テラーノベル
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プロローグ
「…まだ、…描き終わってないのに…。」
病室の消毒液の香りと、真っ白な絵の具みたいなシーツ、それから真っ白の壁と天井。それらに囲まれながら俺は今、息絶えそうになっている。
まだ。死にたくなかったな。
まだ……育てきれてないのに……
「まあ!命、また優秀賞を取ったの?凄いわねぇ!ねえ、貴方、命は天才なのよ!」
母親はなんでもかんでも大袈裟だ。
「…大袈裟だよ。恥ずかしいな。早くこんな絵捨てなよ〜!」
「…いいえ。」
「は?」
いつもほわほわ〜っとしている母が、急に空気をずしりと重くした。
「貴方は、この作品の、」
幼少の時、1番記憶に残っている母の言葉。
その時の俺には、1番衝撃的だった。そうだったのか、今まで俺は、何度も自分で生み出した絵を捨てようとしていたのか、蔑んでいたのか。
ほとんどそれは、虐待をする親同然という訳だ。
だから母親は俺の作品を頑なに捨てようとしなかった訳だ。
それから俺は、作品一つ一つ心を込め、ゆっくり時間をかけて作品を作り上げた。
それから、10年が経った頃。今俺は、17だ。
部活も中学高校、どちらも美術部で、小学校の頃から絵画教室に通って、実力を伸ばして行った。
その間にも、何度も何度も賞を取り、天才と呼ばれ続けて来た。
だが3ヶ月前辺りから、体調の不調が続いている。絵もあまり描けなくなってきた。
絵の代わりに書いている日記も、集中出来なくて…ほとんど空白だ。ずっと、ズキズキ痛んで。死にそうだ。テストの点数も下がってきていて…不安と焦りでどうにかなりそうだ。
両親に心配されたくないから、今まで隠してきたが、もう、隠しきれないところまで来てしまった。
ある日の、全員揃った夕ご飯のこと。
俺は今まで痛みを知られたくなくて、ずっと自室で食べていた。でも、今日一緒に食べると言ったから、母さんが張り切っていた。
これからその雰囲気を壊すとなると、少し罪悪感がある。
「母さん、父さん。」
「あら、どうしたの、命?もしかして、進路の事とか?」
「そうか、もう命も高校2年生だもんなぁ」
父さんが懐かしい。と笑っている。
心臓がどこにあるかよく分かる程バクバク音をたてる。正直吐きそうだ。
「違うんだ。母さん。」
俺の真剣な様子を見て、両親は真剣に話を聞く体制になった。
「…何か、あったの?」
「…最近…いや、3ヶ月くらい前から胸の痛みが止まらなくて…何をしても集中出来なくて…あんなに好きだった絵が、描けないんだ…!」
母さんがこれでもかと言うくらい目を見開き、顔を真っ青にする。
父さんもびっくりして、箸を落として、目を見開いて硬直している。
「なんで…どうして早く言ってくれなかったの、!?」
「…ごめん。母さん。」
「命、明日は病院行くわよ、もしかしたら…いや、そんな病気では無いと思いたいのだけど…」
母さんが顔を真っ青にしながら何かを呟いていたが、俺には、両親に伝えた緊張から解放され、そんな言葉を聞く余裕も無かった。
そして。俺のせいで空気が硬くなったあの夕食の味は、正直分からなかった。
その翌日。
診察が終わって、待合室で待っていた。
「…暇だなぁ。」
病院に着くと何故か症状が落ち着くアレ。なんなんだろう。
久しぶりに胸の痛みが少ない日なので、この時間を無駄にしてしまうのは少し勿体なく感じた。
絵が描きたい。
そう思って数十秒。
先生が血相変えて走ってきた。
「どうしたんですか!?」
大袈裟な母さんが、先生に聞く。
そんなに、やばいことなのだろうか
先生が、額に汗をかいて、俺たちに言う。
「…こちらへ、どうぞ。」
嫌な予感が肌を刺す。空気が重くて重くて、思うように吸えない。
「…残念ながら…命くんは…虚血性心疾患の疑いがあります。」
「…え、?」
母親は元看護師で、その病気の危険性は大いに理解できてしまった。
「う…嘘…!嘘ですよね、!?嫌…信じられない…!命は…死んでしまうのですか、!?」
「え、死…!?」
死の単語を聞いた途端、俺の顔から血の気がサーっと引いていくのを感じた。
…寒気がする…怖い。死にたくない。痛い。嫌だ…
これらが一気に俺の頭にいっぱいに広がった。
何故か、胸の痛みが強くなってきた。
痛い、痛い…!
