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SIDE:涼架
ちょっと休憩しようとブースの外に出ると、ソファーに座って若井がギターを鳴らしていた。
なるべく振動を与えないようにゆっくりと隣に座ると、それに気付いた若井が指を止める。
あ、邪魔しちゃったかな。
「涼ちゃん、お疲れ」
そう言ってニコッと笑ってくれる俺の恋人は、相変わらずカッコよかった。
「うん、お疲れ様。若井も休憩?」
「そう。なんかさ、ちょっと行き詰っちゃったから」
休憩だと言いながらも、結局はギターを手離さない若井の努力をずっと隣で見てきた。
本当に、元貴の音楽の全てを愛しているよね。
元貴の期待に応えようと、一生懸命に努力をしている若井を本当に尊敬している。以前、そんなことを若井に言ったら、『それは涼ちゃんもでしょ?俺も涼ちゃんのこと、元貴と同じぐらい尊敬してるよ』なんて言ってくれて、さらに惚れ直しちゃったわけです。
「そういえば、もうすぐ若井の誕生日だね。何か欲しいものある?」
「え、じゃあ、今年も二人で過ごす時間が欲しい」
「それはもう決定事項なので、プレゼントには含まれませ~ん」
「へへ、そうなんだ。嬉しい…」
若井が子供のような無邪気な笑顔を向けてくる。
俺の胸がきゅんって、音をたてた気がした。
きっと広島公演の二日目を終えたら、元貴やスタッフさん達と若井の誕生日を祝うだろうけれど、それはメンバーとしての時間なのだ。恋人としての二人の時間もちゃんと確保したいと、付き合ってから毎年思っている。
元貴もそれを分かってくれているので、若井の誕生日に仕事があっても、スケジュールはわりと緩やかなものにしてくれていた。さすがミセスの総合プロデューサー兼フロントマンだよね。
『若井、あんまり涼ちゃんに無理させんなよ』
そして毎年、そんな言葉を若井の耳元でささやいてるの、聞こえちゃってますけどね。
でも今年の若井の誕生日にはソロ番組の収録が入っているのを、三人のスケジュール管理アプリで確認した。さすがの元貴も、若井のソロ仕事にまでは手が及ばないもんね。
本当は誕生日当日に二人でお祝いしたかったんだけど、若井の収録が終わるのは22時で、家に帰って来るのは23時頃になっちゃうだろう。きっと疲れてるだろうから、今年のお祝いは翌日になっちゃうけど仕方ない。
あ、でも翌日は午後からの仕事なので、朝、若井んちに行っちゃおっかな。
うん、一緒に出勤するのもありだよね。
そしたら少しでも長く一緒にいられるし。
そんなことを思いながら、若井へと向き直って訊ねた。
「ねぇ、本当に何か欲しいもの、ないの?」
あまりにも高価なギターとかだったら無理だけど、ブランド物の服とか靴とかだったら、プレゼントできるぐらいの蓄えはあるよ。
「ん~…でも本当に涼ちゃんとの時間があれば、他に欲しいものなんてないんだよね~。だから誕生日当日は、一緒に過ごしてくれる?俺は朝から収録があるけど、なるべく早めに帰れるように頑張るから、涼ちゃんが俺んちにいてくれて、おかえりって言ってくれたらすっごく嬉しいんだけど」
若井は辺りをきょろきょろと見渡して、周囲に誰もいないことを確認すると、頬へとチュッとキスをしてきた。
ちょっと、ここ仕事場!
なんて、本来なら咎めるべきなんだろうけれど、俺は、『……もう、バカ』なんて言いながら、ちょっともじもじすることしかできなくて。今年は翌日になっちゃうなって思っていたのに、若井はその日のうちに会いたいと思ってくれていたことが嬉しかった。
若井って、本当にカッコいいと思う。
高校生の頃はひょろっとしてたのに、今では体はがっしりしているけどちゃんと締ってて男の色気がすごいし、ミセスのおしゃれ番長だし何着ても似合うし。衣装でも、若井はカッコいい服が多いもんね。
反して俺は中性的な衣装が多いけど、若井がいつも『涼ちゃん、今日も似合ってるね』って褒めてくれるし、元貴が俺に似合うような衣装を提案してくれているのだから、いつも満足している。
あと元貴といる時は一緒になって俺のこと弄ってくることが多いけど、二人のときはまさしくスパダリなんだよね。さりげにドアを開けてくれるし、二人でご飯を食べに行ってもいつの間にかお会計が済んでるし。『これ、涼ちゃん好きそうだったから』なんて言って、美味しそうなコンビニスイーツを買ってきてくれたり。俺が転びそうになったらいつも支えてくれるし、距離があって間に合わなかったときには、『大丈夫?』って真っ先に声をかけてくれる。寝起きで寝癖がついててもカッコいいし、無精ひげが生えててもカッコいい。エッチだって、いつも俺の体のことを一番に考えてくれてるし、いつだって気持ちよくしてくれる。
まさしく理想のスーパーダーリンだよねぇ。
「……ちょっと涼ちゃん。全部声になって出てますけどー」
掛けられた声に気付いて顔を上げると、同じソファーの端っこに座ってスマホを見ていた元貴が嫌そうな顔をしていた。あ、またやっちゃった。
