テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
(ど、どうしよう。なんなの……この状況はっ!?)
ルイスの顔が近すぎて戸惑ってしまう。息をするのも躊躇する程の距離だった。
リーゼロッテの鼓動の音が大きくなり過ぎて、ルイスに気づかれないよう祈る。
とはいえ、ほんの数秒でルイスはスッと離れたが。
(か、顔が熱い……)
真っ赤になってるリリー姿のリーゼロッテ。ルイスはそんなリーゼロッテの頬に触れ、耳元で囁いた。
「そんな表情、他の男には見せてはいけないよ」
(――!!)
返事もできずに、口をパクパクするリーゼロッテ。
クスッと笑ったルイスは「おやすみ」と言って部屋を後にした。
(な、何だったんだぁぁぁっ!? 揶揄われたの??)
リーゼロッテは頭を抱えてしゃがみ込んだ。
『……ルイスは、意外と独占欲が強そうだ』
ポソッとベッドの上から、一部始終様子を見ていたテオは言った。
やっと落ち着き――。
元のリーゼロッテの姿に戻ると、湯浴みを済ませてベッドに入ったが……。とても疲れているのに、目が冴えてしまって寝付けない。
先程のルイスとのやり取りを思い出すと、また鼓動が早くなるのだ。
ルイスの行動に、深い意味なんて無いとはわかっているが。リーゼロッテはおでこを触る。
(まだ熱い……。どうせ眠れないのだから)
リーゼロッテはベッドから出る。
月明かりの下、窓を開け風に当たりながら頭の中を整理してみた。
ジェラールが言うには、あのマイクロチップみたいな魔石は、魔術によって体内に入れることが出来るらしい。1周目の時にその現場を目撃し、色々と調べ始めたそうだ。
ジェラールが最初に見た被害者は、聖女アニエスだった。
だから、離宮を監視していたのだ。多分、過去の奴らがアニエスに接触する時期が、ちょうど今頃だったのだろう。
そもそも、アニエスと護衛をしていたルイスは仲が良かった。
それを知っていれば――わざわざアニエスに、色目を使わせる必要なんてなかった。つまり、ふたりの関係を知らない人間が、アニエスに辺境伯であるルイスを利用させようとしたのだ。
(もしかしたら……私も?)
ジェラールが言ったある者を追ってとは、リーゼロッテ自身のことではないかと漠然と思った。
(もし操られていたのなら、当時の記憶が欠落していてもおかしくない)
ふいに首の後ろがゾクッとし、思わず自分の腕を摩った。
「リーゼロッテ、大丈夫か?」
テオがそっとショールをかけてくれた。
「ありがとう、テオ」
「……何を考えていたのだ?」と、心配そうにリーゼロッテの顔を覗き込む。
「殿下が見せてくれた魔石……テオも見たでしょ? あれ、私も埋め込まれていたのかもしれないわ」
「ああ、あれか。……あんなチンケな魔石、何を恐れることがある? リーゼロッテの体内に入った所で、其方の魔力を巡らせたら直ぐに消滅する程度の物だぞ」
「え……うそ? それって、私凄くない?」
「はっ、今更何を言っている。リーゼロッテは、私が認めた主人なのだぞ」
銀髪をかき上げながら言った、テオの笑顔が温かった。
(そうか、今の私は味方が沢山いるんだ。そして、この力……もしかしたら、最強なのかもしれないわ)
リーゼロッテは、魔力が通う自分の手を眺め、拳を握った。
安心したら、急に眠気が襲って来る。
ヒューッと風が入って来たので、窓を閉めて寝ようかと手を伸ばすと、庭で何かが動いたように見えた。
即座に念話でテオに伝える。
『テオ、あれを見て』
人影のようなものがコソコソと移動していた。
『人が居るな。あの方向は……洞窟へ向かっているぞ』
『こんな時間に誰が? 先回りして、待ち伏せしましょう』
リーゼロッテはさっと着替えると、テオと一緒に洞窟へ転移した。
もう、何度も足を運んでいるので地形もしっかり把握している。
魔玻璃と、入って来る者が確実に見える場所。丁度良い岩陰に隠れると、息を潜めやって来る人物を待つ。
この洞窟へ向かうなら、目的は魔玻璃しか考えられない。
――コツン……コツン。
洞窟内に響く足音は、何処となく不自然なリズムだった。
徐々に大きくなる音と共に、人影が見えくる。
(……うそっ!?)
思わず声を出しそうになり、慌てて自分の口を押さえた。
それは、リーゼロッテの弟フランツだった。
まるで夢遊病のように、視線は定まらずフラフラと歩いて魔玻璃に近付いて行く。
『フランツは、どうやら操られているな。どうする、止めるか?』
『そうね。ん? ……ちょっと待って』
フランツは、唐突にしゃがみ込むと地面に何かを描こうとした。
『テオ、気配を消して。フランツをあのまま転移させるわ!』
リーゼロッテは、フランツの真後ろに転移し、そのままフランツにそっと触れる――。
フェンリルのテオが100年も閉じ込められていたあの地下牢へ、リーゼロッテはフランツごと転移した。
◇◇◇◇◇
テオが壊した鉄格子は、もう完全に修復されていた。
自我の無いフランツは転移にも気づかず、そのまま牢屋の床に魔法陣を描いている。
描き終わったのか、ふらっとフランツは立ち上がった。
リーゼロッテはフランツに触れて魔力を流す。
フランツの首の後ろから魔石が浮き上がり、パァーンッと消滅した。ガクッと力が抜けたフランツをテオが支えた。
やはり、あの魔石で操られていたのだ。
(一体、いつ埋め込まれたのかしら?)
リーゼロッテが目覚めてから、教会の人間とフランツが接触したことは無いはず。
可能性として考えられるのは、ひとつだった。