そこから日、月、火…と妃馬さんと出会い、いつも通りになっていた大学で音成や妃馬さんと会い
鹿島がいるときは、鹿島と一緒に4人で帰り、たまに匠もいるときは大学の最寄り駅まで5人で帰り
そこから鹿島は逆方向の電車に、音成、妃馬さん、匠、僕の4人で電車に乗り帰り
3回に1回くらいのペースで妃馬さんと僕がどこかへ行って、音成と匠、2人だけで帰らせたり
逆に音成と匠が大学後のデートのため離脱して、妃馬さんと2人で帰ったり
珍しく森本さんがいたときは大学の後、女子3人で遊ぶのでと言われ、1人で帰ったり
たまに森本さんとも一緒に帰ったが6人が揃うことはなかった。
そして、夜には鹿島、匠と実況を撮ったり、実況を撮らず、ただ楽しくゲームしたり
実況のゲームのお誘いもなく、テレビを見て、眠くなって寝たり
撮り溜めた動画を編集したりして過ごしているとあっという間にカレンダーは7月になった。
朝のニュース番組の天気予報でも気温が20°を下回ることはなくなった。
Tシャツの襟口の下の辺りを掴み、パタパタとTシャツの中へ空気を送り込む動作をすることが増えてきた。
「嫌ぁ〜な暑さな」
「わかる」
「わかる」
その日はひさしぶりに鹿島、匠、僕の3人で外で遊んでいた。
大吉祥寺でゲームセンター行ったり、服や靴を見たり
特にこれと言ってなにもしていないのだが、井の蛙公園で3人で休憩していた。
「今日何度?」
「さあ」
「知らん」
「てかなんで今日集まったん?」
「いや、なんとなく3人で外で遊びたくて」
「小学生か」
「つかさっきのゲーセンマジ…」
「めっちゃ擦ってたねぇ〜匠ちゃん」
「いくらいった?」
「3千いかないくらい」
「マジかよ」
「あのフィギュア欲しかったん」
「欲しかった。あれレアなんよ」
「え、そうなの?」
「いや、たぶんフィギュア自体はレアじゃないんだけど、あれ「後輩が悪魔」って作品のキャラなんだけどさ」
「後輩が悪魔?」
「ほお」
「その作品自体マニアックな作品なのよ。
しかも普通の頭身のフィギュアじゃなくてデフォルメされた2頭身のなのよ。可愛い可愛い。
だからまあ、その…なに?あのクレーンゲームのコーナー担当の人?センスいいなぁ〜って」
「あ、そゆことね。あのフィギュアがレアなんじゃなくて
その作品のグッズがあること自体がレアだったわけだ?」
「そゆこと」
「じゃ、もっかい行く?」
「いいっすか?」
「みんなで協力して取ろう」
「おっけ」
「心の友よ〜」
「どっかのガキ大将か」
「はい」
鹿島が手の甲を上にして前にだす。
「え?なに?」
「円陣円陣」
「円陣?」
「協力して取るぞー!おー!でしょ」
「おっけ。やろ」
鹿島の手の甲の上に手を重ねる匠。
「なんでノリノリなん」
「ほら怜ちゃんも」
僕も匠の手の甲の上に手を重ねる。
「うっしゃー!…なんだっけ?」
「なにが?」
「アニメのタイトル」
「後輩が悪魔」
「うっしゃー!後輩が悪魔のフィギュア取るぞー!」
「「「おー!」」」
手を上に挙げる。なんとなく注目されているようで少し恥ずかしかったが
楽しかったので良しとした。
「どんな話なの?」
「不動産会社の先輩後輩の話なんだけどね。汐田伊織ってキャラが先輩キャラなんだけど
伊織さんを好きな同僚の女性、尾内気恵っていうんだけど、気恵さんと普通に会社に出勤したら
社長が「この子新人さんね」ってエルフ耳のスーツ姿の子を紹介するのよ。
まあ、その子悪魔なんだけどね?でも人間世界では全然経験ないし
