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まりあと過ごす時間には、もう慣れたはずだった。けど、最近、妙に意識してしまう自分がいる。ちょっとした仕草や言葉に、ドキッとすることが増えた。
最近の俺、変。
「お試し恋愛」なんて軽く言ったくせに、俺が一番振り回されてる気がする。こんなはずじゃなかったのに。
──そんなことを考えていたある日、ちょっとしたすれ違いが起きた。
***
昼休み、俺は友達と適当に喋りながら廊下を歩いていた。すると、向こうからまりあがやってきた。俺は自然と目で追ってしまう。いつも通り、上品で真面目そうな雰囲気。でも、最近はちょっとした表情の変化もわかるようになった。 …今日はツインテール。…かわいい…こともなくもないけど。
「華嶺ー!」
と、まりあを呼ぶ声が聞こえた。見ると、まりあのクラスの男子──しかも、けっこう真面目そうなやつが駆け寄っていた。まりあは驚いたように立ち止まり、俺は思わず足を止める。
「何か用?」
「この間の課題のことでさ、ちょっと聞きたいことがあって!」
「うん、いいよ。どこで話す?」
「図書室とかどうかな?」
「分かった、じゃあ後で行くね。」
何気ない会話。けど、俺はその様子をじっと見ていた。
まりあのほうも、俺に気づいたみたいで、少し申し訳なさそうに目を逸らした。……なんだよ、それ。
何か言えばよかったのに、俺は結局何も言えず、適当に友達と喋るふりをしてその場を離れた。
「お前、まりあ狙い?」
友達がニヤニヤしながら聞いてくる。
「は? するわけねーよ。」
「いやいや、めっちゃ気にしてたじゃん。」
「うるせえ。」
でも──内心、ちょっとモヤッとしていたのは事実だった。 …難しい。
***
放課後、まりあと合流したけど、俺はなんとなく素っ気なくしてしまった。いつもなら適当にちょっかいをかけたりするのに、今日はなんだかそんな気になれない。
「……李斗、今日なんか変じゃない?」
まりあが不思議そうに俺を覗き込んでくる。
「別に?」
「うそ。なんか怒ってるでしょ?」
「怒ってねぇよ。」
「……」
まりあはじっと俺を見ていた。俺は視線を逸らして歩き出したけど、まりあはすぐに後ろからついてきた。そして、次の瞬間──
ぎゅっ。
「……え?」
突然、まりあが俺の背中に抱きついてきた。
「ちょっ、おい、何して──」
「李斗が変な感じするから――っ!」
まりあの声が、すごく近い。温かい体温が背中に伝わってきて、頭が一気に真っ白になった。
「なんか…私、李斗が怒ってると落ち着かない。だから、もう怒らないで…?」
俺の心臓が、一瞬で跳ね上がる。
「……怒ってねぇって。」
「うそ。李斗、こういう時すぐ黙るもん。」
まりあの腕に力が入る。こんなの、まともに正気でいられるわけがない。
「は、華嶺、お前な…!」
「ダメ?」
「……知らねぇよ。」
俺はまりあの手をそっと掴んで、ゆっくり引き離した。顔が熱い。けど、まりあのほうも、頬を赤くして俺を見上げていた。
「……さっきのやつ、誰?」
「え?」
「昼休みに話してたやつ。」
「あぁ、クラスメイトだよ?課題のことでちょっと…」
「ふーん。」
それだけ言って、俺はまた前を向いて歩き出した。まりあも急いで横に並ぶ。
「もしかして…嫉妬?」
「は?してねぇし。」
「ふふっ、顔赤いよ?」
「お前のせいだろ!」
まりあは嬉しそうに笑った。その顔を見て、俺はなんとなく肩の力が抜けた。
「……バカ。」
「えへへ。」
すれ違いなんて、一瞬でどうでもよくなった。
ただ、これだけはわかった。
俺はもう、まりあのことを「お試し恋愛」なんて軽く言えないくらい、本気で意識しているらしい。
まりあのツインテールがゆれる。俺は少し距離を縮めてやった。