「…痛い…」
「…もう、命くんは既に重症化が始まっています。若いので、病気が回るのが早かったのでしょう。」
「…入院生活を覚悟して下さい。お母様、後で命くん抜きでお話をさせて頂きます。」
母さんが、泣いている。
子供のように。今までほんわかしてて、泣いている姿を見かけたことが無かった母さんが。
意外過ぎて、一瞬固まったが、入院生活という言葉が胸に刺さって。
胸がもっと痛く感じる。
胸に一つ一つ針を刺されているみたいだ。
ショックで正直死にそうだ。
「母さん…おれ、死ぬの、?」
思ってたよりも。俺の声は震えて。温かいものが頬を撫でる。
俺、泣いてるんだ。
母さんが震えた声で俺に言った。
「…ごめんね…命…!」
「こんな…こんな怖い病気になるだなんて…本当に…ごめんなさい…!命…貴方にはまだ…生きていて欲しいのに…!」
「母さん。俺、治るの?」
母さんは焦って質問が聞こえていないのを俺は分かっていながら、答えられないであろう質問を投げかけている。
傍から見たら阿鼻叫喚だ。
医者は、目を瞑ってこんな阿鼻叫喚見たくないとでも言う程に眉間に皺を寄せていた。
「ねぇ。母さん…俺、死にたくないよ。」
「なぁ…治るのかよ…母さん…」
「ごめん…ごめん…命…未来はあったのに…!」
「なぁってば!!!」
「…命、?」
「質問に答えてくれよ…!俺…やだよ…生きたいよ…!治らないのかよ…!?どうなんだよ、!?」
声が裏返ったけれどそんなことどうでもいいくらい俺にとって悲痛な出来事だった…だから。大きい声を出したって仕方がないだろ、?こんな、こんな死ぬ病気を俺は、17で患ってしまったんだ。少しくらい。地獄絵図になったって、仕方ないだろ、?
「母さん…!」
母さんが泣きそうな目でこちらを見ていた。
「…泣きたいのは…俺だよ…母さん…」
「…!…命…..母さんに…落ち着く時間を少しくれる、?母さんは…分からないから…命に、なんて言えばいいのか…後悔したくないから…!」
「…俺には時間、ないんでしょ、?」
「落ち着いて下さい、命くん、お母様。お辛いのは分かりますが…」
ようやく、医者は止めに入った。声がかけられなかったのだろう。17と言う若すぎる年齢で、もうすぐ死んでしまう程の大病を患い、どうすればいいのか分からなくなって母親に縋る。
そんな質問攻めをされる母親は質問すらも耳に入らず、絶望している。この状況下で誰が話しかけられるだろうか。
少なくとも、俺は必死なんだよ。死にたくないし…まだ、遊んでいたい…俺、好きな人も出来たのに。告白出来てないのに…まだ俺生きたいよ…
まだ…絵も満足出来る程の作品数描けてないよ…
「ねぇ…お医者さん。俺、まだ生きたいよ…」
医者は首を振って、こちらを哀れんだような顔をする。共感しているつもりなんだろうが、こちらとしては腹が立って仕方ない。
そんな顔芸してる暇があるなら俺を助けろよ。
今回はこれで。正直虚血性心疾患の知識がほとんど手探りで知らないので、どこか違う部分が多分あります。暖かい目でこの先も見守ってて下さい。あとアドバイス下さい。
この先この物語はもっっっと長くなっていきます。しっかり命くんが死ぬまで続けようと考えているので、命くんの死に様を、その目で見届けてあげてください。