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フェリーに乗る前に、お世話になった井上ご兄弟の家に寄って、お礼を告げてから船着場に到着すると、親父とお袋がにこやかな顔で出迎えてくれた。


「忙しいのはわかっているけれど、年末年始くらいはこっちに顔を出しなさいね」

「休日の当番医にならなきゃ、帰ってくるから。コイツも一緒にいいでしょ?」


ひょいと指を差したら、歩が瞳をキラキラさせて、あからさまに喜ぶなんて――


「学生のうちは勉強が忙しいだろうから、無理して来なくてもいい。煩いのがひとり減って、清々する」

「うーっ、お父さん……」

「まったく! 何度もお父さんと言うなって、あれだけ――」


怒鳴りかけた親父が、うっと言葉を飲み込む。


さっきまでキラキラしていた歩の瞳が、今度はうるうるしたものに変わり、穴が開きそうなくらい、親父を見つめていた。


「もうしばらく、お父さんに叱られないんだなぁと思ったら、寂しくなっちゃいました」


言うなり、いきなり親父にぎゅっと抱きつく。ヒッと小さく叫んで固まる顔が、かなり笑える。


「歩、そろそろ乗り込むぞ。お父さんって呼ぶのを許可されるまで、そこにいてもいいけどね」


ひらひらと片手を振って颯爽と歩き出したら、慌てて隣に並んでくる。


「タケシ先生の分まで、お父さんに抱擁しといたから!」

「そうかい……」


お節介焼きだなと呆れながら歩き出した瞬間、二の腕を捕まれた。てっきり歩だと思って、振り解くべく力を入れたら、痛いくらいに握り締めてくる。


「バカ犬、いい加減にし――」

「武……」


親父の声にハッとして、足が止まってしまった。横で歩が、何故だか含み笑いをしているのが謎すぎる。


「掴んでる手……結構、痛いんだけど」


この状況がどうにも照れくさくて、そっぽを向いて言ってやったら、素早く放して背中を向けた親父。


「……あんまり、王領寺くんを苛めるんじゃないぞ」


(いきなり、何を言い出すかと思ったら――)


「わかってる。嫌気がさして、捨てられたら困るし」

「病院、忙しいかもしれないが無理はするな」

「ああ。休めるときは、きちんと休んでいるから大丈夫」

「あと……その、なんだ――」


チラチラと振り返り、遠慮がちに俺たちを見やる視線に、首を捻るしかない。


「言いたいことがあるなら早くしてくれないと、フェリーが出航する」


言いながらフェリーに指を差したら、勢いよく振り返り、ぎゅっと両目をつぶる姿があって。よく見ると、若干目尻が濡れているように、見えなくもない。


「うっ! あんまり喧嘩をするんじゃないぞ。しっ幸せにな!」


周りに聞こえるような大きな声で言い放つと、お袋を置いてそのまま走り去ってしまった。


親父の奇行に呆気にとられていたら、フェリーが汽笛で出航の合図を知らせる。その音に導かれるように、歩と一緒に中へ入った。

恋わずらいの小児科医、ハレンチな駄犬に執着されています

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