【今宵,妖魔と御稲荷は夢ヲ見る】
第肆話:紫陽花の瞳に
神社を旅立って、5日が経ちました。寂しいです。
この寂しさを紛らわす為に、私なりに、例の3人を分析(?)していく!
まず、祗園白 夏留土。どぬく師匠!
物珍しい白髪で…瞳は、海のような藍、燃え盛る炎のような紅色をしています。どぬくさんの袴の帯はなんと弐本で、小袖が白色、袴が灰と黒の間の色なんです。柄は特にありませんが、とても美しい!
一番驚くのは、頭!
狐の耳がついている…これは宇迦之御魂神の象徴!御稲荷様。つまり狐の姿になれるとか、なれないとか。江渡さんが、教えてくれました。
そして、お稲荷さんが大好き!
次に、江渡 燈花。えとさん!
えとさんはきれいな長髪で、太陽の光に当たるとほんのり橙色に見えるのです。遺伝らしく、とても不思議だと本人も言っていました。瞳は真っ茶色で、少し羨ましいです。
お顔が、人形のようで紅がとてもお似合いです。
いつも橙色の生地に金木犀の刺繍がされた浴衣を着ていて、美しいんです。でも少しだらしなくて着崩れしたり、寝癖があったりと…それですら面白いですけどね(笑)
万屋「百桃屋[モモヤ]」の店主で、袴、浴衣、着物が作れるそうです。お料理が得意らしく、特に得意なのはお魚料理だそうです。
ちなみにお握りは頬が落ちるほど美味です!
そして、赤坂 龍太郎。じゃぱぱさん!
えとさんのように、髪色が魅力的!赤っぽい黒で、とても綺麗なんです。どぬくさん曰く、植物でなんか難しいことして染めているそうなんです!!
髪って染められるんですね(笑)
黒の袴に緑の小袖。素晴らしい刀を打つ素晴らしい力。でも、たまに変です。でもその変わったところが面白いんです。
頼り難い感じですが、意外と頼れるお兄さんって雰囲気がします!
私、この人達に囲まれてすごく幸せ!!
「__な!、」
どぬく「るな!!」
聞き覚えのある声に呼ばれ、目を覚ますと辺りはもう闇に包まれていた。
るな「うわッ、…すびません。寝てました…」
と、口が回らないまま申し訳なささ混じりに話すと、どぬくさんは太陽みたいな、子供のような笑顔を浮かべまだ熱を含み、湯気をゆらゆらと出しているそれを差し出してきた。
どぬく「お魚焼けたよ!」
るな「やった!」
久し振りの夜ご飯です。今夜は、近くの川で取ったお魚さん!塩なんてありませんがこれでもめちゃめちゃ美味しい…
どぬく「村まで、明日には着くと思うよ」
るな「え?、早くないですか?」
どぬく「だいぶ急いだからね〜。だから力蓄えないとッ!」
るな「はい!」
そう笑って、串刺しにして焼いた川魚を頬張った。少し塩っけがあって、そしてとても熱くて美味しい…そんな事を考えていた。
そんな中でも、ああ、青空を見れるのが最後なのかもしれない。そう考え、心がきゅっと締め付けられて苦しくなってしまい、魚を頬張る手が動きを止め少し震える。
どぬく「生きて帰ろう」
目を隠してしまいたい現実が、すぐそこまで迫ってきていると考えると、目頭が焼かれたように熱くなる。
るな「…怖いです」
どぬく「ごめんね、巻き込んじゃって」
るな「そ、そんなっ…弟子になりたいと申し出たのは私自身です。死んでも、自己責任ですから!」
どぬく「るなは強いよ。優しくて、清らかで、誠実で、頼れる。初めて会ってから何ヶ月も経つけれど、成長しているよ。」
どぬく「だから」
どぬく「絶対に帰ろう、?」
るな「はい。こんな私ですが、頑張ります。」
るな「ところで、どんな妖魔が…?」
どぬく「…」
不安そうな、でもどこか悲しげな表情を浮かべ口を開きかけた。でも、歯を食いしばったような素振りをみせ、
どぬく「行けばわかる。」
そう言った。
るな「は、はぁ…」
どぬく「まあっ!気にせずッ寝よう!」
るな「…ですね!!」
そうして、持ってきた薄い布を羽織り柔らかな土に寝っ転がった。
