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~英国誌ロイヤルレポート~
本日正午前、遂に世界で話題となっている惑星アードからの来訪者であるティナさん達が我が国へと降り立った。これまで合衆国がその身柄を半ば拘束し交渉や得られる利益を独占していた事は各国からも問題視されていたが、優れた我が国の粘り強い外交努力が実を結び今回の来訪に繋がったことは非常に誇らしい。
ロンドン郊外にある空軍基地に降り立った御一行は王室儀仗隊による勇壮な音楽と共に歓迎され、チャルズ首相とティナさんが固く握手を交わす様子は全世界に報道され、歴史的な瞬間として後世に末長く語り継がれることだろう。
ティナさん達はそのまま歓迎式典に参加。その後専用車両によって厳重に警護され基地を後にした。
合衆国で起きたテロ事件は全世界を震撼させた。合衆国政府による怠慢によって引き起こされたのは疑う余地もない。ティナさん達の安否を心配する声が相次いだが、無事に我が国へ招くことが出来たのは幸いである。
「我が国の治安は言うまでもなく、彼女達が危険に曝されることは決してないと断言する」
政府関係者はそのように語る。
「ティナさん達が合衆国の対応に疑問を抱いているのは確実であり、だからこそ安全な我が国では安心して観光を楽しんでいただきたい」
チャルズ首相はそのように発言し、これまで合衆国が独占していたアードとの交流に一石を投じた形だ。これも我が国の優れた外交努力の結果であると言えよう。
またチャルズ首相は
「ティナさん達とは単なるお客様としてではなく、良き友人となりたいと考えている」
とコメント。これはティナさんと個人的に密接な関係を持っていると思われる日本の椎崎首相を意識した発言と思われる。彼女達の良好な関係は既に語るまでもないが、その要因は謎に包まれている。
どうしてそこまで親密になれたのか、椎崎首相はこの件についての返答を避けている。地球の未来を考えるならば椎崎首相はその要因を独占秘匿せずに明かし、世界全体で共有すべきであると考えるのは筆者だけであろうか。
さてティナさん達の動向であるが初日は旅の疲れもあるだろうからとロンドン市中を見物し、ホテルへと戻り疲れを癒している。
明日はバッキンガム宮殿にてロイヤルファミリーの皆様と歓談される予定だ。どうやらアードにも女王が君臨しているとのこと。ここは是非とも王室外交を通じてより親密にしていきたいところだ。
日本国外交官にして異星人対策室特派員の朝霧だ。最近では一部ネット民から朝ギリーさんなんて呼ばれている。ただ、カミさんの旅館も繁盛しているらしくご機嫌だからこの際目を瞑ろう。
英国二日目の早朝、私は用意されたホテルのロビーでブリテン最大手の新聞を読みながら物思いに耽っていた。
初日からロンドン市内を巡り、大観衆による派手な歓迎を見せたブリテン政府。更にチャルズ首相は常にティナさん達の側に居て、周囲は若い女性達で囲み親しげに話し掛けていた。
女性であるティナさん達に配慮したと言えば聞こえは良いが、本質は椎崎首相のようにティナさん達との個人的かつ密接な関係を作り上げるための策だろう。更に行く先々で親しげにティナさん達と接していた市民は全て政府の回し者であることが判明している。
全く強かな国だ。合衆国から交流の主導権を握ろうと暗躍しているのが良くわかる。
何故分かるのか?アリアさんだよ。彼女が調べあげて、私に質問してくるものだから私も国が絡んだ企みを否応なしに知る羽目になった。ケラー室長から持たされた胃薬は効き目が抜群、もう手離せないな。
初日から飛ばしてくるところを見るに、それだけ英国も焦っているのだろうな。しかも合衆国が大失態を犯した直後だ。これは効果的な手だろう。相手がティナさんでなければな。
ティナさんは合衆国の大失態を全く問題視していない。むしろ自分のせいで迷惑を掛けてしまったと落ち込むような善人なのだ。
そんな相手に合衆国の失態を挙げて自分達をアピールするのは悪手だ。外交の場では有力な手段だが、相手は政治家でもなければ外交官でもないんだ。そして最悪なのは、あの場に居ながらティナさん達を守れなかったとしてケラー室長を批判したことだ。
当たり前だがティナさんは英国に不信感を抱いている。|英国情報局秘密情報部《MI6》は昼寝でもしていたのか?
彼女の性格を考えれば最悪な対応なのは分かりきったことだろうに。
いや、違うな。彼らは正確に情報を集めていたはずだ。なのに何故か?それは、合衆国政府や日本政府内でも未だに議論が続いていること、すなわちティナさん相手に外交を仕掛けていることだ。この辺りの感覚は私達地球人には理解が難しい。
何せこの交流はティナさん個人の願望であり、アード政府が正式に認可したわけでもない。彼女は外交官でも大使でもないのだ。この事実を理解するのに私も随分と苦労した。
だって地球ならば国同士が交流を始める際は使者や大使、使節が行き来する。つまり外交の領分なのだ。銀河の反対側からやってきた少女が、アードでは何の権限も持たない子供であると理解するのは難しい。彼女が交流の切っ掛けになるのは間違いないし、架け橋として非常に重要な存在であることは議論の余地もない。
だが、子供なのだ。あり得ないほど地球に好意的な異星人の普通の少女を相手にどうすれば良いか。各国は頭を悩ませているのが現状だ。
その点我が国は幸運だ。椎崎首相とティナさんが何故彼処まで親しくなれたのかは不明だが、交流に於いて一歩先んじているのは間違いない。
そして合衆国にはティナさんがもっとも信頼する地球人であるケラー室長が居る。
だから英国は焦った。遅れを取り戻すためにな。あの国は昔から三枚舌等と揶揄されるくらい外交上手だ。そしてその得意な外交を仕掛けて、結果ティナさんに不信感を抱かせているのだから、彼女との交流がどれだけ難しいか分かるだろう。フェルさん達?無理だな。ティナさんが不信感を抱いた時点でフェルさんの信頼は得られない。彼女はただでさえ地球人に対して警戒心が強い。ティリスさんとフィーレさんに関しては、予測が付かないが……。
ケラー室長曰く、仲良くするのはとても簡単なこと。それは貴方だけだと言いたいが、まあ良い。ティナさんも内心の不信感を表に出すようなことはしないだろうし、明日にはメリル女史と合流する。英国政府には下手なことをせずに純粋に観光を楽しんで貰えるように取り計らうべきだと伝えてみよう。承諾するかは分からないがな。