※死ネタ注意
kwmr side
愛してるという言葉は溜息とともに飲み込んだ。
福良が死んで1年が経つ。緩く鼻を掠める線香の匂いは、その虚しさを綺麗事のように表現していた。
m「………ただいま、ふくら」
……………。
静寂。
ああ。今、福良が、あの天使のような表情で「おかえり」と微笑んでくれたら、どんなに幸せだろう。
今は叶わない。
あの、あの、
福良が、事故に遭ったと。切羽詰まった様子の伊沢から電話が掛かってきた時。
忌まわしい記憶よ。忘れたい、忘れられない。
病院に着いた時にはもう既に手遅れだった。
陶器のような、人形のような、彫刻のような、美しい美しい顔をした福良の手は、僕を夢から覚ますように、まだそちらには向かうなという警告のように、
ひんやりと、冷たく、そこに在った。
あの氷のような冷たさが、今も指先に残る。珍しく泣いたなぁ。親友であり、相棒であり、ただ一人の恋人だった福良が、これから、僕の物語には登場しない、だって?
その悪夢は日を増すごとに現実味を増していった。
喪失感と絶望感。
あの日から毎日のように悪夢を見る。あの、福良が死んだ日の、冷たい手の記憶。
___生前の日々を、柔らかい笑みを、彼の体温を。
ふわりふわりと脳内に思い起こしながら、どうか、どうか、来世ではもっと幸せでいて、と、静かに手を合わせた。
額縁の中の彼は、穏やかに笑っていた。
m「……寂しい?」
だけど、どこか、寂しげで。まるでこちらに居る僕を誘うように。
僕もそっちにいきたいなぁ。
福良がいない世界なんて、生きる意味がないんだよ。お前も、もう、分かっているんだろう?
ねぇ、ふくら。
福良。
福良?
ねぇ。
僕は、一年も待ったんだよ。こんなに頑張ったんだから、もう、いいでしょう?
もう、__潮時、でしょう?……______
くるりと後ろを向くと、そこには、青く煌めいた海が、どこまでも美しく広がっていた。
「こっちにおいで」どこからともなく、手招きをする声が聞こえる。
m「…………そっか……………。」
ああ。ああ、もう、いいんだね。……
もう、こんなに痛くて苦しくて、つらいこと。
やめにしようか。
m「うん、そう、もうすぐ着くよ____………」
大丈夫だよ、福良。
今からそっちへ行くから。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!