空を見上げると、幾多もの星が光り輝き私達をほんのり照らした。
衣麻琉と共に神社を旅立ち、梟[フクロウ]を飛ばしてきた村へと向かっていた。
田畑は荒れ、民家は所々崩れ中からの光が漏れ、夜の闇を多少照らしている。
その村はさぞかし自然の豊かな、そして穏やかな村であっただろう、そう思えた。
___妖魔が出た。
それは村人からしたら恐ろしい事だ。
るな「うぅ、ここは血溜まりが多いですね…食欲が失せます」
確かに血の臭いが酷い。喉が痛めつけられるような感じがする。
どぬく「何人死んだと思う?きっと__人程は…」るな「やめてくださいよ。取り敢えず誰かに話でも聴いてみましょうよ。思い出したく無いでしょうけどね…」
そう言いながらおにぎりを食べている。これ程の悪臭を鼻にしても尚食べ物が喉を通る事に、とても驚いてしまう。
どぬく「稲は、どれだけ倒れたか…命の根が…」
駆けてくる音が聞こえて目を凝らす。いくら夏のはじめとは言っても流石に今の時間は闇に包まれる。
「夏留土様と衣麻琉様ですか!?」
細身の、年は廿あたりであろう男だ。妖魔達のせいか、隈が酷い。とても見るに堪えなくて、心をとても痛めつけられてしまう。
るな「はい。貴方が梟を飛ばした方ですか、?」「そ、そうです。それより!また、…よ、よ、妖魔が…出没したと…村の者が…」
震えた声で今にも泣き出してしまいそう。髪や服が乱れた姿で、言葉を発する度に顔がくしゃ、と縮まる。
どぬく「僕達に任せてください。だから、安全なところに…いてください」
「あり,がとう、ございます…」
がくっと膝を折り、その場に手を付き荒い呼吸をしだした。
るな「大丈夫ですか、?」
「はい、…どうか、どうか、お願いします」
どぬく「どこだ」
あれから少し経ったが、なんの音も匂いも攻撃も無く、ただ時間だけが経過してより深い夜に包まれていく。
ただ、ただ、鳥や虫の鳴き声だけが夜の空に響いて消えていく。
あまりの静けさに刀に掛けた手が汗ばんで震える。
るな「ッ…?!」
弾かれたように驚いて、辺りを見回し不思議そうな顔を浮かべた。気味悪さを感じているのか、若干顔が引きつっている。
どぬく「るな?」
るな「だれかいる、」
どぬく「?!」
気配を消した誰かを探す。でも、わからない。一体どこに隠れたのだろうか。
ガサッ
どぬく「こっちだ!」
るな「どぬくさんっ!!」
るなを置いて一目散に走り出した。
目と鼻の先にいるはずなのに闇に溶け込んで姿が見えない。足が強く地面を蹴って、風を切りながら走る感覚が少し肌寒かった。
どぬく「はぁ、はぁ、はぁ…」
追いかけたが、見失ってしまった。
自分の心臓の音が、まるで耳の隣でなっているかと思う程大きくなる。
荒い呼吸で水分を失った喉が、少し痛くて嗚咽になる。
辺りを見回すと、ひとつ、ぼろぼろの小屋がたっていた。
どぬく「…だれかいるかもしれない。」
そう思い、紐が緩くなりかけた草履を履いた足を引きずり歩き出す。
小屋の木は少し腐りかけていて、所々木が裂けていた。
小屋の戸を開けるとやけにげっそりした少年が端で膝を抱えて座っていた。
小屋の中はやけに埃臭かった。
どぬく「君、どうしたんだい?こんな暗いのに、今は妖魔が彷徨いているよ?お父さんかお母さんは?」
返事は無い。頷きもしないし、目を合わせることもない。
きっと皆この子を見たら気味が悪い子だ、そういうだろう。
威圧される謎の雰囲気があって自分の膝までも笑い出しそうだ。これまで妖魔を討ってきたが、こんなの初めてだ。驚きと、恐怖に包まれてしまって思うように
どぬく「大丈夫?どこか、怪我でも…」
「たす、け…」
言いかけると、少年は体を震わせて意識を失ってしまった。
るな「あっ、どぬくさん!!」
どぬく「ごめん。見失った。でも…」
