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宮殿内は豪華絢爛で、もっと圧倒され、すぐさま使用人達の注目の的となった。
「あの方がエルバート様の胃袋をお掴みになられたフェリシア様?」
「これからエルバート様と共にルークス皇帝とお会いなされるそうよ」
「すごいわ。けれど、フェリシア様は今後エルバート様にご婚約を破棄され、エルバート様は正式にアマリリス嬢をお選びなられるとの噂よ」
「そうなの? もし噂がほんとうならお気の毒ね」
そんなコソコソ話を聞いても、圧倒されているせいか、さほど気にならず、
やがて、執務室の前でルークス皇帝の側近が足を止め、フェリシア達も立ち止まった。
「こちらが控え室となります」
「控え室が執務室だと? 貴賓室の間違えではないか?」
エルバートがルークス皇帝の側近に問いかける。
「いつもおられる場所が落ち着くと思い、執務室と致しました。ルークス皇帝のご準備が整うまでこちらでしばらくお待ち下さい」
ルークス皇帝の側近が執務室の扉を開け、ディアムは廊下で見張る為、フェリシアとエルバートのみ中に入る。
するとメイドがワゴンで紅茶とお菓子を持って来て、テーブルに置き、出て行くと扉が閉まった。
(ここがいつもご主人さまが執務をなされているお部屋……。書斎よりも広いわ)
そう感激していると、
エルバートがソファーに座る。
「フェリシア、隣に座れ」
フェリシアは声をかけられ、ハッとした。
(つい、嬉しくて、ご主人さまを置き去りにしてしまっていたわ)
「は、はい」
フェリシアはエルバートの隣に座る。
そして、エルバートと共に紅茶を一口飲む。
(あ、美味しい……)
少し気持ちが落ち着くと、廊下でディアムが誰かと話している声が聞こえ、扉が開く。
優しそうな青年、明るく元気な青年、顔が整った青年が続けて入って来た。
するとエルバートは嫌な顔をする。
「ディアム、なぜ私に一言もなく開けた?」
「書類を持って来たとのことですので」
「だからここは嫌だったんだ」
「まあまあ」
ディアムがなだめ、エルバートは、はー、と息を吐く。
「あ、あの、ご主人さま……」
「私と同期のアベルとシルヴィオそして一つ年下で部下のカイだ」
「は、初めまして。フェリシアと申します」
挨拶をし、会釈すると、アベル達も初めましてと会釈した。
「貴女が噂のフェリシア様か。お会い出来て良かった」
「なるほど、軍師長が胃袋掴まれたのも分かるなぁ」
「ふん」
アベル、カイ、シルヴィオが続けて話すと、エルバートの機嫌が更に悪くなる。
「書類を早く置いて出て行け」
エルバートが命じると、アベル達は慌てて書類を机に置き、出て行った。
「全く……」
エルバートはそう言い、顔を右手で覆う。
(ご主人さまの慕われている姿を間近で見られて良かった……)
* * *
その後、ルークス皇帝のご準備が整った、とルークス皇帝の側近が呼びに来て、フェリシアはその後に続き、エルバートとディアムと共に皇帝の間へと向かう。
そして進む度に天井の煌びやかなシャンデリアと窓の美しさが増していく皇帝の間に繋がる廊下にも圧倒されつつ、歩いていき、
皇帝の間の前で立ち止まる。
(この奥にルークス皇帝がいらっしゃるのね……)
フェリシアの緊張が高まると、ルークス皇帝の側近が声を上げた。
「ルークス皇帝、フェリシア様とエルバート様がご到着されました」
間もなくして、ルークス皇帝の許しが出て、扉番により扉が開かれ、
フェリシアはエルバートと共に中に入った。
* * *
そしてフェリシアは、まるで別空間に入ったかのような感覚に陥りながら、
床に敷かれた長いレッドカーペットの上をエルバートを後ろに連れて歩いていき、
