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「そうでしたか・・・なんとも・・・はや・・・私はとんでもない勘違いを・・・ 」
頬を赤らめながらお福は、成宮牧場入場ゲート事務所の応接ソファーに座り、悪どい鬼畜だと思っていた成宮北斗に、入れてもらったコーヒーを啜っていた
ズズ・・・ああ・・・美味しい・・・・・
成宮北斗は現時点では、自分に対する礼儀は完璧だった。お福の荷物を持ち事情をきちんと説明させてほしいと、事務所に連れてきてくれて、こんな美味しいコーヒーを入れてくれている
お福の向かいで長い脚を窮屈そうに折りたたんで、姿勢よく座っている北斗が言った
「いいえ・・・お福さん、あなたがさっき言った通り、俺のしていることは確かに人でなしです。本来なら伊藤の先代の大切なお嬢さんを、嫁に貰うのならば、それ相応の事をしなければいけない、それは俺も重々承知です 」
北斗がため息をついた
「ただ・・・彼女をここに連れて来た時点では、うちはとても多く問題を抱えていたんです。そしてそれのすべてを彼女が解決してくれた・・・一番下の言葉があまり喋れない7歳の弟は、彼女が来てからそれはもう別人のようになってしまった」
「あなたの・・・ご両親は?」
「母親は二番目の弟が4歳の時死にました、父親は俺が19歳の時にこの牧場と借金を残して死にました・・・その頃後妻・・・俺達には継母がいて、その女も末の弟を産んで蒸発してしまいました・・俺達には借金と生まれたての赤ん坊だけで、危うく住む家さえ借金の肩になくなる所でした」
「なんとか弟とがむしゃらに働き、ようやく先が見えて来た所に・・・末の弟がまともに喋れない障がいがあるとわかったんです」
お福は同情した顔でじっと北斗の話を聞いていた
この人は若いのにとても苦労している。だからからこそ先ほどのお福の勝手な、思い込みの罵詈雑言も許し、人の温かみに触れるような姿勢を取っているのだ
「まぁ・・・あなたにそんな小さな、弟さんが・・・それではうちのお嬢様が手助けをしているのね」
北斗の眼差しがやわらいだ
「彼女にはとても感謝しています。彼女を妻に娶れたことは俺にとって、この上ない幸運です・・・でも自分達が大変だったからと言って、俺の身勝手な行動で彼女のお身内や、彼女を思ってくださっている人達に対して無礼を働いてこれほど心配させているなんて・・・もっと考えるべきでした。今とても申し訳ないと思っています・・・ 」
じわりと温かい北斗の言葉にお福の目に、涙が浮かんだ
なんとこの人はとてもしっかりした人だ、なんだかここへきて、安心した・・・・お嬢様は不幸ではなかったのだ
そして・・・この人はこの福が、「旦那様」とお呼びするのにふさわしい人だ
お福は北斗に微笑みながら言った
「いいえ・・・旦那様・・・とお呼びしてもよろしい?あたしの方こそ・・・・勝手に想像して旦那様を悪人に仕立てて・・・申し訳ありません・・・そう・・・ご事情があったのね・・・」
磨き抜かれたカントリー調の床に、来客用の黒の革ソファーに座り微笑んでいる北斗は、どこかの西部映画から抜け出て来たような風貌で
こんな人がうちのお嬢様の旦那様なんて、お福はまったく想像していなかった
「歓迎しますよお福さん。どうぞ気が済むまでこの牧場に滞在してください、母屋の一番良い部屋を用意しましょう、アリスともゆっくり話をして・・・俺は彼女の口からここで幸せに暮らしていると、言ってくれる事を心から願っています」
グス・・・
「なんて温かい言葉でしょう・・・」
お福はそっと涙を拭った、そしてパンッと手を叩いて立ち上がった、心に明るい希望が灯る
「それじゃぁ!アリスお嬢様に合わせて頂きましょうかね!こんな素晴らしい旦那様の奥様をやっているんですもの、さぞやこの牧場を立派に切り盛りして、旦那様を支えていらっしゃるんでしょうね。ええ!あたしがそうお育てしたんですもの、きっと素晴らしい新妻になられていることでしょう」
お福の不安も去り、希望に瞳を輝かせている
「きっとこの牧場の従業員の人にも、さぞかし尊敬されているはずですわ、ちょうど今は朝食時でございましょ?ああ・・目に浮かびますわ、お嬢様が立派にお台所仕事をこなしているのを、人手がいるならあたくしもぜひお手伝いさせて頂かないと」
お福が瞳をキラキラ輝かせて北斗に言う
