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5日後、私はアドルフさんと一緒に、クレントスのアイーシャさんのお屋敷を訪れた。
こちらからは近況と新しい街での作業進捗を伝えて、あちらからはクレントスと王国側の近況を教えてもらった。
クレントスは引き続き周辺地域から人が多く集まってきているものの、それ以外は大きな問題は無い――
……と見せかけて、実は王国側がまた侵攻を画策している、という噂があるらしい。
王族内での権力闘争がまだ終わっていないので、今すぐどうということは無いらしいが、沈静化してしまえばどう転ぶかは分からない。
そのため、アイーシャさんは仲間たちをフル動員して、その対策に早々と当たっているそうだ。
いざとなれば私たちもお手伝いすることを約束すると、アイーシャさんはとても喜んでくれた。
何せ私たちの戦力は、少人数ながらも大したものだ。きっと戦いの役に立つことができるだろう。
それにクレントスを突破されてしまえば、私たちの新しい街にも辿り着かれてしまう。
従ってクレントスを守り抜くことは、利益の観点からしても大切なことなのだ。
――まぁ、簡単に言うと『お互い様』。利益に基づいた同盟……って感じになるのかな?
「本当、アイナさんがいてくれて助かりました。
周辺の街からは人が集まっているのに、街を治める貴族たちからは何の反応も無いんですよ。
……分かってはいましたけどね」
話の途中、アイーシャさんがため息をついた。
クレントスは力技で王国からの決別を選択したものの、それに追随する街は当然のように無い。
例えばミラエルツなどは、傍観を決め込んだりしているのだ。
「それってやっぱり、クレントスが辺境だから……ですか?」
「はい、所詮は田舎の街ですから。
クレントスには大きな産業も無いですし、観光するような場所も無いですし……。
私は好きなんですけどね。この街も、人も」
つまり大きなお金が動くことも無いから、放っておいても特に問題は無い……と。
これがミラエルツにでもなったら、採掘という大きな産業もあるし、それを使った良質の武器や工芸品もあるし――
……王国側も、もう少し本気で取り戻しに動くだろう。
「でも、舐めてくれているのはこちらとしては良いことですよね。
むざむざと時間を頂けているんですから」
「うふふ、アイナさんも言うようになりましたね♪」
「そ、そうですか?」
「ええ。最初に会ったときは、とても大人しそうなお嬢さんでしたのに」
「いろいろありましたからね……。自分でもあの頃が懐かしいですよ……」
アイーシャさんと会ったのなんて、私がこの世界に来てからすぐのことだ。
すでに半年以上前とは言っても、かなり昔のことに思えてしまう。
「――そんなわけで、束の間の平和はもう少し続きそうです。
その間に、アイナさんの街を中心にしてこちらも体勢を整えないと」
「え? あれ、私の街が……?」
「私もいろいろと考えたんですけど、やっぱり勢いというものが大切なんですよ。
クレントスは確かに私が確保しましたが、そこからの展望が伝わりにくい――
……言ってみれば、『ちょっと地味』なんですよ」
「えー……。
王都でアイーシャさんの噂を聞いたときは、気が気ではありませんでしたよ……?」
「それはきっと、アイナさんがクレントスと私のことを知っていたからではないですか?
