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<君との日々をもう一度>
「潔、次はどこに…」
浮かれていた。久しぶりの2人きりでの外出に。
だから目の前から赤信号にも関わらず、突っ込んでくるトラックにも気づかなかった。
俺の手をとっさに引く潔さえも守る事ができなかった。
1.理解の矢先
「この度は弟が申し訳ないです。」
「本当にすみませんでした…ッ」
潔の眠る病室で俺と兄貴が潔の両親に深々と頭を下げる。
「いいのよ、凛くんに怪我がなくてよかったわ。よっちゃんも大事には至らなくて…」
「あまり自分を責めないでくれよ、凛くん。」
惨めで下げた頭を上げられなかった。
「凛ちゃんも色々あったんだからさ、仕事しばらく休んでも良かったのに。」
「…俺だけ暇なんか作れない。なぁ、蜂楽。」
蜂楽が作業の手を止めて俺の方を向いた。
「もし潔がこのまま目覚めなかったら、俺は一体何人の人の悪者になんのか。そればっか考える。最低な人間だって改めて知った。」
蜂楽は顔を変えなかった。
その代わりに作業を再び続け出した。
「自分語りとか被害者アピだって潔なら怒るよ。辛いのは凛ちゃんだけじゃないんだよ。良い意味でも、悪い意味でもね。」
潔の笑顔が見たい。
また俺の名前を呼んでほしい。
全部が悪い夢であってほしい。
弱い自分を知りたくない言い訳にするのか?
「俺は、どうしたら良い?」
蜂楽はただ黙々とハサミで布を切っていた。
ハサミが布を断ち切る音が部屋に響く。
「…正解なんかない。悔やんでも過去のことはどうにもならないんだよ。」
「潔にもう一度会いたい…会いたいんだ。」
「今日は素直だね。キャラ崩壊ってやつ?」
くすくすと声を抑えて笑う蜂楽の尻を軽く蹴ると蜂楽はすぐに謝った。
「凛ちゃんこわーい。」
“凛こわーい。冴にそっくり〜”
“俺はあいつとは違う、!あんな仏教顔じゃねぇよ”
“え〜、似てるけどね笑”
ふと潔との昔の会話を鮮明に思い出す事がある。
蜂楽が俺を見て首を傾げていることに気がつくと俺は慌てて作業へと戻った。
「あ、電話。俺出るよ〜」
蜂楽が立ち上がり机に置かれている電話の受話器を耳に当てた。
「え、あ、うん。潔?分かった。うん。」
最初は「やっほーれおっち!」とか「なるほど〜」とか軽い返事ばかりをしていた蜂楽が急に真剣な顔つきへと変わった。
「潔に何かあったのか…ッ?」
「意識が戻ったって…怪我も軽いし1週間もすれば退院できるらしい。行こう、凛ちゃん。」
蜂楽は奥の部屋へと走り出してコートを手に取ると俺に投げる。
蜂楽も厚手の上着を着ると車の鍵を持った。
「ほら、また眠っちゃうかもよ!」
蜂楽に続いてコートを手に家を出た。
「凛くんと廻くん!今先生と母さんの3人で話中らしい。」
「よかった…ほんとによかったです…ッ」
ホッとしたように凛ちゃんは床にしゃがみ込むと顔を埋めた。
「凛ッ!よかった、来てくれて…」
振り向くとそこには凪っちとれおっちが立っている。
真剣な顔つきでれおっちは凛ちゃんを見ていた。
「これから何が起きようとも取り乱すな。いつもの冷静なお前でいるって約束しろ。」
れおっち、いや…玲王は冷たく不安そうに揺らぐ瞳で凛ちゃんにそう問いかけた。
「…何言ってんだ。潔に何があった??」
「落ち着け、潔は無事だ。怪我も小さい。ただ…見た目じゃ分からねぇ事もあるだろ…?」
そっと凪のほうに目を向けると目が合った。
「ばちら…」
凪が手招きをして口パクでそう呼んだ。
凛ちゃんと玲王の後ろを横切って凪の横へと座った。
「難しい話は嫌いだからさ、潔の母さんと玲王の話は分からない。けど俺でも理解できたのはね___。」
凪が俺の耳元に囁いた。
その言葉で全てが繋がって行く。
軽い怪我で済んだのはこれから先もっと辛いことがのしかかってくるから。
玲王が冷静で居ろとしつこく言いかけるのは数分後の凛の反応を知っているから。
凪でも理解ができたのはあまりに単純で単純さとは裏腹に胸を切り裂くような痛みが伴ってくるから。