「・・・・・・・・ 」
北斗は微笑みを貼り付かせたまま、なぜか静止画のように動かなくなった
何を隠そう伊藤家では
別名「早とちりのお福さん」
と呼ばれていた彼女が真実を知るまであと20分
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お福は北斗の家に案内されて、寝室でガーガーいびきをかいて寝ている、アリスを目の当たりにして、信じられない気持ちでプルプル震えていた
アリスは大の字になって大いびきをかいている。北斗に着せてもらったパジャマははだけ、なさけなくお腹が丸出しだ
むにゃむにゃ・・・「う~~ん・・・ほくとしゃん(はぁと)・・・」
ズボンのゴムの所が痒かったのだろう、アリスは自分のお腹を寝ながら、ボリボリ掻いた
「おっ・・・・おっ・・・」
ゴゴゴと地面が揺らぐような、お福の醸し出す空気が歪んだ
「お嬢様~~~~~~~~!!!(怒)」
その時とうとうお福の雷が落ちた
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「まぁったく!!ご自分の旦那様が朝から汗水垂らして働いていらっしゃるのに。嫁は昼前まで寝てるなんて!あたしゃお嬢様をそんな怠け者にお育てした覚えはありませんよ!」
「だぁってぇ~・・・・北斗さんが寝てていいよってぇ~・・」
ボサボサの頭でパジャマから、着替えをしながらアリスが言う
「いいですか、お嬢様!夫婦というものは結婚すればもはや、世間では二個一として見られるんです!いくら旦那様が素晴らしいお方でも、嫁のお嬢様が自堕落な生活をされていては、牧場の評判が悪くなり、敷いては旦那様のお立場というものを、軽くしてしまうものですよ 」
お福は長々とアリスにお説教を垂れる、その間にアリスは顔を洗って歯を磨く、その後ろをクドクドとお福が付いて回る
「私は何も無理にお嬢様に出来ないことを、しろとは言ってるんじゃありませんよ!せめて牧場主の旦那様のお顔が立つような、振る舞いをして下さいと申し上げているんです。それには旦那様の意見は関係ございません!お嬢様が牧場主の妻として何が出来るかをお考えになり、積極的に成し遂げて行くことです」
「そうだけどぉ~~~」
アリスがお福の言葉を遮る
「考えてみれば牧場主の妻だって、雇われの働き手と同じ牧場をうまく回していく、ために欠かせない一員ですよ! 」
アリスもようやくお福の言うことに納得し出した、たしかにここへ来た当初はそう考えていたのにすっかり緩くなってしまっていた
「旦那様に色々教えてもらいましたけどね、今8人の男性の働き手さんが必要とする洗濯物!今は個人で持って帰って、お洗濯されているらしいですが、ここで担ってあげられれば彼らはどれほど楽でしょう!洗濯と言う余計な家事が一つ減るだけで彼らは、一日でどれほどの安らぎが得られるでしょうね」
「それもそうね・・・」
お福が得意げに人差し指を掲げ言う
「それに言うまでもなく成宮家の活動的な、肉体を支える食事の事を考えますとね!旦那様はお昼は従業員の皆さんと一緒に仕出しのお弁当を頼まれているそうですよ!」
「まぁ・・・知らなかったわ・・」
アリスは反省した、よく考えたらここ最近は北斗さんの優しさにすっかり甘えてしまって、彼の負担を軽くしてあげようと考えたことなかった・・・
「それにお嬢様が母親になった時に、子供に食べさせる手料理一つ作れないでどうするんですか?旦那様は牧場のお仕事に、弟さん達のお世話にと大変なのに、その上子育てまでさせる気ですか?」
お福の言葉にハッとした
私が母親・・・二人の子供・・・
アリスは息をつめてまだへこんだお腹に、恭しく手を置いた
自分の中で赤ちゃんが育っていることは、あり得無くはない、もしそうならなんて素晴らしいのだろう、あの北斗さんの子だ
彼の子を産むと考えただけで目に涙が溢れた
きっとアリスが大好きなあの三人特有の、成宮家独特の笑い方をする太い髪の子だ、甘い匂いのする、桃色のほっぺをした子・・・男でも女でも
彼の子供にわんさか囲まれて、北斗さんはとんでもない親バカになるの・・・
きっとなるに違いないわ
彼はこれまでずっと弟達に自分の人生を捧げ、食べ物と服と安全な住まいを確保するために、苦労して働いてきたのだから
少しくらいはいい思いをしてほしい