テラーノベル
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彼女はノストラードファミリーのボスの娘である、ネオン=ノストラード。ヨークシンでの騒動が落ち着いたが、少しの間彼女のお父様の都合でまだホテルのスイートルームに泊まっているノストラードファミリーとその護衛達。ホテルの窓から見える外には煌びやかなヨークシンの夜景が広がっているが彼女にはそんな景色は目に入らず、ただ一つのことで頭がいっぱいになっていた。
欲しいものはパパに言えば何でも手に入った。でも未だ手に出来ていないもの、それはあたしの護衛のクラピカって言う人。クラピカは真面目で、ちょっと堅くて、とっても優しくて、時々寂しそうな目をする。その目には何故か吸い込まれちゃって見惚れちゃう。クラピカはあたしがどんなにワガママを言っても冷静に、でもちゃんと受け止めてくれる。
最初は護衛さんとしてしか見てなかった。でもいつからかクラピカのことが頭から離れなくなっちゃって夜も眠れない、そんな日が続いたの。
いつからって言ってもきっかけは多分あの夜、あたしが集めてる貴重な物をクラピカに見せて自慢をしたその時に少しだけクラピカが笑ってくれた。自慢をするあたしが幼稚に見えて笑ったのかもしれない、けどほんの少しだけ上がった口角があたしの心に刺さった。あの笑顔がもう一度見たい、あたしだけのためにクラピカが笑ってくれる時間をもっと見たいって思っちゃった。
でもクラピカはあたしの護衛さんで、あたしはボス。あたし達のことをこの立場が邪魔をする。あたしがどれだけ「クラピカ、ちょっとこっちに来て!」って気軽に呼んでもクラピカは護衛として、あたしとの一線を引く。敬語で丁寧に、少し離れた場所に居るかのようにあたしと話す。護衛としてはこの対応が満点なのかもしれないけどあたしにはそれがもどかしくて、悔しくて、胸がぎゅっと締め付けられる感覚になる。
だから今夜、クラピカにあたしの想いを全て伝える。ボスと護衛とかそんなの関係無い。あたしだって歳頃の女の子だもん、恋だってしちゃうよ。今まで色んな人に出会ってきたけどあたしはクラピカが好きってことを言いたい。
クラピカがあたしの部屋に来るまであと数分。21時にあたしの部屋に来るようにお昼に言っておいたから時間厳守なクラピカはそのうち来てくれるはず。
部屋で時計の針の音が鳴り響き、彼女の心を張り詰める。時計の針が21時を指すと同時にノックの音が響く。
「ボス、お呼びでしょうか。」
扉越しで聴こえるクラピカの声は落ち着いていて、いつも通り優しかった。扉を開けるとそこにはいつも通りのスーツ姿のクラピカが立っている。スーツはきっちり着こなしていて、ブロンドの髪が部屋の明かりに映えていて、まるで絵画みたく綺麗に見えた。
「クラピカ!待ってたのよ?お話があるから入って入って!」
とクラピカを部屋に招き入れ、ソファに座らせる。
「…ボス、どのようなご用件でしょうか。」
早速いつもの“護衛モード”。まるであたしをボスとしてしか見ていないみたい、けどクラピカからしたら所詮あたしはただの雇い主でボスでしかない。それ以上もそれ以下も無くただの護衛対象。
「そんな堅い話じゃないの、すぐ終わるから最後までちゃんとお話聞いててね。」
そう言うとクラピカは一瞬戸惑った顔をした。困った顔を見ていたい気持ちもあるけれど、クラピカにも仕事があるだろうしゆっくりはしてられない。何度も心の中で練習した言葉をしっかりクラピカに伝えなきゃ。
「あのねクラピカ。あたしクラピカのことが好きなの!」
あたしの言葉が部屋に響く、その声は少し震えていて自分でも自信がなさそうなのがよく分かった。クラピカはというと、あたしの言葉に驚いたのか一瞬目を大きく見開いたがすぐに冷静になり落ち着いた表情に戻る。
これを聞いてクラピカが何を言うか大体想像がつく。クラピカはいつも護衛としての立場を優先して深くは何も言ってこないし言ってくれない。そんな事を考えているとクラピカが口を開く。
「気持ちは凄く嬉しいですが私は護衛として貴女をお守りする立場にあり、そのような感情にお応えすることは…」
「待って!違うの、…ううん、違くないけれど聞いて欲しいの。」
クラピカの話を遮って立ち上がる。
はっきりと言われて目に涙が滲みそうになるけれど今は泣いていられない、クラピカに本気だってことちゃんと伝えなきゃ。
「これはね、ボス命令なんかじゃないのよ?あたしは本当にクラピカのことが好きで仕方がないの!」
クラピカの目がまた見開く。あたしはソファに座り直してクラピカの手を握る。クラピカの手は冷たくて、でもなんだか安心する。あたしはクラピカの手を握りながら話を続ける。
「クラピカが護衛だからとかあたしがボスだからとか関係ない。あたしはクラピカが好き、真面目なところも優しいところも全部好き。あたしクラピカとずっと一緒に居たい、勿論それはボスと護衛という関係じゃなくてただのネオンとクラピカとして。」
クラピカは黙ったままあたしの事を見詰める。その目は何かを隠しているのがクラピカのことをよく知らないあたしでも分かった、過去のこと今のことそしてこれからのこと。色んなものが交差してるんだろうなあ、
「ボス…私は護衛として、貴女を護ると誓いました。それは貴女のお父様との約束です」
護衛としての任務をしっかりこなすクラピカにはあたしの恋情は届かない届くはずもない、だけど何処か期待しちゃうの。私もって言って欲しい、クラピカのことをもっと知りたい。
「…何度も言うけど護衛とか関係ない、だからクラピカの本心を聞かせて?」
「私も、ボス…いいえ、ネオン。貴女のことが好きです。」
クラピカがあたしの方を見詰めて口を開いた瞬間、時間が止まったみたいだった。あたしを真っ直ぐ見詰めるクラピカの目はいつもの冷静な目じゃなくて、熱を帯びていて真剣に見えた。
「…ねえクラピカ、ほんとうにあたしのこと好き?あたしに合わせたりしてない?」
目を合わせずクラピカの肩に顔を埋めて問い掛ける、クラピカの目を見詰めたら夢だったなんて展開になりそうな気がしたから。
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