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高校一年、最後の帰り道。
天宮翔太は困っていた。
その隣を歩く佐々木花鈴が、なかなか泣きやまないからだ。
「そんな泣くなよー、別にもう二度と会えなくなるわけじゃないんだし。」
「でも、しばらく、うぅ、会えなくなっちゃう、。 」
花鈴はくりくりの目を真っ赤にしている。
その姿を見て翔太はほんの少し笑う。
「ちょっと親の都合で転校するだけだから、また会えるって。」
「でも、毎日話せなくなっちゃうし、」
「会いにくくなるだけで、メールも電話もできるから、話せないわけじゃないよ。」
「引っ越してからも話してくれる…?」
「当たり前!離れてても友だち!」
花鈴の家の前で、最後の別れの言葉をかわす。
「またな!」
「うん!またね!」
花鈴は最後まで泣いていたが、必死に笑顔も浮かべてそう告げた。
あれから数ヶ月。
二人はよくスマホで話し続けていた。
高校2年生にもなり、春が過ぎ、外では蝉が鳴き始めていた。 そんなある日のこと。
花鈴のスマホが鳴った。
翔太からの、メッセージの着信を知らせる通知だった。
『あのさ、』
花鈴はほんの少し、翔太の違和感を覚えながら返信する。
『どうしたのー?』
『えっとね…』
翔太は言葉を濁していた。
『言いにくい話なの?』
『んー、いや、言うね。』
『はい』
翔太の意志の硬さからか、普段と何かが違うからか、敬語になりながら花鈴は返事をして、次のメッセージを待った。
そっと心をざわつかせながら、画面に集中する。
『俺と付き合ってください!』
花鈴は目を見開いた。
それからスマホの前で、今年一番の声量で叫んだ。
どくどくと胸が高鳴り、耳まで熱を感じる。
『冗談ですか』
夢のように感じられるがあまり、花鈴は気持ちそのままに返信をした。
『本気です。俺は花鈴がすき。イエスかノーどっち!』
心臓の音はどんどん大きく、速くなり、我慢できずに部屋をうろつく。
それと同時に、いそいそと鼓動より早く文字を打っていく。
『イエス以外の選択肢なんて無いです、よろしくお願いします!』
『こちらこそ、よろしくお願いします!』
翔太も花鈴も、画面の前で幸せいっぱいの笑顔を浮かべた。
しばらく心臓の音は大きいままだった。
こうして二人の青い夏が、始まった。
これから始まるのは、愛の重たい子犬系彼氏と、初な猫系彼女の、一風変わったあたたかな日常。
『でも、本当に私でいいの?』
『花鈴がいいんだよ 』
『全然素直じゃないし、可愛げないよ?』
『十分かわいいよ』
そんな会話に、翔太は少し困った顔で微笑んでいた。
どうして告白された側なのに、花鈴がそこまで心配しているのか、不思議に思いながら、何度も何度も愛を伝える。
途中から、花鈴はメッセージの誤変換が増え、そして返信が止んだ。
照れているのがまるわかりで、あまりにもかわいい。
『画面の前で硬直しちゃうの許して 』
『かわいいね、照れてるんだね』
『そんなんじゃないし』
『好きだよ』
既読はつくが、返信が来るのはニ、三分後。
この間もずっと照れているのかと思うと、愛おしく感じて仕方がない。
嘘丸わかりの照れ隠しも、どんどんいじってしまいたくなる。
花鈴は鼓動の速さに驚いていた。
あまりに体が熱いので、一生懸命手で扇いだ。
何を言っても、可愛い、好き、大好き、そう返ってくる。
その言葉一つ一つに、強く心が揺さぶられる。
たった一言のはずなのだが、花鈴への効果はあまりにも高かった。
そんな刺激的な日々を送ること数日。
陽だまりいっぱいの、中庭での昼休み。
「照れすぎるあまり、既読スルーしちゃう!?」
「うん…。」
花鈴の親友、瀧実《たきみのり》ことみっちゃんは、ベンチから飛び上がりそう叫んだ。
「え、なに、言われて嬉しくないの?」
「ちがうの、すっごい嬉しいの。でも嬉しすぎるのと恥ずかしいのとで、画面の前で固まっちゃって、気づいたら数分過ぎちゃってるの。」
「でも、返信してあげなきゃ可哀想だよ?」
花鈴は、困り顔でみっちゃんと目を合わせた。
「例えばさ?私も好きだよーとか、言えばいいんじゃないの?」
「無理ー!!」
即答だった。
実際の所、翔太は1日で数え切れないほど愛を伝えているが、花鈴は1日に一度言えば頑張ったほうであった。
「まあ、この性格の花鈴だもんね。」
花鈴と付き合いの長いみっちゃんは、苦笑いでそういった。
花鈴は半泣きでみっちゃんを見た。
「どうしたらいいのー。」
嘆く花鈴をみかねて、みっちゃんは言った。
「なんかじゃあ、スタンプとか、返してみたら?」
「分かった、頑張ってみる。」
そう花鈴が言うと、五限目の予鈴が響き渡った。
「頑張りな。」
「うん…。」
花鈴の頼りない返事を最後に、二人は中庭をあとにした。
『花鈴、大好きだよー』
『(癖強ゴリラのスタンプ)』
『wwww』
この返信には、翔太やみっちゃんはもちろん、送った張本人の花鈴さえもが疑問を抱いた。
「ちがう、ちがうのぉぉぉおっ!」
花鈴は嘆いた、自分でも分かるほどの空回りっぷりに。
そして、送るスタンプのセンスの悪さに。
花鈴は、まだまだ経験が必要であった。
ひとまず、既読スルーを回避したことを、みっちゃんは褒め称えるのであった。