テラーノベル
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イベントが終わったあと、Edamimiはそっと一人でホールを抜け出した。人の声も遠のき、夏の終わりの夕暮れが静かに包み込んでくる。
(……ほんとは、もっと話したかった)
あのとき、Candelavraが笑ってくれた。指がふれたときも、優しく名前を呼んでくれた。**すごく嬉しかった。**でも――
「なんで、あたし……何も言えなかったんだろ」
言葉が出ない。嬉しい気持ちも、ドキドキも、全部胸の奥でつっかえて、口に出そうとするたびに、怖くなる。
「……あたしなんかが、好きになってもいいのかな……?」
その声は、とても小さく、誰にも届かないつもりだった――が、
「Edamimiちゃん」
ふいに、静かな声がかけられた。振り返ると、Soozaが立っていて、その後ろにはFloogullもいた。
「……あ、ごめん、聞いてた……?」
「うん。でも、聞いてよかったと思ってる」
Soozaはふわりと笑って、Edamimiの隣に腰を下ろす。
「私もね、Floogullと付き合ってるけど……最初は、すごく不安だったよ。真面目すぎて、いつも考えすぎちゃう彼に、どうやって気持ちを伝えたらいいかわからなくて」
横でFloogullが小さく苦笑いしながら続けた。
「僕も……実は、Soozaのこと何度も誘おうとして、メールの下書きを何回も消してたんだ。気持ちが空回りして……勝手に落ち込んだりしてね」
Edamimiは、少し驚いた顔をした。いつも穏やかで落ち着いて見えるこの2人にも、そんな時期があったなんて。
「でもね」とSoozaは、優しく語りかける。
「一歩踏み出せたのは、“このまま何も言わなかったら、きっと後悔する”って思ったから。たとえ傷つくとしても、それでも想いを伝えたい、って」
「……後悔」
「うん。だって、あの人の隣に誰かが立ってる未来を想像したら――どうしても、黙ってなんかいられなかったの」
その言葉が、Edamimiの胸に静かに染み込んでいく。
「……」
「Edamimiちゃん」
Soozaの手が、そっと彼女の肩に添えられる。
「あなたの気持ちは、誰かの“変”なんかじゃないよ。きっと、Candelavraちゃんも……それを知りたがってると思う」
しばらく沈黙が流れたあと、Edamimiは小さく息を吸って、ぽつりと言った。
「……あたし、ほんとはずっと好きだった。最初に話しかけられたときから、ずっと」
夕焼けに染まる瞳が、少し潤んでいた。
「じゃあ、伝えてあげて」
Floogullが、珍しく真っ直ぐな声で言った。
「君の“好き”は、ちゃんと価値がある。“伝えられる勇気”も、君にはある」
その一言に、Edamimiはぎゅっと手を握りしめて、小さく頷いた。
⸻
その夜、Candelavraは部屋でノートを開いていた。文字を書くでもなく、ただペン先で紙を撫でるように、ぼんやりと。
(……やっぱり、もう会わない方がいいのかな)
ふとそんな弱気な考えが浮かびかけたそのとき、スマホに通知が届いた。
「明日、少し話したい。会ってくれる?」
送り主は――Edamimiだった。
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