ルークス皇帝へと近づくと、王座の階段の前で、フェリシア達は跪く。
「フェリシア、そしてエルバートよ、顔を上げよ」
フェリシア達は跪きながら顔を上げる。
(帽子のショートベール越しでは、よくルークス皇帝のお姿が見えないわ…………)
「フェリシアよ、顔が良く見えん。帽子を取れ」
フェリシアは命じられた通り、帽子を取る。
すると、天蓋付きの玉座につくルークス皇帝の姿が鮮明に両目に映った。
美しい紫髪に、エルバートが言っていた通り、優しく穏やかな雰囲気で、
(まるで、神様のようだわ)
「ほう、これは別嬪であるな」
フェリシアは唖然とし、エルバートも驚く。
(わたしが別嬪!? お世辞かしら…………)
「フェリシアよ、会えて嬉しく思うぞ」
「どうだ? ここは心地良いだろう?」
そう言われて気づいたけれど、確かにとても気分が良く、体も軽くなっているような。
「はい、とても心地が良いです」
「ここは特別な結界で守られているからな」
「そして今日、エルバートにここに連れて来させたのは、お前のことを知りたいと思ったからだ」
「よって、フェリシアよ、我の元へ上がってまいれ」
「か、かしこまりました」
(わたしのようなものが、ほんとうに上がっても良いのかしら…………)
フェリシアはそう思いつつもルークス皇帝に命じられた通り、玉座の踏段を上がっていく。
するとルークス皇帝が玉座から立ち上がる。
「右手の甲を差し出せ」
「は、はい」
フェリシアは右手の甲を差し出す。
「少しの間、触れる」
ルークス皇帝はそう言い、フェリシアの右手の甲に触れた。
そしてルークス皇帝は納得すると、触れるのを止める。
「エルバートよ、そのような顔をするな」
(あれ……? ご主人さま、なんだか不機嫌……?)
「我に嫉妬か?」
「断じて、違います」
エルバートは否定する。
「そうか、我の勘違いであったか。フェリシアよ、戻って良いぞ」
「は、はい」
玉座の踏段を下がり、元の場所で跪くと、
ルークス皇帝も玉座についた。
「フェリシアよ、お前がブラン公爵邸、そしてブラン伯爵邸を出てから魔に襲われたことはすでにアベルやエルバートから聞いて知っている」
「そして、その原因を先程触れて確かめてみたが」
「アルカディア皇国には、魔から清らかな光により民を守った祓い姫の伝説の逸話があり、その存在は未だ誰も目にしたことはない」
「しかしながら、お前の生家、オズモンド家については亡き前皇帝から聞き及んでいるが、祓い姫もお前の両親と同じく、力が強い家系で生まれ、魔によく狙われていたことから」
「フェリシア、お前はその祓い姫の可能性があると我はみた」
フェリシアとエルバートは両目を見開く。
(わたしが、伝説の祓い姫? そんなまさか……)
「まあ、驚くのも無理はない」
「だが今は、一つの可能性に過ぎないによって、心に留めておく程度で良い」
「か、かしこまりました…………」
フェリシアがそう答え、ルークス皇帝が微笑み、良い感じの雰囲気になった時だった。
エルバートとルークス皇帝は同時にとてつもない気配を感じ取る。
その瞬間、フェリシアとエルバートの後ろに透明な何者かが立ち、その姿が徐々に鮮やかとなっていった。
全体に模様が描かれ透き通り、銀河のような身体を魔法使いの格好で隠し、左右の手をそれぞれ袖の中に入れて合わせ礼をする仕草をした異形な魔法使いのような姿のアンデットの魔が姿を現す。
そして魔は、渡セ、とフェリシア達3人の精神に声を響かせ、エルバートとルークス皇帝の動きを一瞬封じ、エルバートに襲い掛かる。
「ご主人さま!」
フェリシアは叫び、エルバートをとっさに庇う。
すると魔に弾き飛ばされる。
(あぁ、ご主人さまをお守りできて、よかった…………)
ガンッと床に頭を打ちつけて倒れ、フェリシアはそのまま意識を失った。