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#すのあべ
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指定された昼休み。理人は嫌悪感を飲み込み、再びあの資料室へと足を踏み入れた。 周囲に人の気配はない。しん、と静まり返った廊下に自分の足音だけが響く。
(……からかわれただけか?)
そうであればどれほど救われるだろう。だが、重い扉をノックした瞬間、内側から引き開けられた光景に理人は息を呑んだ。 そこにいたのは蓮ではない。かつてテニス部にいた後輩の山田だった。 自分より一回り体格のいい男が、下卑たニヤけ面を貼り付けてこちらを見下ろしている。
「っ、な……ッ!」
異変を察知した瞬間に腕を掴まれ、強引に室内へ引きずり込まれた。 背後で勢いよく閉まる扉の音。逃げ場は、もうない。
「へへっ。マジで来やがった」
何が起きているのか理解が追いつかない。しかし、制服の上から身体を這い回る男の湿った手つきが、生理的な不快感を呼び起こす。理人はぎろりと山田を睨みつけ、全力で抗った。
「山田てめぇ……いきなり何しやがる!」
「あれ? 覚えてくれてたんっすか、先輩。いやぁ、聞いたんっすよ。先輩、御堂会長にヤらせたんでしょ? だったら俺にもヤラせてくださいよ」
至近距離で浴びせられる、獣のような荒い鼻息。 無理やり唇を奪おうとする山田の顔を押し返そうとするが、力任せに床へ組み伏せられ、自由を奪われる。
「こんの、馬鹿力が……っ! 離せ、クソ野郎!」
「往生際が悪いなぁ。大人しくしてれば優しくしますって」
「ざけんな。死ね、変態野郎が……ッ!」
「ははは! 相変わらず口が悪い。けど、今ここで主導権を握ってんのはアンタじゃないんっすよ」
山田が舌なめずりをし、理人の首筋をべろりと舐め上げた。 おぞましい感触に、全身が粟立つ。昨夜の屈辱がフラッシュバックし、激しい吐き気が理人を襲った。
「ひっ……嫌だ、やめろ!」
「止めろって言われたら、余計にやりたくなるんだよなぁ」
再び唇を塞がれ、口内をこじ開けようと分厚い舌が侵入してくる。
(……冗談じゃねぇ。アイツだけじゃなく、こんなゴミ屑にまで汚されてたまるか……!)
理人は意識を研ぎ澄ませ、タイミングを計った。侵入してきた舌に、容赦なく奥歯を立てて噛み切る勢いで食らいつく。
「いっ……てえええええええ!!!!!」
山田が悲鳴を上げ、一瞬怯んだ。その隙を見逃さず、理人は渾身の力で男を突き飛ばし、跳ね起きる。
「……付き合ってられるか。クソが!」
のたうち回る山田のわき腹を、テニスで鍛え上げた脚力で容赦なく蹴り抜いた。ゴキン、という鈍い衝撃が靴の先から伝わる。
「誰がてめぇなんかにヤられるかよ。汚らしい」
「ヒッ、ちょっ、や、やだなぁ、ほんの冗談じゃないっすか……」
「うるせぇ、黙れ」
逃げようとする男の胸を、理人は軍靴で踏みにじるかのように力強く押さえつけた。 その瞳には、昨夜から蓄積された「怒り」が漆黒の炎となって宿っている。
「俺は今、虫の居所が最高に悪いんだよ。不意打ちはもう食わねぇ。誰にでもホイホイ抱かれると思ったら大間違いなんだよ、ゴミ虫が」
ギリッ、と体重をかけて踏みにじると、山田は短い悲鳴を上げて意識を失った。 荒い息をつきながら、理人がその場を立ち去ろうとした、その時――。
「はいはーい。そこまで。……たく、派手にやってくれたな」
いつの間に背後にいたのか。 逃れる隙もなく羽交い締めにされ、理人の身体が硬直する。 首筋に触れる、冷たくて、しかし馴染み深いあの支配者の気配。
「蓮……っ」
振り返るまでもない。そこにいたのは、獲物の暴走を愉しげに眺めていた、あの「悪魔」だった。