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「 ニャンコ先生 。 こんな時期にまだ桜が咲いているよ 」
「 ただ 、もう枯れてしまいそうだ 」
『 … 』
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サクラ
《夏サクラ》
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「 オイ夏目 。 草陰からずっと妖がこちらを見ているぞ 」
「 え あ 、ほんとだ 」
草陰から美しい桜色の髪が見える 。
容姿は人間に近いが 、人間と呼べないほど
その妖の体は透き通っていた 。
『 桜 。 私のお家なの 』
そう声を出す妖は 、今にも消えてしまいそうだった 。
「 名前は ? 」
『 サクラ 』
「 そのまんまのつまらん名前だな 」
ニャンコ先生がそう口にした 。
俺は咄嗟に先生の口を抑えて謝った 。
サクラはニコリと笑っていた 。
『 この桜は 、私の 寿命を表しているの 。』
桜を見ながら説明を始めた 。
『 本当は ずっと前から咲いていたんだよ 。1度も枯れることなく 』
その真実に驚かされた 。桜が春夏秋冬 咲いているのは見たことがないから 。
この道は新しく出来た綺麗な道 。
今まで森に隠れていて 気が付かなかったのだろう 。
『 でも 、道を人が作り始めて 、木がドンドン切られて 。 栄養が無くなったこの桜の木は 、もう1枝しか桜が咲いていないの 。』
切ない表情をしながら俺を見つめてくる 。
『 夏目レイコ 。 レイコにあなたはとても似てる 』
祖母のことを知っていたのであろう 。
「 サクラは 名前が友人帳に載っているのか? 」
こくりと頷き 口を開く 。
『 レイコが 私を素敵な場所まで連れていってくれたの 。 私はもう この世にはいれないから 。』
『 お願い 。 私を その場所まで連れて行って 。』
涙ぐんでお願いされては流石に断れなかった 。先生は大反対していたけれど 。
桜の木下を1台の車が通って行った 。
道に落ちた桜はヒラリと舞い上がりサクラの頭へと静かに乗った 。
サクラは嬉しそうな哀しそうな目をしていた 。
どんな場所か聞いたところ 、差程遠い場所ではなかった 。
そこまで歩いて向かい 、数十分後に到着した 。
『 ……!! 綺麗 。』
そう呟きながら雫を垂らす 。
『 レイコに似た人物 。 ありがとう 』
「 俺は 夏目 、夏目貴志 。」
サクラは何度も名前を唱えていた 。
『 ねぇ 。 私はもう長くない 。 だから』
『 名前を返して貰えないかな 』
祖母レイコはサクラからも名前を取っていた 。
勝負をした訳では無いらしい 。
サクラが見たかった景色を祖母がみせたお礼だったそうだ 。
「 サクラ 君に名を返そう 。」
そう言い俺はサクラの名前が書かれた紙を 口に加えた 。
目を瞑り手を叩く 。 サクラの体に名が入り込むのが分かる 。
『 レイコ ! 今日も来てくれたんだね !』
「 この前見た景色は綺麗だったでしょ 」
『 うん ! 凄い綺麗だった ! 』
「 また 、いつか 見せてあげるからね 」
『 レイコ 。 何で来ないの 。』
『 あぁ。そうか 人間の寿命はほんの少しなのか 。』
『夏目 ありがとう 』
サクラの記憶が頭に流れる 。
いつだって彼女は 、この景色を忘れなかったのだろう 。
ゆっくりと 、瞳を開けると
彼女姿は消えて無くなっていた 。
最後のありがとうは記憶ではなく 、今のサクラが放っていた言葉だと 数秒後に理解した 。
桜の木が咲いていた 、サクラの家に向かった 。
残りの1枝は子供たちにより折られていた 。サクラが消えたのは 、これが原因だろう 。
拳を握り俺は唇を噛み締めた 。
もう少し早くこの場に戻っていたら 、。
「 あいつはもう寿命だった 、時期にこの桜も散るはずだ 。」
先生の言葉は耳を通り抜けていく 。たった一言を除いて 。
「 しかし 、また桜が咲けば 、戻ってくるのかもしれないな 。」
その言葉を胸に留め 、来年の春を待つことにした 。
風がなびき道端の桜は一斉に舞う 。
枝の桜も散りながら宙を舞う 。
桜は空高くまで上り落ちては来なかった 。
サクラの後を追ったようだった 。
𝑒𝑛𝑑