るなは俺の手元を見つめた。
手元には、抱き抱えられた小柄な少年。
るな「その子は…?」
どぬく「わからない。誰かに聞いてみよう。」
るな「それと…妖魔…」
どぬく「気配が完全に消えた。変な感じも何も無いし、逃げたな…」
るな「じゃあ、大丈夫…?」
どぬく「取り巻きか分からないけど、雑魚妖魔がちらほらいるね。」
るな「ですよね。私も、二、三体倒しました!」
そういえば、少し結った髪が乱れたり、返り血が袴に付いていたりした。
どぬく「偉い!、流石るな!」
るな「ほ、ほんとですか?」
どぬく「うん!」
「本当にもう安全なんですか?」
どぬく「はい。大丈夫です」
どぬく「妖魔は一度、自分より強い者を見掛けた場所にはなかなか近寄りません。」
どぬく「今回は、妖魔の方が強いと思いますが、少し敏感だったんですね。」
違う、本当は違う。でも…そう言うしかない。
るな「それと、」
「は、はい?」
るな「この子の身元を知る人や、親族の方…」
「え?いや…多分この村の者じゃないです。」
どぬく「林の中の小屋に、1人でいました。」
「小屋?そんな所この村にありません!」
るな「どういう…」
「本当に知らないです。その子…人間ですか?」
るな「な、何言ってるんですか」
「あんた落ち着きなさい。すみません…この者、子供を亡くして…」
どぬく(この村は、子供だけが殺されている…やっぱり…)
どぬく「…申し訳ございません。不甲斐ないです。」
「大丈夫…少し、すれば…大丈夫ですから」
赤い目を擦り、鼻を啜った。
るな「その子どうします?」
どぬく「心配だな…連れ帰ろう。」
るな「えぇっ?!!」
「お願いします。今のこの村にそんな綺麗な男の子、可哀想です。」
「この村が、もう一度あの頃のように戻れるどうかさえ…わからない。」
どぬく「…頑張ってください。諦めないで、僕には何も出来ない。でも、いつでも頼ってください」
るな「私も頼ってください。」
「ありがとうございます」
目に涙を浮かべ、感謝するその女性は美しかった。
どぬく「…。」
えと「まだ、目覚めない?」
この子が気を失って今日で二週間が経った。この神社に戻ってきた時には足が腫れていて、とても痛かった。
道中、異常な程妖魔と遭遇して体に多くの傷を負ってしまった。けれどもこの子を守る、その想いが強く働き、なんとか帰ることができた。
どぬく「覚めないね…」
えと「そっか…はい、これ」
どこか疲れているえとさんは、俺に水の入った桶と手拭いを寄越した。
その手拭いを濡らし、少年の顔を優しく拭く。
目の前で、まるで息をしていないかのように眠る少年は、とても綺麗だった。
不思議だ
この子は
瓶郎地黒[ビンロウジグロ]の根元、桔梗色[キキョウイロ]の毛先の髪の毛。首筋で綺麗に切りそろえられていた。
肌はまるで今まで一度も日に当たらなかったと思う程、雪のように白く柔らかかった。そして、唇だけがあたたかな桃色をおびていた。
華奢で、小柄。
美しい寝顔をして、静かに寝息をたてていた。
その光景を目にして、己の顔が嫌な程真っ赤に染まる。
どぬく「綺麗…」
「…((ぱち」
どぬく「あっ!! 」
呟いた時、少年は瞼を開いた。
どぬく「えとさん!!」
叫ぶ声と同時に、部屋の襖が物凄い勢いで開かれえとさんが飛んできた。
えと「あ…!」
どぬく「起きれる、?」
返事がないので、赤子を相手にする気持ちで、少年を抱き起こした。
どぬく「俺が見える?頷いて?」
少し頭を下げまた目を合わせてきた。
瞳は驚くことに、見事な紫陽花のような紫色をしていた。
驚きを隠せぬまま話し続けた。
どぬく「喋れそうかな?」
えと「…」
「…は、ぃ」
細くか弱い返答がひとつ。
えと「よかったぁ…」
どぬく「俺、祗園白夏留土。どぬくって呼んでね。」
えと「私江渡燈花。えとって呼んで」
