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第五話:ふたりだけの聖域
ミュンヘン郊外に佇む、深い森に囲まれた古きゴシック様式のチャペル。
今日、ここでミヒャエル・カイザーとアレクシス・ネスの結婚式が執筆される。しかし、ステンドグラスから厳かな光が差し込む大聖堂のなかに、招待客の姿は一人もない。
「本当に、誰も呼ばなかったんですね。カイザー」
祭壇の前で待つカイザーのもとへ、ネスがゆっくりと歩み寄る。あの日、プライベートサロンでカイザーの手によって手酷くシワにされ、買い取られたあの純白のタキシード。メゾンの職人に完璧に仕立て直されたそれを、ネスは再び身にまとっていた。けれど、ハイカラーの襟元からは、あのサロンのソファでカイザーが深く刻み込んだ赤紫色の痕――消えない刻印が、今もなお微かに覗いている。
「当たり前だ。世界中に俺たちの関係を見せつけてやるのは、明日以降のメディア発表だけで十分だ。神聖な誓いの瞬間に、俺とお前以外の呼吸が存在するなんて耐えられねぇ」
カイザーは振り返り、愛おしそうに目を細めた。彼の纏う漆黒のタキシードは、ネスの純白と対をなし、二人が並ぶ姿はまるで一枚の完成された絵画のようだった。
「あのサロンで言っただろ、ネス。『二人きりで誓い合ってもいい』って。お前の望み通りにしてやったぜ」
「ふふ……。僕の些細な言葉を、そんな風に叶えてくださるなんて。やっぱりあなたは、僕の完璧な王様です」
ネスは嬉しさに胸を詰まらせ、カイザーの前に跪こうとした。しかし、カイザーはその細い手首を掴み、強引に立ち上がらせる。
「今日からは跪くな。お前は俺の足元に跪く奴隷じゃない。俺の隣で、同じ景色を見る妃だろ」
カイザーの青い瞳が、まっすぐにネスを射抜く。プロポーズの夜に贈られたブルーダイヤモンドの指輪が、ネスの左手薬指で静かに、けれど絶対的な存在感を持って輝いていた。
カイザーは自身の左手を差し出し、そこには同じブルーダイヤモンドが嵌められた一回り大きな指輪があった。
「さぁ、誓え、ネス。健やかなる時も、病める時も。ピッチの上でも、世界の果てでも。お前のすべてを、俺のゆりかごのなかで溺れさせると」
ネスは震える手でカイザーの指輪を取り、その薬指へと滑り込ませた。
「誓います、カイザー。僕の心臓の音も、流れる血も、あなたという王のためだけに捧げます。あなたの愛の檻のなかで、僕は永遠に幸せです」
今度はカイザーが、ネスの薬指の指輪にそっと触れ、そのまま彼の手の甲に深く口づけを落とした。神父も、参列者も、祝福の拍手もない。ただ、ステンドグラスを透過した青と赤の光が、二人の影を一つの歪で美しい輪郭へと縫い合わせていく。
「愛してるよ、ネス。お前を一生、俺の薔薇として閉じ込めてやる」
「はい、カイザー。死が二人を分かつまで……いいえ、死んでもなお、あなただけを愛しています」
誰もいない聖域で、二人は誓いの唇を重ねた。外の世界を完全に拒絶した、二人だけの狂おしく、そして世界一美しい結婚式が、今ここに完成した。
(短いと思いますが完結です。読んでくれてありがとうございます。次もお楽しみに♪
♡、めちゃありがとう御座います。まだアプリ入れてそんなに一ヶ月も経ってないのにこんなに好評でめちゃ嬉しいです!1週間の間活止します。よろしくお願いします。できれば投稿はします。🙇)