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男は逃げていた。
走って走って、走った。――ダメだった。
追い付かれてしまったのだ。
男を追っていたのは1人の女。
年端もゆかぬ様な顔立ちでありながら、夜を支配しているかの様な女――橘 香織だった。
********
「今晩は。元ポートマフィアの谷田さん?」
其う言って彼女はにこりと笑った。
「な、何故俺の名前を,,,」
「あら、ポートマフィアから逃げられると思ったの?可哀想に。裏切り者には制裁を加えなきゃいけないでしょ?」
彼女はポートマフィアの追手だった。
裏切る前から解っていた。裏切ってしまえば、ポートマフィアから報復があると。其れでも、俺は此方を選んだ。
なら、今俺はどうすべきか?
無論、彼女を殺すべきだ。彼女を殺したとて、直ぐに別の追手が来るだろう。だが、此処さえ乗りきれば、あとは組織がなんとかしてくれる。ならば、異能を使うまで!
「あため!」
其う俺が叫ぶと、深紅のドレスに身を包んだ女が現れた。足は無い。当然だ。あためは異能生命体なのだから。
「あため、彼奴を殺せ!」
其う俺が命令すると、あためは彼女に攻撃をし始めた。銃を打ち、短刀を投げた。
「あはっ、面白くなってきたじゃない!」
彼女は其れらを全て避けながら、彼女の銃を取り出し、打ち始める。
あためと彼女の戦いが始まった。
彼女の動きはまるで[[rb:円舞曲 > ワルツ]]を踊っているかの様に優雅だった。思わず見とれてしまう程に。
,,,いけない、早く逃げなければ。
あためは10分間しか呼び出せない。
戦況は,,,
彼女はあためにばかり攻撃していて、此方に攻撃してくる気配はない。今のうちに逃げよう、と1歩踏み出した時だった。
此方に何かが飛んできた。
反射で避けたが、避けきれなかった髪がパラパラと宙に舞う。
「?!」
「逃げるなんて酷いなぁ。未だ本気も出してないってのに」
彼女は短刀を投げてきたのだ。戦いながら、あためが投げた短刀を拾って。
嗚呼、逃げられないと悟る。
なら、此方も武力行使だ、と銃に手を掛けた時だった。
あためが消えた。10分経ってしまったのだ。
「あらぁ、消えちゃったわね?此処から貴方1人で勝てるかしら?」
其う言って彼女は銃を数発打った。
思わず尻餅をついてしまう。足が震えて力が入らない。
恐怖心だ。俺は怯えているのだ。こんな年端もゆかぬ様な女に。
戦闘が強いからだろうか。なんだか違うような気もする。
「強すぎる,,,」
「ふふっ、未だ未だ本気出してないわよ?」
彼女は其う笑った。
「,,,ねぇ、良いこと教えてあげよっか」
「良いこと?良いことって何だ?」
「其れはねぇ,,,」
其処から先は喋らなかった。
彼女は、無言のまま立っていた。
まるで、己こそが此の場の支配者であると理解しているかのように力強く、静かな殺気を放ちながら。
、、、否、まるで、ではない。
何故なら、彼女こそが此の場の支配者なのだから。
「貴方は、勘違いをしているわ」
彼女は手袋を外しながら云う。
勘違い?何を勘違いしていると云うのだ。
落ち着け、落ち着け。どうせ出鱈目に決まって――――
「私が恐れられてる理由はねぇ、戦闘が強いからじゃないんだもの。――狂え」
其う云って彼女が俺に触れた――と共に、俺の異能生命体が俺に銃を撃ってきた。
「くっ!?」
何故?何故だ?俺の異能生命体は俺の命令しか聞かないのに。
俺が戸惑っている間にも、異能生命体は攻撃をしてくる。
「あら、未だ解らないの?私が恐れられてるのは――異能が強いからよ」
異能――!
真逆、此奴は―異能を反転させる異能力者?
此処数ヶ月で噂されるようになっていた異能力者がこんな年端もゆかぬ女だったとは,,,
「グハッ、お前,,,!」
「あら、気付いた?でも、もう遅いわ。狂い死になさい」
俺は此の儘じゃ、確実に死ぬ。異能に頼ってきたのに、其れを奪われては勝ち目が無い。ならばせめて――
********
パンッ!という音が月夜に響いた。
其れは谷田が銃を打ったからである。
そして、香織の左腕に命中した。気付かなかった訳では無い。
近くに居たことと、反応が遅れたことが原因だった。
「っ,,,!最悪,,,さっさと死んでよね,,,!」
其う言って香織は銃を打った。
其の弾丸は谷田の胸に命中した。
そして、悲鳴を上げるまでもなく、死んだ。
「やぁっと死んだ,,,早く本部へ行かなきゃ,,,」
香織は、最悪、油断しちゃったなぁ、と呟きながら、ヨロヨロと歩き出す。
――横濵の闇の最深部、ポートマフィア本部へと。