不動産業なんて経験したことないから「後輩」って立場なんだけど。
その悪魔の後輩くんヴァロック ルビア ドゥルドゥナードっていうんだけど。
ルビアくんへの教育がまあ、ストイックというか。
パワハラとかそんなんではないんだけど「とりあえずやってみ?」っていう感じで
ルビアくんは先輩のこと「悪魔だぁ〜」って思うんだけど
「いや、悪魔はお前な」っていう感じのコメディー。
んで伊織さんにも「自分悪魔なんです」って告白して、まあ信じて貰うんだけど
さすがに「自分悪魔なんです」「あーそうなんだ」とはならんのよ。
だから翼とか角見せて信じてもらうんだけど、伊織さんあんま表情激しい人じゃないのに
ルビアくんが悪魔だって確信したときの驚いた表情は…。すごかったね。
可愛かったというか。笑った。んで、まあ聞いてたらわかってくれると思うんだけど
日常コメディー系なのね?でもさっき言ったように
気恵さんが伊織さんを好きっていうラブコメ要素もあるのよ。
んで同僚にゲーマーの景馬明観って人もいたり、キャラが濃くて、笑えて、キュンっとするめっちゃ良い作品」
莫大に長い匠の語りに
後輩悪魔くんの名前鬼長いのによくスラスラ言えるなぁ〜
とか感心し、聞きながら歩いてゲームセンターへ向かう。
ロストの下りエスカレーターに乗り、ゲームセンターへ下りる。先程も見た光景。
お目当ての景品があるクレーンゲームの前に行き、匠がかぶりつく様にプレイをする。
僕は素人も素人、鹿島も素人だけど、ゲーム好きなこともあって、手伝ったり、助言したりしてガタン。
「取れたー!」
「いったー!」
「すげー!」
つい僕もテンションが上がった。匠が取り出し口からフィギュアの箱を取り出す。
「やった!マジありがと!」
500円で6プレイ。最初の6プレイはズラしてただけだったが
次500円を入れて3プレイ残してフィギュアが取れた。
「次オレ行くわ」
まだ3プレイ残しているので係員さんを呼んで匠が欲しいキャラのフィギュアを出して貰い、鹿島が挑戦する。
残った3プレイはズラしただけだった。
ゲーマーでもさすがにクレーンゲームは苦手か。と思ったが、やはりさすがはゲーマー。
次の500円6プレイの最後の1プレイでフィギュアを落として見せた。
「うっしゃー!おらー!」
「かっけー!」
「マジか!すげーなマジ」
僕に順番が回ってきて、匠が500円を入れる。6プレイあったが3プレイしたところでセンスの無さに気づき
6プレイ500円丸々無駄にするわけにはいかないと匠に変わってもらった。
さすがに匠は要領が良く、僕の残りの3プレイでは取れなかったものの
次の500円の6プレイの最後の1プレイで取って見せた。その後鹿島がやって…。
エスカレーターを上る匠の手にはフィギュアがたくさん入ったビニールの手提げ袋があった。
「いやぁ〜2人とも、ありがとぉ〜なぁ〜」
「まさか全種類取るとはな」
「オレもゲーマーの血が騒いで気づいたら全種コンプしちゃった」
「さすが鹿島。うまかったなぁ〜」
「ね。助かったわ」
「オレ、クレーンゲームで食っていけるかも」
「それ冗談で言ってるかもだけどワンチャンマジでいけんじゃね」
「それな」
3人で笑った。
「あ、そうだ」
1つ鹿島や匠にも相談したいことがあった。
「ん?」
「どった?」
「ちょっと付き合ってほしいんだけど」
「いやん!急に告白ぅ〜」
「いやん!」
「違います」
「なに?どしたの?」
「付き合ってほしいって?」
「あのさ…」
鹿島と匠と3人で出掛けて1週間後。ホームで電車を待つ。電車を待ちながら
