しても似たような内容になるんだ」
ペラペラとページをめくる音が微かに聞こえる。
「…その内容ってのは?」
ゴクリと唾を飲み込みながら相棒の応えを待つ。
「『代償を払い、大切な物を守り続ける者と番人となった弟と時をかける電車で話をする。この先の世界の為に思い出を失うと伝えた。強く儚い思い出は愛だけを残す。その苦渋の選択は婚約者と悲惨な未来と共に消えた。』
……だいたいこんなことが書かれていたよ。」
まるでポエムのような言い回しでファンタジックなことが書かれていたらしい。にしても不思議な点ばかりだ。
「…確かに、よくわかんねぇな」
「だろう?だから野上良太郎と桜井侑斗についても調べたんだが…」
「おう」
「桜井侑斗については文字化けの部分が桜井愛里を超える量があったし、そもそも2人とも閲覧出来ない部分が大半だったよ」
どうやら色々事情のある家族のようだ。
「まともに情報を得られたのは桜井愛里だけだった…ってことか。
てか、そもそも良太郎はそこに居るんだから聞きゃ良いだろ?」
「彼は想像を超える不幸体質を持ってるようでね。今は気絶しているよ」
野上良太郎は不幸体質らしく、不幸な目に合うことは日常茶飯事だそうだ。
ついさっき、亜樹子が淹れたコーヒーを飲もうとすると、マグカップの取っ手と本体が離れてしまい熱々のコーヒーが膝の上に零れ火傷を負った挙句、それを拭こうと慌てた亜樹子が良太郎に頭突きするように転び、全体重がのった頭突きにより気絶しまったようで、話が聞ける状態では無いとの事だった。
「タイミング悪ぃな…」
う〜ん、と俺も頭を抱える。
本当に何も情報がない。
すると、電話している俺に1人の知人が駆け寄ってきた。
「翔太郎さん翔太郎さん!」
とりあえず、フィリップに「悪い」と言って電話を切り、知人の方を向く。
「どーした?」
「あのあの!空を走る電車の噂知ってます??」
「空を走る電車?」
その言葉を聞いてさっきのフィリップの言葉を思い出す。
時をかける電車
文字化けしているという部分を解読した時に出てきた言葉だが、その空を走る電車と時をかける電車は同じものなのではないか?と予想した。
すると知人は興奮したように
「実はその電車、僕見ちゃいまして!!ほんとに空走ってるんですよ!!すぐ消えちゃったんですけど!!でもどうしてもその電車の写真が欲しくて!!見掛けたら写真を撮って下さいって色んな人に言って回ってるんです!!翔太郎さんもお願い致します!」
早口でそう述べる。
まあまあと落ち着かせた後に、そのお願いを了承する。俺はその電車が今回の事件に無関係とは思えなかった。
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俺は事務所に戻り良太郎が目を覚ますのを待つ。亜樹子は俺と入れ違いで買い物に出かけて行った。
20分程待ったら、良太郎は意識を取り戻した。俺がそれに気づいて声を掛けようとすると、先にフィリップが良太郎に声を掛けた。
「君は番人になった事があるのかい?」
「えっ、?」
開口一番、番人になった事があるかなんて聞かれれば誰だってびっくりする。
野上良太郎は困惑した様子で、頭にハテナを浮かべていた。そんな様子お構い無しにフィリップが良太郎に近づく。
「代償を失いながらも大切な者を守っている人は身近にいるかい?」
「え、えっと…?」
良太郎は分からないと言うように首を傾げる。
しかし数秒後、ハッとした様子で
「侑斗の事かな。」
と一言ボソリ。
その声を聞き逃さなったフィリップはじいっと良太郎を見詰め、
「ということは、君の義兄さんは何か代償を払っていると言うことだよね」
と疑いの目を向ける。
外から旅行に来たと言っているので、ガイアメモリでは無いと思っているものの、代償という言葉は俺らに取ってあまりいいものと受け取れなかったのだ。
「…それは…言えないです」
「僕が言っちゃ駄目な事です。」
なんて真っ直ぐ俺らの目を見て言う。こいつは悪いやつじゃねぇと確信した。強い信念を持ってる。フィリップもそう感じたのだろう、目をぱちぱちさせた後、
「そうか」
と言ってふふっと笑った。
しかし、なんの代償だろうか。と考えていると、相棒はもう切り替えたように質問を変えていた。
「なら、君は何者だい?番人…そして時をかける電車 ─── 。」
その言葉を聞いて、「ああ、そういえば空を走る電車のことを伝えていなかったな」と思い出す。そのことを話そうとしたが、時をかける電車と言うキーワードに良太郎はピクリと反応した。
それを見逃さなかった相棒は、バンッと音を立てて机に手を付く。
「野上良太郎、君は時をかける電車について知っているんだね??」
目を輝かせて、教えて欲しいと言わんばかりに良太郎を見つめていた。
良太郎は知っているのか?という問いに、小さくこくりと頷く。
「…あの、教えるのは良いんですけど、その前になんでその事を知ってるのか、どこで知ったのかを教えて欲しいです …」
良太郎はおどおどとしながら、ちらりとフィリップの方を見る。
フィリップはそう来ると分かっていたかのように
「嗚呼、勿論。そうじゃないとフェアじゃないからね。」
と、地球の本棚《ほしのほんだな》について、ガイアメモリについて話し始めた。
ガイアメモリについては話さなければ行けないと思っていたからいいとして、地球の本棚の事を話し始めた時はびっくりした。そんなあっさり話していいのかよ。
しかし時をかける電車は**地球の本棚**の情報と同じぐらいの価値があると相棒は感じ定めたのだろう。
野上良太郎は終始驚いた様子で話を聞いていた。
「…す、凄いですね、全ての情報が分かるなんて…」
「と言っても、君の本は閲覧出来ない所が多かった。ロックが掛かってる。だからロックを開けるキーワードが欲しくてね」
洗いざらい話したフィリップは、さあ次は君の番だと手を差し伸べるように動かした。
「ええっと、ロックを開けるキーワードには心当たりがあります。僕が直接話すより多分その本を見た方が早いと思うので…。」
ワクワクと子供のように目を輝かせるフィリップの方を良太郎は腹を括ったような目で見、ゆっくりと口を開いた
「電王……です。」
その言葉を聞くと、早速地球の本棚に潜った相棒がロックの解除に成功したのか、興奮した様子でガレージに飛び込んで行った。
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