テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
「ステラ……お前は直情的過ぎる。そして口も悪い。今回は場所が自宅で聞いていたのが俺だったから良かったものの……レシュー家のご子息を貶めるような発言は慎め」
「あら、私『あのバカ』としか申し上げておりませんが……それだけでよくマルク・レシューの事だとお分かりになりましたね。バカというだけで即座に彼を連想させるほど、マルク・レシューの評判は悪かったかしら。それとも……お兄様が常日頃から彼の事をそう思っていらっしゃるからでしょうか?」
兄のスカした表情が一瞬だけ強張る。ざまぁない。良識ある大人の振る舞いを僅かであるが崩せて小気味良かった。
「ああ言えばこう言う……揚げ足取りはやめろ、ステラ。お前がそんなにも憎悪を向ける対象なんてひとりしかいないだろう」
「分かっていらっしゃるのなら、少しは私の気持ちも汲んで頂きたいです。私がリナリアと親友同士なのもお兄様はご存知でしょう? 友人を心配して憤ることはいけない事なんでしょうか」
「時と場所を考えろという話だが……」
「ええ、だからこそ我が家の一室での独り言だったのでしょう? お兄様が勝手にそれに割り込んできただけではないですか」
「もう、いい」
兄は頭を掻きむしりながら溜め息を吐いた。リナリアが婚約者に不当な扱いを受けていることは兄だって重々承知している。私は今日あった出来事を兄にも説明した。
デート当日でのドタキャンは最近の中でもかなり酷いエピソードに入るだろう。この話を聞けば表情の変化に乏しい兄でも青筋のひとつくらい浮かべるだろう。
兄が私同様に怒りを露わにすると期待していた。しかし、残念ながら兄の反応は私が想像していたものとは全く別のものだったのだ。
「……その話は知っているよ。さっきまで俺はアルメーズ家に行っていたんだから。リナリアとも少しだが会話をした」
「えっ!?」
兄がひとりでリナリアの家に行ったのか。私の護衛とかいう見えすいた言い訳がないと彼女の側に近づくこともできないヘタれだったのに。どういう心境の変化だ。
今までとは違う兄の行動に面食らってしまう。しかしだ。よくよく考えてみると、リナリアは本日私と出かけていたので夕方近くまで不在だったはずだ。兄がアルメーズ家に行っていた目的はリナリアではないのか。
「あの、お兄様がおひとりでリナの家にいくなんて珍しいですね。どうなさったんですか」
「アルメーズ子爵……リナリアのお父上に用があったんだよ」
「リナのお父様に……あっ、もしかしてマルクとの婚約は考え直すように助言なさったとか? それとも、自分の方がリナに相応しいと売り込みに行かれたのですか」
「…………」
「……マジ?」
冗談で言ったのだけど……これはもしや、まさかのまさかなのか。本当にどうしたんだ。私の知ってる兄じゃないぞ。
「ステラ……物事には順序というものがある。いくらマルク・レシューがクソ野郎だとしても、子爵に突然そんな事を言ったら頭がおかしいと思われるのはマルクではなく俺だろう」
マルクの事『クソ野郎』だって言ってんじゃん。私の『バカ』と大差ない罵りじゃん。不用意な発言は慎めじゃなかったのか。しかも自分の方がリナに相応しいってのも否定しないんだな。こういうとこちゃっかりしてんなぁ。
「では、なぜ?」
「すまないが、今はまだ詳しく説明することができない。仕事の話……これで納得してくれ」
兄の仕事……つまり、王家からの命で動いているということだ。背後に王太子殿下がいるのを暗に匂わされた。殿下はリナリアの家を調べているのか……どうしてだ。あの方が意味もなくそんな事をするはずがない。必ず理由がある。
リナのお父様は少し頼りなさそうな所はあるが、優しくて誠実な方だ。厄介な事件に巻き込まれているのだとしたら……
不安な気持ちが顔に出ていたのだろう。詳細は言えないとしていた兄だが、もう少しだけ内容の補足をしてくれた。
「お前が想像しているような事にはならない。いや、ならないようにする」
心配しなくていいと兄は微笑んだ。恋愛に対しては不器用でヘタれだが、仕事に関しては間違いなく優秀な人だ。兄がそう言うなら大丈夫なんだろう。
リナリアにもこれくらいスマートに対応できればいいのに。妹と好きな子相手では勝手が違うのは当然であるが……ほんとうに色々と残念な兄だ。
「はい。完璧なお兄様に出来ないことなんてありませんものねー」
「……なんだかバカにされているような気がするんだが気のせいか」
「気のせいですよ」
「リナリアが心配なのは分かるが、くれぐれも余計なことはするなよ。お前は今まで通り、彼女が落ち込んでいたら寄り添って元気付けてやれ」
「それは言われなくてもですけど……お兄様こそ、リナを励ましてあげたらどうですか。あの子との距離を縮める切っ掛けにもなりますよ」
「俺には俺のやり方がある。要らんお節介もしなくていい」
一応婚約者がいる相手にあからさまに迫るのは駄目か。兄を応援したい気持ちは常々あるが、私たち兄妹との交流が始まった時点でリナリアは既にマルクと婚約していたのだ。相手がいる女性を好きになってしまった兄。そんな彼の葛藤や苦悩を考えると胸が痛い。
ふたりがもう少し早く出会えていれば良かったのに――――
そんなもしもを想像してしまう。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
#一次創作