何も知らなければ、案外何も思わなかったと思いますよ」
「そういうもの……ですか?」
「詳しい人はもう少し違うかもしれませんが、一般の方の話をするとそんな感じです。
……話を戻しますね? 私はクレントスをより良くしようと思ってはいますが、それは一足飛びには叶えられません。
だから何も変わらなく見える日々が、結構続いてしまうんです」
「ふむ……。それに比べれば、私たちがやっていることは分かりやすい……と」
「ええ。国や街を作るだなんて、とても目立ちますから。
だから私たち――クレントスとしても、アイナさんを全力で応援する方向に舵を切りたいんです」
……おっと、これは予想外の展開……。
そもそもアイーシャさんがクレントスを手中に収めようと考えたとき、私の存在は計算に入っていなかったはずだ。
しかし最近の私の動きから、手を取り合った方がいろいろとスムーズに行くと判断したのだろう。
「私としても、アイーシャさんとは上手くやっていきたいです。
それに、クレントスは私も好きな街ですから」
「そう言ってくれると嬉しいです。
アイナさんが国を作った暁には、ここは『衛星都市クレントス』を名乗ろうかしら」
「あ……。私の国に入って頂けるんですね!」
「できるのであれば、そうしたいところですね。
軽い話ではないので、簡単にはお約束できませんが」
私の街はこれから大きくなっていくとは言え、今はまだろくな建物が無い。
クレントスが王国からの防波堤として存在してくれるのであれば、言い方は悪いが、それは何とも心強い限りだ。
「それでは今度とも、アイーシャさんの期待に添えるように――街作り、国作りを頑張りますね!
……つきましてはその、ひとつお願いがあるのですが……」
「お願い? 何ですか?」
「ここからはアドルフさん、お願いします」
突然アドルフさんに話が振られ、アイーシャさんは少し驚いたようだった。
しかしアドルフさんは、落ち着いた感じで『その話』を切り出してくれた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「――うーん、なるほど……。
ルイサさんが欲しいのね……」
アイーシャさんは少し困った感じで呟いた。
「はい。これから作る街には、なるべく早い段階で大量の宿泊施設が必要になるんです。
アイナさんから聞いた話によれば、ルイサさんは『世界一の宿屋』を目指していたのだとか」
「ええ、それは本人から聞いたことがあるわ。
旦那様が亡くなって以来、その目標を失ったとも……」
「いかがでしょう。クレントスでの戦いが始まるまでは、本人が宿屋を切り盛りしていたと聞いております。
きっと好機さえあれば、今ならその夢を――」
「……そうね、ルイサさんがそれを望むのであれば、私からは何も言うことは無いわ。
寂しくなるけど……」
「はい。……申し訳ございません」
ルイサさんはアイーシャさんにとって、心を許せる数少ない人だ。
そんな人物をアイーシャさんから引き離そうとしているのだから――やはり私としても、申し訳ない気持ちが溢れてくる。
それに彼女たちだって、少なからず強い絆で結ばれているはずだ。
だからこそ、今回はアドルフさんを通して話をしてもらうことにしたのだ。
アドルフさんは以前からアイ―シャさんのことを知っていたし、それに何より年の功があるから――
「……ごめんなさい、少しアドルフとお話をさせて頂けませんか?
それと、ルイサさんともお話をしないと」
「分かりました。それでは私は失礼します」
「ええ。アイナさんも頑張ってくださいね」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「――はぁ……」
私がお屋敷の外に行くと、門の外でルークとエミリアさんが待っていてくれた。
「アイナ様、お疲れ様です。
アドルフさんはどうしたんですか?」
「んっと、もう少し話をしたいってことで、私だけ出てきたの」
「難しそうな感じでした?」
「ルイサさんはアイーシャさんの仲間ですからね。
私だって仲間の誰かを引き抜こうとされたら、あんまり良い思いはしませんよ」
……改めて口に出すと、結構酷いことを言ってしまったのでは……と、後悔の念が押し寄せてくる。
やっぱりルイサさんにお願いするのは止めておいた方が良かったかなぁ……。
でも『世界一の宿屋』の夢を聞いてしまっていたから、絶対にお願いしたかったんだよなぁ……。
「……心中お察しいたします。
しかしここはアドルフさんに任せて、私たちは他の用事を済ませることにしましょう」
「あー、そうだね。
次はポエール商会に行かなきゃ……の前に、リリーを連れてこないと」
「時間は少しありますから、気分転換しながら行きましょう。ね?」
「そうですね……、ありがとうございます」
――例えばアイーシャさんが、エミリアさんを引き抜こうとしたら。
うーん。考えただけで嫌な気持ちが生まれてしまう。
……あー、やっぱり打診しなければ良かったかなぁ……。