Tシャツの襟口の下の辺りを掴み、パタパタとしてTシャツと素肌の間に風を送る。
今日はいつもよりドキドキしていた。スマホを出し、ホームボタンを押す。
「今日暑いですねぇ〜」
妃馬さんからの通知に頷く。通知をタップ、返信する。
「ワンチャン汗かきますね」
送信ボタンをタップし、トーク一覧に戻り、電源を消して迷彩柄のパンツのポケットにしまう。
駅のホームの自動販売機に近づき、眺める。小銭を入れてボタンを押す。ガゴンッ。
取り出し口からペットボトルを取り出す。これを飲みたくなる時期。夏を感じた。
Lovedelicious(ラブデリシャス)の蓋を開け、飲む。爽やかでザ スポーツドリンクという味がした。
深呼吸をする。春より少し湿気が強くなった初夏の香りが鼻に飛び込んでくる。
駅構内にアナウンスが流れ、ホームに電車が入ってくる。
春の少し冷たい風ではなく、ほんのり暖かい風が肌にあたる。
電車に乗り、真新宿へ向かう。電車の速度が落ち、止まる。ホームに降りる。階段を上り、改札を通る。
デパートの1階へ繋がるエスカレーターのある方向へ出る。
妃馬さんの姿を探す。妃馬さんらしき姿は見当たらない。
「うっし」
そう呟き、軽く拳を握る。前回、冷袋(ヒエブクロ)のときは待たせてしまったため
今回は待たせずに済んだという嬉しさでつい声が漏れてしまった。
柱に寄りかかり、ポケットからスマホを取り出し、ホームボタンを押す。
「もう汗拭きシートが必要な季節なんですね」
懐かしい響き。中学、高校の頃はよく使っていたな。と思い出す。
「懐かしい響きwたしかにもう必要な季節ですね」
そう送信して、意味がわかると怖い話を読む。1話を読み終えたところで妃馬さんが目の前やってきた。
「お待たせしまして」
「いえいえ」
「前回は私のほうが早かったんだけどなぁ〜」
「なので今回は僕のほうが早く着きますように。って思ってました」
「なんでですか」
妃馬さんが笑う。移動を始める。
「いや、ね?待たせるわけにはいかないから」
「私の立場」
「お嬢様?」
「いや、そーゆーことじゃなくて」
妃馬さんがクスリと笑う。
「え?どーゆーこと?」
「いや、怜夢さんを待たせてる私の立場です」
「あぁ、なるほど。そっちですか」
「そっちですよ」
「いや、それは気にしないでいいですよ」
「いやいやいや、気にしますって」
「いや、ね?男が女性を待たせるわけにはいかないじゃないですか」
「あー、古いですよ。その考え」
「あー、確かにそうか。いやでもやっぱりね」
「まあ、わかりますけどね」
そんな話をしながら、まず始めの雑貨屋さんに着く。
様々な雑貨が並ぶ中、スマホケースが並ぶコーナーを見つけた。
「さて、一発目。見つかるかなぁ〜?」
「どうでしょう?」
妃馬さんと僕はそれぞれ反対側から探していく。
もはや猫のスマホケースは当たり前のように見つかるので報告はしない。
猫のスマホケースは2個3個と見つかる。そのまま探していると妃馬さんの手が視界内に入る。
視線をスマホから手の先へと移す。妃馬さんと目が合う。同時に笑った。お店を出る。
Lovedelicious(ラブデリシャス)の蓋を開け、飲む。
「っふぁ〜」
小さめではあるが、どうも声が漏れてしまう。
「今日はラブデリ(ラブデリシャスの略称)なんですね」
蓋を閉める。
「そうですね。今日暑いので」
「なるほど。水分補給という?」
「ま〜あ?それもありますね」
妃馬さんが「?」という表情をする。