「ごめんごめん」
「それ、全然ごめんと思ってないときの謝り方~。で、なに?なに悩んでんの?」
独り言、全部若井のことばっかりだったから、大体の予想はつくけどって言いながら、元貴が距離を詰めてぴったりとくっついてくる。そして俺の太腿をすりすりと撫でながら、顔を覗き込んで『言ってみ?』って、優しく言ってくれた。元貴はこうやって、いつも俺に寄り添ってくれる。
「だってさ、若井って本当にスパダリなのね。でも俺は若井にとって、全然スパダリじゃないし…」
俺の方が年上なのに、いつも甘えちゃってる自覚はある。
たまに若井が甘えてきて可愛いこともあるけど、でも根底のカッコよさは健在のままで。
「そうね~。でも涼ちゃんは若井にとってスパハニなんだから、そのまんまでいいんじゃない?まあ、家事や料理は全然完璧じゃないけど」
「俺はハニーじゃなくてダーリンがいいの!それで若井の誕生日に素敵な演出がしたいの!ねぇ、元貴、若井に何あげたら、どうやったら喜んでくれると思う?」
二人の時間があればそれだけでいいと言う若井に、何かサプライズをしてあげたくて。
俺の時間なんて可能な限りいくらでもあげるけれど、他にも記憶に残るような演出とプレゼントをあげたいのだ。
「う~ん、じゃあ涼ちゃんが裸で首にリボンでも巻いて、『俺がプレゼントだよ』って言えばいいんじゃない?」
「え、さすがにそれは…ちょっと、恥ずかしいかも……」
「じゃあメイド服は?それ着て、若井の誕生日に涼ちゃんがメイドさんとして色々とお世話してあげて、エッチも涼ちゃんが積極的になったら、若井きっと喜ぶと思うんだけどな~」
「ほんと…?」
「うん、ほんとほんと!」
裸にリボンは恥ずかしいけれど、布地の面積が増えた分、まだメイド服の方がマシだと思えた。
でも俺なんかがメイド服着て、若井は喜んでくれるのかな。あれって、おっぱいがある可愛い女の子が着るから嬉しいんじゃないのかな。男が着ても犯罪にならないのかな、とか色々考えちゃうけど、でも元貴が言うのなら間違っていないのかも。
「でも、どんなのがいいのか、分かんない…」
「じゃあね~…」
言いながら、元貴がスマホを手に取って調べてくれる。ミセスの衣装コンセプトとかデザインを考えてくれている元貴のセンスだから、俺が選ぶより絶対にいいはずだよね。
「ほら、これなんかいいんじゃない?メイド服は若井のメンカラの青が基調だし。あ、ショーツはこれとかは?」
どれどれ、とスマホ画面を覗いたら、めちゃくちゃエッチなショーツだった。
「スケスケじゃん!布少ないじゃん!見えちゃうじゃん!」
「も~、それがいいんでしょ?若井けっこうムッツリだから、こういうの、めちゃくちゃ喜ぶだろうし興奮するって!」
「え、そうかな…」
言うと同時に、俺のスマホがぴろんと音をたてた。
「サイトのアドレス送っといたから。これで若井を悩殺しちゃいな」
あれ?これってスパダリな演出になってる?
……ま、いっか。
とにかく元貴が言うんだから、間違っていない、はず。
若井が喜んでくれると言うのなら、それが一番だもんね。
「元貴ありがとう!俺、若井に喜んでもらえるように頑張るね!」
「うん、応援してるから頑張って!あ、でも、手伝ったお駄賃として………」
誰もいないのに、元貴は俺の耳元でごにょごにょとささやいてきた。
お駄賃って、そんなことでいいの?
でもそれだけじゃ悪いから、今度元貴の大好きなイタリアンのお店で、好きなものいっぱい食べてもらおうかな。
「二人して、なにしゃべってんの~?」
ソロの写真撮影を終えた若井が入ってきて、当たり前のように俺の隣へと座る。元貴と若井の間に挟まれてちょっと窮屈だけど、それでもこうやって三人で並んで座るのが好きだった。
普段、『ねぇ、あの人、ちょっと涼ちゃんと距離近くない?』とか若井が拗ねることがあるけど、元貴にはそんな感情を向けることはない。俺だって、元貴がどれだけ若井にくっつこうと、仲いいなぁ微笑ましいなぁとしか思わないし。
すると若井が俺の手を掴んで恋人繋ぎにすると、指をにぎにぎと動かしてきた。
それに応えるかのように俺もにぎにぎして、一緒にリズムを刻むのが心地いい。
「ん~?若井のハニーのお悩み相談してた~」
「ちょっ、元貴!」
まさかさっきのサプライズの内容を話したりしないよねと焦りながら、空いている方の手で元貴の口を押えた。
「えっ!?涼ちゃん、俺、何かした?嫌なとこあったらちゃんと言って!直すから!」
口を塞がれた元貴がフガフガ言ってるけど、元貴の言葉を聞いた若井は焦ったような声を上げる。
バカだなぁ。
若井に嫌なところなんて、一つもないよ。
直すところなんて、全く思い浮かばないもん。
いつだって俺を愛してくれているし、ちゃんと言葉で伝えてくれているじゃない。
俺はクスクスと笑って、若井の耳元で『大好き』と囁いた。元貴に聞こえないようにすごく小さな声だったけれど、若井がホッとしたような顔をしているから、ちゃんと聞こえたと思う。