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 星明かりでうっすらと、看板の銀文字が光る。ただゆっくりと夜が更けていく。


 入店から二時間、今宵何杯目か分からないカクテルが供された頃だった。


 グラスを見つめて、ふと思いついたようにスフェが口を開く。


「…せっかくだし、乾杯でもしとくー?」

「あ?何にだよ。」

「さぁな。なんてことない星空に、とかで良いんじゃねぇの?」


 そう言ったのはラヴ。琥珀色の液面を静かに揺らしてそっと掲げると、残る二人もそれに続く。


「「「乾杯。」」」


 カチン、と無機質な…それでいてどこか柔らかい音が夜の中に響く。

 珍しく穏やかな空気に包まれる三人だが、彼らがグラスを開けた途端にその和やかな雰囲気は雲散霧消した。


「そうだ、せっかくだから酒入ってないと出来ねぇ話しようぜ。」


 そうラヴが言い出した事そのものが、きっと最初の過ちだった。


「いいねぇ、何にする?とりあえず直近の愚痴とか、そーゆーのでいい?」


 スフェがしっかり会話の内容を決めなかった事が、多分二つ目の失策だった。


「あ?俺のボスが率いる組織でんなモン出る訳ねぇだろ。なんてったって、俺のボスは可愛いからな!!」


 ルーカスが喧嘩腰になり可愛いという単語を出したのが、きっと最後の駄目押しだった。


「いや、可愛いかどうかって愚痴にはあんま関係ないんじゃねぇか…?」

「そもそもあの人への愚痴とは言ってないし、愚痴の対象ならもっと居るじゃん。陰険なやつがさぁ。」


 

 もはや信仰と言っても良いレベルで愛する自らのボスについての熱弁を振るうルーカスは、二人のツッコミを一切聞いていない。


「待て待て待て、グラスを机に叩きつけるな!!」

「うるせぇ!!俺のボスは世界一可愛いんだよ!!!」


 限りなく破壊音に近いガンガンとした音を立てて強化ガラスで作られたワイングラスを叩きつけ、さらに自らのボスの魅力について語り続けるルーカス。


 だが此処にはもう一人、自分の中の「世界一可愛い」を既に決めている者がいる。

 オブシディアン・スフェ26歳、彼女の家には様々な事件の末に彼女が引き取り、軍と呼んで溺愛している孤児、水色の髪に眼鏡が似合う可愛らしい少年がいるのだ。


 そして、当たり前と言えば当たり前ではあるが…

 こういう時、大概の場合は引く事ができないのが人の感情というもので。


「はぁ?いや、世界一可愛いのはうちの軍だから。確かにエルマさんも美人かもだけどさぁ、絶対にうちの軍の方が…」

「スフェこの馬鹿野郎、今そこじゃねぇんだよ状況見ろ状況!!」

 

 そんなこんなで哀れにも老店主のバーは、一瞬にして静謐な大人空間から凄絶な地獄絵図と化した。


 響く銃声、投げられるナイフ、果ては食器に椅子までも。

 大量に投げ交わされたそれらは、あっという間に店内とラヴの胃を破壊していく。


「は?てめぇは知らねぇだろうがあの人はなぁ、寝起きすっげぇ可愛いんだぜ?普段シャキッとしてんのにさぁ、朝早い時とかたまにぽやーっとしてんの。もうたまんねぇ。」


 自らが放つ銃声に負けじと、ルーカスは声を張り上げる。


「そんな事言ったらルーカスだって軍が料理してる姿見たことないだろ?普段すごい上手なのに偶に失敗すると凹んじゃってさぁ…まぁ、そんなとこも可愛いんだけどねぇ。」


 銃弾を丁寧にナイフで弾きつつ、スフェは淡々と言い返す。


「んだとてめぇ!ごちゃごちゃうるせぇんだよ俺のボスが一番!!異論は認めねぇ!!!」


 投げられたナイフをひょいひょいと避けつつ、ルーカスは叫ぶ。


「そっちこそうるさいねぇ、カルシウム足りてないんじゃない?あと一番は軍な。」


 次々とナイフを魔力で生成し、ひたすら投げつけながらもスフェは譲らない。


「足りてねぇように見えんのかああん?ホラみやがれ190はヨユーで超えてんぜ!?!?てめぇこそ足りてねぇんじゃねぇのか!?!?!?」

「俺だって男に換算したら190ぐらいぜんっぜん超えるっての。カルシウムは足りてても脳みそはちっさいんだねぇかわいそーに。」

「んだとコラァ!!上等だぜこのクソアマァ!!!!」

「ほんとーにこの狂犬うるさいねぇ、大人しく檻の中に戻りなよ。」


 ぎゃいぎゃいと、どこまでもヒートアップしていく舌戦。盾にされるテーブル(高級品)、飛び交う血まみれの銀食器(高級品)、焼けこげた絨毯(高級品)…

 そんな中でラヴ(身長164cm)は、「だっる…帰りてぇ……」と、誰にも届かない心の叫びを、ひどく小さくこぼした。


 その後、たまたま周囲を歩いていた一般構成員の報告が、たまたま三人で茶会を行っていた彼らのボスとその陰険な執事、孤児の少年の耳に同時に入り、三人揃って散々な大目玉を食らったのは、また別の話。


 加えて言うと、バーの修繕が終わるまで屋敷に帰るなと言われ、鍵を取り上げられて追い出されたルーカスの慟哭もまた別の話なら、内容を聞いて散々に照れた少年に、しばらく料理を作らないと宣言されたスフェの衝撃も、また別の話なのだ。

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