「あ、いや、夏っていうとラブデリ(ラブデリシャスの略称)のイメージありません?」
「まあ、ありますね」
「まあ、妃馬さん言う通り、水分補給目的もありますけどね」
「スポーツドリンクって主にTryduet(トライデュエット)と
Lovedelicious(ラブデリシャス)あるじゃないですか」
「ありますね。二大巨塔」
「どっち派ですか?」
「どっち派…。どっち派ってのはないかもなぁ〜…。スポーツ後はラブデリ(ラブデリシャスの略称)で
熱出したときとかはトライ(トライデュエットの略称)ですかね」
「めっ…ちゃわかります!」
「お。同じですか」
「私はスポーツあんまやらなかったんであれですけど
インフルとか風邪のときはトライ(トライデュエットの略称)をよく飲んでました。
…飲んでたってより母が買ってきてくれたんですけどね」
「あー!そうそう!僕もです僕もです。
母親が買ってくるんですよね、熱出したときトライ(トライデュエットの略称)
あー、父も買ってきてくれたかな?」
「なんかイメージありますよね」
「なんででしょうね。僕もバスケしてたときは、周りのやつ大概ラブデリ(ラブデリシャスの略称)でしたね」
「姫冬もそうですよ。たまに2リットルのペットボトル持って帰ってきてました」
「あったあった!500なんてすぐ無くなるんですよ」
「あ、そうなんですね」
「ワンチャン1回で消えますね」
「そんなに!?」
「走り込みとかしたら、もう…。あぁ、思い出すだけで疲れる」
「妹さんもそうですか?」
「そうですね。たぶんラブデリ(ラブデリシャスの略称)じゃないかな。
…あ。たまにいましたわ。トライ(トライデュエットの略称)の子。あのデカい水筒に作ってくる子とかいたんで
粉のやつがあるんですけど、たまにトライ(トライデュエットの略称)の子いました」
「へぇ〜。粉なんてあるんだ」
「そうなんですよ。姫冬ちゃんはどうだったんですか?」
「姫冬はペットボトルの500を凍らせて持ってってました」
「あぁ、同じ同じ」
「お、同じですか」
「僕も凍らせて持って行ってましたし、妹も凍らせて持ってってます」
「そっかそっか。妹さん現役だ?」
「バリバリ現役です」
そんな話をしているうちに次の雑貨屋さんの入っているビルの前に着いた。
様々なお店がある中、目的の雑貨屋さん入る。
雑貨屋さんというよりはオシャレな小物を売っているようなお店で店内も明るく、綺麗だった。
「あ、ここら辺がスマホのコーナーですね」
「じゃ、僕はあっちから」
「私はこっちから」
と分かれたものの、スマホケースのコーナーは小さくすぐ妃馬さんと中央で会う。
「なし」
「なし」
妃馬さんと顔を見合わせ、肩をすくめる。お店を出て、ビルも出る。
「ほんとにないですねぇ〜」
「ないんですよねぇ〜」
「フクロウのアクセサリーとかもないですよね」
「ないですね。指輪も見つけたとき「お?えぇ!?」ってなりましたもん」
「今怜夢さんが通過して二度見した画が浮かびました」
「正解です」
「やっぱり?」
「はい。匠と遊び行ってたときに通りかかったお店の店頭?に置いてあって
匠と話しながら通り過ぎたときにチラッっと見たときに
フクロウと目が合って「ん?お?あぁ!」ってなって買いました」
「それは買いますよね」
「5000円くらいしたんですけどね」
「わお」
「今でもそこそこするなぁ〜って思うので高校生の頃には大金でしたね」
「ですよね?え?即決で?」
「いや、さすがに。たしか持ち合わせがなかったのかな?
