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きくあ
____ここ最近、明らかに距離を取られている気がする。
自分のとなりを俯きながら歩く青年を横目で見ながら、俺はそんなことをぐだぐだと考えていた。
じりじりと地平線に沈み始める日に焼かれて赤く染まり始めた河川敷に、並んで歩く2人の影が長く伸びる。
明るく活気に満ちた時間の終わりを悲しがるかのようにひぐらしが鳴き、虚しく空気を震わせた。
日は絶えず地面に潜り込もうとしている。
東からゆっくりと迫ってくる夕闇から、子供の頃に覗いた押入れの隙間みたいなじわじわと心を侵してくるナニカを感じて、
俺はとなりの青年に話しかけた。
「…なあ、泰」
名前を呼べばはい、と少し掠れた若い声で返事が返ってくるが、その声には前のような明るさはみじんも含まれていなかった。
「久しぶりだよな、こうして並んで歩いたのは。」
青年はこくりと頷いた。ここで何か気の利いた言葉でもかけてやれればよかったのだろうが、頭はこれといっていいほど
働いてはくれなかった。少しだけ目を閉じて、今は考えを放棄することにした。
ひぐらしの声はまた静かになった。
____自分の世界から唐突に切り離されふと顔を上げると、日はすっかり暮れてしまっていた。夕焼けの残骸のような赤い花が、
夜に取り込まれるもんかと、黄昏時の淡い藍色に必死にしがみついている。
「…じゃあ、おれはこの辺りで。」
「ああ。」
今にも切れてしまいそうな白色の街灯に照らされた駅前で、俺と泰は別れた。ほんの少しだけ彼を見送ってから、
駅の改札をくぐってプラットフォームへ向かう。
ホームには人がほとんどおらず、柱に寄りかかっている仕事帰り風の男や、声も出さずにとなりあって居る学生風の少年が、
ちらほらと見えるだけだった。みな等しくぐったりと疲れ切っており、ホームに気怠げな空気を作りあげていた。
やがて軋むような音を立て、列車がホームに滑り込んでくる。線路を薄暗く照らす電球に、小さな蛾たちが群がっている。
ポケットから懐中時計を取り出して、時刻を確認する。0時前には家に帰れるはずだ。
右手に握っていた切符が、くしゃりと捩れる感触がした。
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