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冷たい雨が降る中、俺は通い慣れた街路樹を歩いていた。もう何度も通った彼の家へと向かう道。
「今日で最後にしよう…」
雨でくれた前髪が、額にまとわりつくのが嫌で、無造作にかきあげた。いっそこのまま消えてしまえたらと思い、目を閉じて空を仰いだ。彼といた月日は短いようで、長くて。全てが眩しく思い出される。
ふと、頬を雨では無い温かいものが流れた。
「俺は……本気なんだけどな……」
彼の部屋につくと、雨に濡れた俺に彼は驚いていた。
「傘は?」
「ん?忘れた……」
「とりあえず、お風呂入っておいで」
「ありがと……」
俺はすぐにシャワーを浴びて冷えた身体をあたためる。そういえば初めて身体を重ねた日もこんな雨だった。あの時もこうやってシャワーを貸してくれた。あの時は彼もびしょ濡れでら先に入ればいいのに強がって、あとから風邪ひいてた。
風呂から上がると、いつ通り着替えとタオルを用意してくれてた。それに着替えると、俺は彼の待つ寝室へと向かった。
「おかえり、りぃちょくん」
「ん…ただいま」
当たり前のように微笑みながら、彼が俺を引き寄せる。この腕の中が心地よくて、何度もここへ来てしまう。彼を独り占めしたくて、でもできなて…なんと涙を流したか分からない。
「愛してるよ」
「またそうやって…誰にでも言うんでしょ?」
「違うってばw」
そう言って茶化す彼は、俺の目を見つめてはくれない。いつも強く抱きしめられていて、顔が見えない時に「愛してる」と伝えてくる。そんなの信じられない…。
「愛してるよ」
「キャメさんは俺を愛してない……」
「愛してるってばw」
この雰囲気に耐えられなくなって、俺は別れの言葉を伝えようと口を開いた。
「ねぇ……あのね?」
「こっちへおいで。もっと近くへ…」
そんな優しい声で呼ばないで…期待したくなる。ほんとに愛されてるんじゃないかって錯覚する…。俺は愛される資格なんてないのに…。
意識して欲しいからと、散々遊び呆けて、それを見せつけてきた。それでも彼は、いつもにこやかに迎えてくれてた。優しさなんていらないのに……。もっと責めて、俺を縛ってくれたらいいのに…。なんで責めてくれないの?ほんとに好きじゃないから…だから責めてくれないの?
そう思ったら自然と涙がこぼれてきた。
「泣いてるの?」
「……泣いてないよ」
「うそ……だって……」
「もう…黙ってよ……」
俺はぎっと彼に抱きついた。やっぱり大好きだ。別れなきゃならないのに…別れられない…。恋がこんなに苦しいなんて…。知ってたなら恋なんてしなかったのに…。さよならって言いたいのに言えない…。こんなに弱くなるなんて……。
「ほら……泣いてる……」
「うるさいよ…」
彼は俺の瞼にやさしいキスを落として抱きしめてくれた。
「もう……ヤダ……止まらない……」
気持ちが溢れて止まらなくなった。涙も気持ちも溢れて溢れて、キャメのシャツを濡らしていった。そんな俺を、黙ってだきしめてくれていた。
「キャメさん……キスして?」
「ん…いいよ」
「抱きしめて……離さないで」
「わかった……」
優しいキスを降らせてくれる彼は、ちゃんと俺を抱きしめてくれていた。そんな彼の頬を両手で挟んで俺の方を向かせた。
「愛してるよ?誰よりも愛してる……」
「俺も愛してるよ…」
「俺を離さずにいて……?」
「もちろんだよ」
俺はきっと君が思うよりももっともっと愛してる。声に出して言いきれないくらいに。
たとえ、君から会いに来てくれることはほとんど無くても…。俺が会いたいって言わないと会ってくれなくても…。
俺が別れたいって言ったら、君はなんて言うんだろう。笑っていいよって言うのかな?それとも、嫌だって泣いてくれるかな?
もう少し…もう少しこのままでいよう。彼が俺に飽きて離れていくまでは…。
臆病な俺は、この悲しい関係を辞められない。