どぬく「君は?」
幼児のような可愛らしい顔のまま、見つめられてまた、顔が赤みを帯びる。
「ぼく…」
「鹿紫雲[カシモ]珠史[タマフミ]…」
どぬく「珠史…?」
えと「いい名前だね。」
珠史「皆、僕のことを、もふって呼びます」
どぬく「もふかぁ。可愛いね。」
えと「口説くなっ!!」
軽い叩きを頭に喰らった。
そこ光景を目にしたのか、もふくんが少し笑った。
どぬく「もふくん、お父さんかお母さんは?」
もふ「わかりません。ずっと前に、いなくなっちゃいました。」
どぬく「そっか…」
えと「どうするの?」
もふ「大丈夫です!ご迷惑は掛けません…早く帰ります、どこかに…」
どぬく「どこかって、どこ?」
もふ「…」
淀んだ空みたいな青い顔を俯かせて、ただ黙ってしまった。
どうすれば良いのだろうか、まぁ…えとさんに頼るしか…
えと「住んじゃいなよ。今日はうちに泊めてあげるから。次から、この神社に住みなよ!」
どぬく「え?ちょっ…でも、いっか(笑)」
もふ「そんな、…ありがとうございます」
どぬく「いいんだよ。俺は人助けが仕事だから!!」
もふ「そ、そうですか…」
「えとさ〜、ん…」
るな「お腹空きました…って?!」
乱暴に開かれた襖の影からこれまた、立派な寝癖が頭に鎮座している、るなが顔を覗かせた。
珠史…もふくんを見て驚いた蛙のように、ひっくり返る素振りを俺達に見せてきた。
るな「起きたんですかっ?」
えと「うん!」
るな「起こしてよぉ…むぅ」
溜息をひとつした後、これでもかと言うほど頬を膨らませた。顔はどこか怒っているのに、全く怖くなかった。
どぬく「るな、自己紹介して!」
るな「うええ?、あ、」
四つん這いで、どんどん座っているもふくんに寄っていく。とても怖い(笑)
るな「私、有水衣麻琉!るな、と呼んでくださいっ! 瀬織津姫の娘で、どぬくさんの弟子で、えとさんの作る料理が大好きな者です!」
るな「どぬくさんと、えとさんが大好き!!」
自信満々に言い捨てたるなは、どこか得意気で、どこか自慢風だった。
「るな、俺は?」
また、また出てきた。
今度は龍太郎だった。
じゃぱぱ「俺大好きに入ってないの!!?」
まるで泣き声みたいな変な声を上げて喚いた。
るなとじゃぱぱの会話は知能が低下して、話せるようになったばかりの子供みたいなことになる。
もしかしたら、子供の方が頭がいいかもしれない。
るな「あ、忘れてた。でも大好きですから、安心してください!」
じゃぱぱ「はぁ…あ、俺赤坂龍太郎。じゃぱぱって呼んで。刀なら作れるから、欲しくなったら言ってね!」
完全に取り残されていたもふくんの手を握り、これでもかという程強い握手を交わした。
華奢だから、ちぎれてしまいそう。
じゃぱぱ「ほら、君も。」
もふ「ぼ、ぼ、僕…鹿紫雲珠史。もふって呼ばれてました。」
じゃぱぱ「珠史…いい名だね。所で、いくつ?」
もふ「正確に分かりませんけど、今年で十四とか十五位です。」
るな「若っっ!」
驚いて転がる子犬みたい。
そうこうしていると降り注ぐ雨が、細かい霧雨になっていた。
時が過ぎるのは昔から、はやい。
あの人も、今同じ空を見ているのだろうか。
どぬく「よろしくね。珠史…もふくん。俺これから楽しみ!」
もふ「はい…!」
この子の瞳の中の紫陽花が綺麗に咲いた。
庭の梅の木は、取ってくれ、といわんばかりに実をこしらえていた。
第肆話:紫陽花の瞳に
コメント
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てとさんの小説マジで大好きです(´ཀ` ) 続き待ってます!
もふくんだっぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁぁあああぁぁ!!!! 続きも楽しみにしてます…🤤