お店入って店員さんに取り置いといてくださいってお願いして後日買いに行きました」
「ほんとに一目惚れだ」
「ですです」
そんな話をしていると次に着く。次の雑貨屋さんでもフクロウのスマホケースはなく
同じ建物内にもう1軒雑貨屋さんがあったので、そこも覗いてみたがフクロウのスマホケースはなかった。
「ないですねぇ〜」
「ないんですよねぇ〜」
スマホを取り出す。ホームボタンを押す。15時8分。
「いつもの休憩します?」
「あ、もうそんな時間ですか?」
「3時です」
「おやつ!」
「行きますか」
「行きましょう。…どこ行きましょう?」
「どこがいいかな?」
妃馬さんがスマホを取り出し、恐らく検索を始める。
僕も一応検索してみる。「真新宿 おすすめ スイーツ」入れ、検索ボタンをタップする。
「厳選おすすめ」のタイトルを見てそのサイトに入る。フレンチトーストやシュークリームなど様々あった。
下へスクロールしていくとお団子があった。少し渋いかな?とも思ったけど一応提案してみることにした。
「「あのこれなんか」」
妃馬さんと目が合う。
「「どうでしょう…」」
段々声が小さくなる。2人で笑った。
「え?どこですか?」
妃馬さんのスマホの画面を見る。笑った。妃馬さんも僕のスマホの画面を見たのか、笑っていた。
「「同じ」」
妃馬さんのスマホ画面に写っていたのは僕が僕のスマホ画面に表示させていたのと同じだった。
「じゃ、ここでいいですね?」
「もちろん」
そして妃馬さんと2人でそのお店に向かって歩き出した。
「お、ここだ」
「なんか、なんていうんだろう。ちょっと緊張します」
「わかります。和なとこって高級感というか敷居高い気がしますよね」
「それ!それです言いたかったの」
目を輝かせて僕を見る妃馬さんに心臓が跳ねる。
「お、お持ち帰りもできるんですね」
「ほんとだ」
感心しながらお店の中に入る。イスに座りメニューを眺める。
お団子専門店だと勝手に思っていたが、お雑煮やきしめんなど食事もあってビックリした。
妃馬さんはよもぎのこしあんの団子を僕はベタにみたらし団子を頼んだ。
店員さんがお団子を2本、お茶を2杯持ってきてくれる。みたらし団子の串を持つ。
そのまま3兄弟の長男をいただこうと思ったが、妃馬さんとシェアするってなったときに
串の奥の末っ子を差し出したら食べにくいんじゃないか。と考えた。
でも1発目に食べてもらって、その後オレが食べるのはキモいか?などとも考えた。しかし結局
「「良かったら1個どうですか?」」
と言った。妃馬さんと目が合う。
「え?」
徐々に妃馬さんの顔が笑顔に変わっていった。妃馬さんの笑顔を見ているとこちらも自然と口角が上がる。
「1個いります?」
「じゃあ、いただきます。妃馬さんもみたらし1個どうです?」
「いただきます」
お互いにお皿を交換して妃馬さんは僕の注文したみたらし団子を
僕は妃馬さんの注文したよもぎのこしあんの団子を1個食べる。
お団子自体はすごくモチモチしていて、弾力もあるが柔らかく
歯を入れる毎によもぎの香りが口の中を優しく包み
滑らかなこしあんが上品な甘さを加えてくれて、とても美味しかった。
「ん!すごい」
「美味しいですね」
お皿をお互いに戻す。自分頼んだみたらし団子の串を持つ。
長男と引き離された形跡が次男の頭にある。お団子特有の粘りが串についている。
「中学生」とか「童貞」とか言われるかもしれないが
意識しないようにと思えばどうしても意識持っていかれる。その意識をぶっちぎるように次男を口へ運ぶ。
先程のよもぎのお団子と少し違い、粘り気が強く
微かなお米のような香りに、みたらしタレの少し焦がした香りが包み
甘くもどこかしょっぱい、あまじょっぱさがマッチして
たまに気分で母が買ってくるスーパーのお団子ももちろん美味しいのだが
