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「お屋敷の近くに外国の魔法使いがいたという噂があったのです。ルーイ先生はそれに関心を持たれて……ジェムラート家の使用人からも話を聞きたいからと私達に同行されたのです。ジェフェリーさんは知りませんか。魔法使いに会った事とかあったりします?」
「魔法使いねぇ……」
顎に指を添えながらジェフェリーさんは呟いた。視線は左上を見ている。目の動きにはその人の感情が強く表れる。例えば、嘘を吐こうと考えていると無意識に右上に視線を向けてしまうのだそうだ。必ずしもそうとは限らないが参考程度にと、セドリックさんに教えて貰ったことだ。この法則に従うならジェフェリーさんは嘘を吐くつもりはないということになるけど……彼はどんな返しをしてくるのだろうか。ちなみに、カレンの目はいまだに据わったままだ。
「俺会ったことあるよ、魔法使い。先生が知りたがってる奴とは別かもしれないけど」
「本当ですか!? ジェフェリーさん!!」
「う、うん。結構前の事だけどね」
詰め寄るような私の勢いに僅かにたじろぎながらジェフェリーさんは頷いた。彼がその魔法使いに会ったのは半年ほど前のことらしい。それって、私が中庭で見たのと同じでは……
「ねぇ、ジェフェリーさん。私も魔法使いに興味があるのです。ジェフェリーさんがお会いしたという魔法使いのこと……詳しく聞かせて貰えません?」
「ああ、別に構わないけど……」
カレンが詳細を知りたがっている。ジェフェリーさんはあっさりと彼女の要求を受け入れた。魔法使いについて聞かれても動揺しているような素振りも見受けられないし、やましいことは無さそう。
まずい……このままではセドリックさん達がいない状況で大切な話が始まってしまう。立ち会うのが私だけなんて心許なさ過ぎる。
「あっ! あの、それでしたらルーイ先生やセドリックさんも交えて一緒に……」
「俺がその魔法使いに会ったのは……」
私の訴えもむなしく、ジェフェリーさんは当時の出来事について語り始めてしまった。
「そいつ、ジェムラートのお屋敷の前で行き倒れになってたんだよね」
「えっ!?」
私とカレンの声が綺麗に重なった。彼女の声の方が私の数倍は大きかったけれど。行き倒れとか……予想不可にもほどがある。私達が上げた驚きの声に苦笑しながらジェフェリーさんは話を続けた。
「倒れてた理由は空腹。怪我とかじゃなかったのは良かったけど、それでも放っておくことは出来なくてさ」
ジェフェリーさんはその人物に食べ物を与えて、介抱してあげたのだそうだ。
「その助けた方が魔法使いだったんですね」
「そうそう。旅の途中なのに不運にも旅費を紛失してしまったんだって。それで食料が買えなくなってその結果……」
移動することもままならなくなり、とうとう倒れてしまったと。その後、ジェフェリーさんは仕事を紹介したりと甲斐甲斐しく世話を焼いてあげたのだそうだ。行き倒れになっていたとはいえ、得体の知れない相手に対して親切過ぎないかな? カレンも同じように感じたみたい……ジェフェリーさんに対して突っ込みを入れた。
「ジェフェリーさんってずいぶん優しいんですね。よく知りもしない人にそこまでやってあげるなんて」
「いや、関わったからには最後まで責任を持たないと……ていうか、相手が子供だったから尚更ね」
「子供? 助けた魔法使いって子供なんですか」
「うん。そうだなぁ……カレンちゃんと同じくらいかな。12、3歳の男の子」
魔法使いが子供。しかもカレンと同じ歳の頃……そういえば彼女の探し人も同い年の少年ではなかったか。まさか、そんな偶然が? 魔法使いについて話を聞いた時のカレンの反応といい、ジェフェリーさんが助けたその魔法使いってもしかしてカレンの……
「それでっ! その魔法使いさんは今はどこに!?」
「えっ、ちょっと……カレンちゃん!? いたっ、痛いよ。どうしたの」
カレンがジェフェリーさんの腕に掴みかかった。悲痛な面持ちで魔法使いの行方を聞き出そうとしている。カレンの行動に驚きながらも、ジェフェリーさんは彼女を落ち着かせるために話を続行した。
「あー……ごめんね。彼が今どこにいるかは知らないんだ。無くした旅費を稼ぐためにしばらくの間は王都に滞在してたんだけど、その後の足取りまでは……」
「そう、ですか……」
あからさまに落胆しているカレン。そんな彼女を気の毒に思ったのだろう。行き先の手掛かりは無かったかと、ジェフェリーさんは頭を抱えながら唸っている。
「あっ、そうだ! 詳しい行き先は聞けなかったけど、『北の方に行ってみようかな』って言ってた。彼、王都を立つ直前に俺に挨拶に来たんだ。魔法は助けてくれた御礼がわりにって見せてくれたんだよね」
「ジェフェリーさん!! 見せて貰ったって、それどんな魔法でした!?」
私も負けじとジェフェリーさんに迫る。私とカレンの話への食い付きぶりに、ジェフェリーさんは大層困惑している。しかし、こちらとて切実なのだ。引くことは出来ない。
「えっとね……あれは水の魔法だったのかな。雨を降らせて花壇の水やりを手伝ってくれたんだよ。キラキラ光って綺麗だったなぁ。」
間違いない。私が見たものと同じだ。やはりあの時の魔法はジェフェリーさんではなかったのだ。魔法使いは10代前半の少年。そして、その少年はカレンの探し人と同一人物なのかもしれない。彼女もその可能性を感じているから、こんなにも必死にジェフェリーさんへ縋っているのだ。
「ジェフェリーさん……その魔法使いの名前は聞いていないのですか?」
恩人であるジェフェリーさんに名前くらいは名乗っているはずだ。本名かどうかは分からないけど。
「名前ね、聞いたよ。確か……」
「……エルドレッド。その方はご自身をそう名乗っていたのではないですか」
「そう、それ! エルドレッド!! あれ? カレンちゃん……何で知ってるの」
ジェフェリーさんよりも先にカレンが答えを口にした。魔法使いの……いや、彼女がずっと探し求めていた大切な人の名前を。
「やっと……見つけた」
絞り出すように言葉を繋げる。カレンの瞳からは大粒の涙が溢れて、頬を伝っていた。