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沈黙の時間が流れる。
蘭「?、入んねーの?」
俺が問いかけるとそいつは戸惑ったような顔をしながら、
「め、迷惑かなぁ、と思って」
そう俯きながら答えた。
蘭「⋯別に、俺も暇してたとこだし、」
蘭「こっち来いよ」
と、手招きをする。
ゆっくりとこちらへ足を運んでくる。
その時のそいつの顔がなんだか、面白くて、思わず吹き出す。
蘭「ふはっ!、そんな怖がんなよ、なんもしねーって笑」
「⋯ぅっす、」
うっすって笑
蘭「⋯!」
青ネクタイ、2年か。
蘭「⋯いつも、来てんの、ここ」
なんだかもう少しだけ、こいつのことを知りたいと思った。
「あー、そーですね、お昼休みに、少しだけ」
蘭「⋯いつから」
「去年、の6月くらい⋯?だと思います。」
蘭「ふーん、」
去年6月⋯その頃から、いたのか⋯
正直驚いた。
俺以外この場所を知らないと思っていたから。
先生達でさえも近づかないこの場所は放課後の休みのひと時にピッタリだった。
そんなことを思っていたのに、まさかの、何ヶ月も他の人と共同で使っていたのか。しかもお互い誰か使っていると知らない状態で。
ふふ、と無意識に声がこぼれた。
蘭「なんで、ここ、使ってたの?」
「誰も居ないので、使いやすかったんです。その、カツラ外したくて。」
蘭「なるほどね、いいよな、ここ、誰も来なくて」
「はい、すっごく。」
もう少しだけ⋯と、何回も何回も会話を続けていると
キーンコーンカーンコーン
5時のチャイムが鳴った。
蘭「あー、もう、こんな時間かよ、帰んねーと」
「ぁ、帰るんですか?お気をつけて」
えぇー、すっげぇドライじゃん。
おもしろくない…。と
なんだか無性に腹が立つ。
蘭「なんか、帰って欲しいみてー」
少しいじけたようにそう放つ。
「いや、違います、違います。断じてそんなんじゃありません。」
すっげぇ焦っててウケる笑
蘭「そー、ならいいけどー笑」
机から立ち上がり、扉の前に立つ。
蘭「あ、そーいえば⋯」
大事なことを思い出して、立ち止まる。
「?、どうかしましたか?」
蘭「名前、聞いてないと思って、」
そいつの方に振り返る。
「あぁ、なんだそんなことですか。」
春千夜「三途春千夜です。よろしくお願いします。」
蘭「三途、春千夜」
なんだか珍しい名前だなーと思いながら扉にまた手をかける。
ガラガラ
蘭「わかった、じゃあ、また今度ねー」
春千夜「え、ちょっと待ってください」
蘭「ん?」
焦るように呼び止められる。
春千夜「先輩の名前は?」
蘭「え、」
思いがけない言葉に足をとまらせる。
春千夜「え、って、当たり前じゃないですか、こっちだって名乗ったんだから、先輩もですよ」
蘭「お、俺の事、知らねーの⋯?」
震えた声でそう放つ。
春千夜「?、そんな有名な人なんですか?先輩。」
蘭「いや、まぁ、そっ、か」
動揺を隠せなかった。
自分が有名だとは微塵も思っていなかったが
2年くらいの奴らなら皆が1度は聞いた事、見たことがあるものだとは思っていた。
いや、実際そうだ。これは自惚れなんかじゃない。
先程、2年の教室の前を通った時、ほとんどのやつが今までと同じ目線で俺を見ていた。
これは事実だ。
だったのに、
こいつはどうだ。
俺を知らないどころか、見たこともないらしい。
蘭「⋯」
そんなやつ、出会ったことない。
初めての刺激と衝撃に、鼓動が早まる音が感じられる。
春千夜「先輩?」
蘭「俺も、まだまだだなー⋯」
春千夜「⋯え?」
なんて、冗談じみたことを言って、何とか心を落ち着かせる。
蘭「⋯蘭、灰谷蘭、俺の名前」
春千夜「灰谷、蘭、先輩」
蘭「⋯名前聞いても、俺の事わかんねー?」
春千夜「す、すみません、全く⋯」
蘭「⋯そっか、」
やっぱり、
嬉しくて、思わず頬が緩む。
蘭「⋯じゃ、またな」
春千夜「はい」
ガラガラガラ
春千夜「またな、⋯か」
今にも飛び出しそうなほど脈を打つ心臓。
鼓動が痛いくらいに耳に届く。
蘭「⋯、っ」
あいつは本当に俺について何も知らなかった。
今までの灰谷蘭を、あいつは、知らない。
蘭「うわぁ”ぁ”ー、」
思わず顔を手で覆う。
蘭「まじかぁー、」
今まで、こんなこと無かった。
俺の事を1ミリも知らないアイツはきっと、
俺をカリスマとも王子とも、呼んだりはしないし、
嫉妬や、劣等感、尊敬の意が潤んだ目で俺を見たりはしないだろう。
普通のやつになら、嬉しいのか?と言われる状況
俺にとっては、死ぬほど嬉しい。
今まで、竜胆しか、俺を見てくれなかった。
いや、竜胆しか、俺を見れなかった。
親でも、教師でもクラスメイトでも、
誰も彼も、灰谷蘭 という名前でしか俺を見てくれなかった。
でもあいつなら、
蘭「本当の俺をちゃんと見てくれるかもしれない⋯」
先程まで憂鬱だった気分が嘘だったかのように足取りが軽い。
初めて、あんなやつと出会った。
蘭「♪」
こんな面白いことがあんなら、
嫌なクラス替えの日もまぁ、悪くない。
蘭「三途、春千夜、か」
名前を口に出して、改めてかみ締める。
蘭「また、⋯会えるかな」
これからへの淡い期待を胸に、その日は帰路に着いた。
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一応このお話はここで終わりになります!
読んでくださりありがとうございます‼️