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私の受け持つ生徒達の中に一人、明らかに異質な生徒がいた。
その生徒は妄想に浸る癖があった。
別にこの事に関してはさほど重要ではない。ただ、この思想が暴走して制御が出来ない事が大きな問題であった。
ある時、その生徒がクラスメイトを切り付ける事件が起こった。
私は何故そんな事をしたのか、とその生徒を呼び出し、話をした。
するとその生徒はあの子が私の悪口を言っていたの、と一言。
後々切り付けられたクラスメイトに話を聞くと私は何もしていない、と泣き出した。
勿論、クラスの全員に一人づつ聞いていった。
皆、あの子は何もしていない。あいつが急に切り付けた、と口々言う。
ある秋の教室。
私は例の生徒と話をした。
話をしている時、急に例の生徒が言った。
「先生、私生きてていいの?」
私は答えた。
「別に、お前が生きてても死んでても私には関係ない事だ」
だけど実際に死なれたら大切な生徒が居なくなるので悲しかった。
「だが、少し悲しい」
本音が出てしまった。
するとその生徒は微笑んでそっか、と一言。
此処で言うのも癪だが、実は私はこの生徒の頭の中が見えた。
今、彼女が考えている事だけが何故か分かった。妄想。
正直言ってイカれている。そんな内容だった。
すると彼女は言う。
「先生、どうせ私の頭の中見えてるんでしょ?」
鋭い視線だった。
「今の嘘だと思う?」
嘲笑うような口調で言う彼女。
すると彼女はナイフを取り出し、自分の首に当てた。
「先生、一生憑いていくよ」
スッと軽やかにナイフは彼女の肉を抉り、床に赤い華が咲く。
その光景が、その顔が美しかった。
表情は安らぎに満ちていた。
私はそっと屍に手を当てた。冷たい。
ああ、私もイかれている。
ずっと気付いていたのに止めなかったのはやはり、彼女が好きだったのだろう。
もう息も聞こえない屍が美しい。
空き教室、揺れるカーテンの中、私は彼女にキスをした。