スーパーのそれとは違い、本格的でとても美味しかった。
お茶飲む。家でも1年に2、3回しか飲まないお茶だが
みたらし団子の甘さを流し、お茶の香りが鼻から抜け、口の中をスッキリさせてくれて、勝手に日本を感じた。
一応カフェのようにゆっくりと過ごせるようだったが
取り扱っているものがお団子だったり、お赤飯だったり、お雑煮だったり
飲み物もお茶という「日本古来」という雰囲気で
妃馬さんと少し会話をしたものの、妃馬さんもあまり長居するのもあれかと思ったのか
お団子の最後の1個を口に入れ、お茶も飲み終えた。
僕も妃馬さんとほぼ同じタイミングでお団子も食べ終え、お茶を飲み終えた。
「「ご馳走様でした」」
そう手を合わせてお店を出た。
「あ、お団子買ってっていいですか?」
「あ、いいですよ。気に入ったんですか?」
「美味しかったですからね。食べたことないのもあるし」
僕はみたらし団子4本、抹茶餡の団子4本
よもぎのこしあんの団子4本、胡麻たれの団子4本、きなこ餡の団子4本を買った。
「買いましたねぇ〜」
「案外がさばりますね」
「そりゃそうですよ。なんか差し入れみたい」
「たしかに。ドラマ現場とか差し入れみたいですね」
「ありそう」
お団子の入った意外と嵩張る紙袋を持ったままもう2軒雑貨屋さんに行った。
結果から言うとその雑貨屋さんにもお目当てのスマホケースはなかった。
スマホを取り出し、ホームボタンを押す。17時37分。
「そろそろ帰りますか」
少し早いとも思ったが「今日は」と思い切り出す。
「もうですか?」
「今日はね」
「わかりました」
どこか納得のいっていなそうな妃馬さんと駅へ歩く。まだ18時前だというのに、さすがは真新宿。
階段を下り、ホームに行くと電車も待つ人がたくさんいた。1本遅らせようかとも考えたが
真新宿なので1本遅らせたところで混雑具合は変わらないだろうと思い、来た1本目の電車に乗り込んだ。
人混みから妃馬さんを守るような形で乗り、途中で井の蛙線に乗り換える。
井の蛙線はさほど混んでおらず、他愛もない話をしているとあっという間に妃馬さんの降りる駅に着く。
駅から出て、いつもの道を歩く。
「お、まだ陽が出てる」
空を見るとオレンジ色の空にオレンジ色に輝く太陽が雲に隠れていた。
「ほんとだ。やっぱりちょっと早くありません?」
やっぱり妃馬さんがどこか不満気な顔をする。
「いや、ね?まあ、そうかもですね。あ、今日もなかったですね。お目当ての」
「そうですねぇ〜。甘谷か真新宿にはあると思ったんですけど」
「甘谷とか真新宿って、なんでもあるイメージですもんね」
「ですです。あの2駅でもないんですねぇ〜」
「もっとこうコアなとことか探したら「もしかしたら」あるかもですけどね」
「細い道の奥とか?」
「ダンジョンの気づかない細い道の奥にあるアイテムショップとか
レアアイテムが置いてあったりするんでね」
「イメージありますね」
そんななんでもない話をしながら妃馬さんの家を目指す。
あっという間に根津家の入っているマンションのエントランス前につく。
「じゃ、今度は目的地なしで探してみますか」
「ありですね。また大吉祥寺から行きますか」
「ですね」
しばし無言となる。心臓がドンドンうるさくなる。
心拍数を落ち着かせるため鼻から深呼吸を繰り返す。
「妃馬さん」
意を決する。
「はい」
ひさしぶりに持ってきたトートバッグから小さめの紙袋を取り出し、妃馬さんに差し出す。
「お誕生日おめでとうございます」
心拍数を落ち着かせるため、鼻から深呼吸を繰り返したが
心臓の音はまだ自分の声が聞こえないんじゃないかと心配してしまうほどうるさかった。
「え!ありがとうございます!え、知ってたんですか今日だって」
驚く顔の妃馬さん。僕の手から紙袋を受け取る。
「はい。姫冬ちゃんから聞きました。
なので今日はご家族でお祝いするんだろうなと思って早めに切り上げました。すいません」
「あ、そーゆーことだったんですね」
「はい。あとそれ喜んで貰えるかわからないんですけど」
それは今日から1週間前。鹿島、匠、僕の3人で出掛け、クレーンゲームをし終わったエスカレーターで。
「オレ、クレーンゲームで食っていけるかも」
「それ冗談で言ってるかもだけどワンチャンマジでいけんじゃね」
「それな」
3人で笑った。
「あ、そうだ」
1つ鹿島や匠にも相談したいことがあった。
「ん?」
「どった?」
「ちょっと付き合ってほしいんだけど」
「いやん!急に告白ぅ〜」
「いやん!」
「違います」
「なに?どしたの?」
「付き合ってほしいって?」
「あのさ、アクセサリーみたくて」
「アクセサリー?珍しい」
「なんかいいのあった?」
「いや…」
まあ、この2人になら言ってもいいよな。と思い
「来週妃馬さんの誕生日でさ」
と言った。
「え!あ、そうなんだ?」
「へぇ〜。怜夢と近いね」
「まあ、そうね?で、姫冬ちゃんに相談したのよ。誕生日なにがいいかな?って。
そしたら「最近お姉ちゃん、イヤリング興味持ってるっぽいです。
なのでイヤリングなんてどうですか?」って言ってくれて」
「なるほど。それでアクセサリーね」
「そゆこと」
「ここの2階にアクセサリーなかったっけ?」
「あったあった!行こうぜい!」
この2人なら断らないだろうと思ったがノリノリで乗ってくれる2人に心の中で感謝する。
3人でエスカレーターを上がる。
「でもさ、そこ結構高くなかったっけ?」
「え、そうなの?オレチラッっとしかみたことないから値段までは知らんかった」
「高いのはキチぃいよ?」
「いくらくらい予定してんの?」
「5千くらいが目安じゃない?アクセサリーってそもそも身につけるものだし
それを彼氏でもなんでもない人から贈られるってのもちょっとアレなのに
そこで値段も高いってヤバイキモくね?」
「まあ、たしかに。言われてみれば」
「ヤバッ。オレ森もっさんのリュック1万したわ」
「乙ー」
「乙ー」
「ねえ2人とも!フォローしてよ!」
匠と2人で笑う。
「でも鹿島のは保存用だろ?いいんじゃない?」
「わからんよ?前買ったやつが保存用かもしれんやん」
「あぁ〜あり得る」
「まあ、それは森もっさん次第でしょ」
「「たしかに」」
アクセサリーコーナーについて、眺める。
どれも万を越えた値段で、デザインも可愛いのだがピンとくるものがなかった。
高級感あるデザインのものが割とリーズナブルに買えるよ!というようなお店だった。
無言で2人を連れてお店を離れる。
「なかった?」
「なかったわ」
匠がスマホをいじる。
「近くに数軒あるっぽいよ。行く?行くよな?」
「はい。行きます。付き合ってください」
「がってん!」
「任せんしゃい」
次のアクセサリーショップに移動する。
次のお店は高いものが2万円ほどで安いものは3千円ほどのものがあった。
値段的にはドンピシャ。デザインを見る。可愛いものから、少しクールなデザインまであった。
視線を流していくとピタッっと止まる。
三日月のカーブの上に猫がちょこんと座っているデザインのピアスとイヤリングがあった。
お店の人に写真撮っていいかを聞き、許可をいただいたので写真を撮った。
そして姫冬ちゃんのLIMEのトーク画面を開き
「急にごめんね。妃馬さんのプレゼントなんだけどさ」
今撮った写真を送り
「こんなデザインのとかどうかな?」
と送った。鹿島と匠は女性向けアクセサリーショップだったのだが2人一緒に見て回っていた。
僕はトーク一覧の画面のまま、スマホを眺めたり、鹿島と匠の動向を眺めたりしていた。
姫冬ちゃんの名前の横に数字「1」が出る。すぐ「2」に変わり「3」に変わった。
僕は姫冬ちゃんの名前をタップする。
「全然大丈夫ですよー!」
「おぉー!可愛い!いいじゃないですか!お姉ちゃん喜びますよこれは!」
そのメッセージの後に妃馬さん同じシリーズの
猫のスタンプで「GOOD!」と言っている猫のスタンプが送られていた。口元が緩み
「よしっ」
と呟き
「ありがとね!」
「姫冬ちゃんのお墨付きなら大丈夫だ!」
その後にフクロウが「ありがとう!」と言っているスタンプを送った。そして鼻から深呼吸をして、店員さんに
「すいません」
と声をかける。
「はい」
「あのぉ〜購入させていただきたいんですけど」
「はい。ありがとうございます。どちらの商品でしょうか?」
店員さんと一緒に先程の三日月のカーブの上に
猫がちょこんと座っているデザインのピアスとイヤリングのあるケースの前まで行く。
「これなんですけど」
「はい。こちらですね。ピアスタイプとイヤリングタイプがございますが」
「イヤリングタイプでお願いします」
「お色はシルバーでよろしかったでしょうか」
「はい」
「ではレジでお会計お願いします」
「はい」
店員さんとレジに行く。
「こちらプレゼントでしょうか?」
「はい」
「かしこまりました。えぇ、ではお先にお会計のほう…5,680円になります」
ちょうどはなかったので5千円札と500円玉、100円を2枚出す。
「はい。5,700円お預かりいたします。…20円のお返しになります」
お釣りを受け取り、しばらくすると
「こちらが商品になります」
と小さめ紙袋を出してくれた。
「ありがとうございます」
と受け取る。お店を出るところまで店員さんがついてきてくれて
「ありがとうございました」
とお辞儀をして見送ってくれた。
「ありがとうございます」
と今一度言ってお店を出る。紙袋の中をチラッっと見る。
小さな箱と紙袋がもう1枚入っていた。鹿島と匠が合流する。
「いいのあったのか」
「なんか怜ちゃんめっちゃお金持ちみたいだったよ」
「あぁ、お見送りね」
「わかる」
「ねぇ〜」
「2人のお陰でいいのが買えました。ありがとうございます」
「いえいえ。どういたしまして」
「どったまー」
その後も3人で遊んだ。
「開けて…いいですか?」
「あ、できれば、お家で開けてください。気に入っていただけるかわからないので」
姫冬ちゃんの意見を信用していないわけではないのだが、やっぱりどこか不安だった。
「お気持ちだけで嬉しいですよ。でもじゃあ家で開けますね」
「そうしてくれると助かります」
すごく嬉しそうな妃馬さん。この顔を見れただけでも買って良かったと思えた。
紙袋をガサゴソとし、お団子数個を自分のトートバッグに移し
「あとこれも」
とお団子の入った紙袋を差し出す。
「え、いいんですか?」
「はい。もともと自分の家族用と妃馬さんのご家族用とでと思って買ったので。
ま、さすがに各種1人1本はないですけど」
「いやいや充分ですよ!」
「誕生日だから楽しんでほしいので」
「父も母も姫冬も喜びます」
「よかったです」
「本当にありがとうございます」
「いえいえ。じゃ、今日はこの辺で」
「はい。ありがとうございます」
「じゃ、また明日とあとでLIMEで」
「はい!また明日!とあとでLIMEで!」
いつもよりテンションの高い妃馬さんについ口元がニヤけそうになるが下唇を噛み、堪える。
手を振ると、いつもより元気に手を振り返してくれる。
もうプレゼントを渡し終えたというのに未だ心臓がうるさいくらい、心拍数が高い。
踵を返し、駅へ向かう。結局駅に着くまでドキドキは収まることがなかった。
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