十三話目、続き。
ちょっとロシア可哀想かもしれないです、露推しの方いらっしゃったらごめんなさい。
⚠️話の舞台が回想から現代に戻りました。
ことの発端と言えば、アメリカの何気ないひとことだった。もちろん、彼は悪気があってその言葉を言ったわけではないし、ロシアもそれは十分に理解していた。ただ、頭で理解していたとは言え、身体に起こった反応はやはり正直なもので。
過呼吸を起こしたロシアは、アメリカと中国に囲まれるような形で道端にうずくまり、酸欠に喘いでいた。
「ゲホッ、カヒュッ………ッ、ヒ、ぁ゛っ……ヒッ、カヒュッ……」
「ちょ、ロシア⁉︎ まじで大丈夫か⁉︎ 息吸え、ロシア!こっち見ろ‼︎ 」
生理的な涙の滲んだ目で、なんとかアメリカを見る。血の気の引いた顔がこちらを覗き込んでいた。
「そう、そうだロシア、俺の目見て。息吸って───」
「ヒッ、カヒュッ………ス、スゥ……ヒッ……」
「そう!そのまま、ゆっくり吐いて……」
「ヒュッ、ゲホッ、…………カヒュッ……!」
「あ」
突如、ロシアが激しく咳き込んだ。身体をくの字に曲げ、肺を押し出そうとするかのように酷く咳をする。
「ゲホゲホッ……‼︎ ヒッ、ゲホッ、カヒュッ、ヒッ……ぁ、ガハッ…!」
「ロシアッ‼︎ 」
「………ありゃ」
ダンゴムシのように丸くなったロシアの背をさすっていた中国が、戸惑ったような声をあげた。
「え⁉︎ ロ、ロシア⁉︎ 」
膝に手を当てて立っていたアメリカからは、ロシアの顔が見えなかった。未だ「ヒ……ヒッ……」という引き攣った呼吸を続けるロシアの背をなでさすりながら、中国がアメリカを見た。
「アメリカ、ティッシュとか持ってるアル?」
「え?ティッシュ……は持ってないかな」
「んじゃ、悪いけど、そこら辺の自販機で水買ってきて欲しいアル。炭酸飲料とかじゃなくて、水アルよ」
「水ね、分かった……けど、ロシアは?」
中国は軽く身を引いた。と、ロシアの顔の下、乾いた地面が少量の水のようなものを吸って黒く飛沫いているのが目についた。
「軽いパニックを起こしてしまったみたいアルね。ロシア、大丈夫アルか?まだ吐きそう?」
ロシアが小さく首を横に振った。
中国はアメリカを見た。
「我はここでロシアを見てるから、水、頼んだアル」
「OK‼︎ 」
中国は、弾丸のごとく飛び出して行ったアメリカの背を見ながら、少しずつ呼吸の治まってきたロシアの頭をウシャンカ越しに撫でた。……まるで、いつかのソ連のように。
何分か前、三人で話しながら歩いているときのことだった。
『我はそんなに歳とってないアルよ………』
『んー確かに今のお前はそうかもな。でも中国全体で言ったら………』
『わー‼︎ うるさいアル!今の我の年齢だけ見るよろし‼︎ 』
『となると……まだ二桁?』
三人はまだ年齢論争に花を咲かせていた。首を捻ったアメリカに中国がすかさず、
『アメリカは確か三桁アルよね⁉︎ ということはアメリカが一番歳いってるアル‼︎ 』
『なんでそんな食い気味なんだよ……』
『年寄りと呼ばれる苦悩を味わうがよろし‼︎ 』
話の矛先は不意にロシアに向いた。
『ロシアも……二桁か?』
『まぁそうだな』
『そっか、お前が一番若いのか……あれ?確かソ連も二桁だったっけ?』
『そうだよ』
ロシアはそう答えた。ソ連のことを思い出したのか口元を緩ませながら、
『んーでも……やっぱ、親父よりは生きたいかな……』
そう溢した。そこからソ連の話になり、いくつか会話を交えた時だった。
『そういややっぱり子供は親に似んのかな……ロシア、お前最近、ソ連に似てきてるんじゃねぇ?』
これが、引き金となった一言だった。しかし、ここまではまだ良かったのだ。
『え………?』
戸惑いを隠せないロシアを尻目に、中国が、
『えー⁉︎ そうアルか?あ、でも確かに……』
そう言っていきなりロシアの右目に指をかけた。軽く上瞼と下瞼を押し広げる。
『確かに、目の形とか……そっくりかもしれないアルね』
ロシアが驚いたのは言うまでもない。若干の恐怖さえ覚えた彼だった。時々、中国は行動が読めなかったりする。つくづく得体の知れない男だと思った。
『それは───』
当たり前だろ、親子なんだから。
そう答えようとしたロシアを遮るようにアメリカが、
『おい、怪我させんなよ───俺が言ってんのは、顔じゃなくて性格の方だ。最近ますます似てきてるように感じるんだが、俺だけか?』
ロシアがアメリカのセリフを聞いた時に息を呑んだことを、この時、中国もアメリカも知らなかった。
『まー確かに顔も似てきてるけどな』
『えー?性格ゥ?そうアルか?……あ』
中国の手を軽く振り払ったロシアは、右目を押さえると俯いた。それに気づいたアメリカが声をかける。
『あれ、ロシア?』
中国も、
『あいやー、ロシアごめん、痛かったアルか?』
なんでもない風に、微かに首を横に振ったロシアだったがその実、心の中では戸惑いを隠せなくなってきていた。
まるで、脳内にノイズがかかっているような。嵐が渦巻いているような。そんな感覚に、徐々に飲み込まれ……支配されてゆく。
そのうち、何か声のようなものが聞こえ始めた。それが幻聴であることはすぐに分かった。その正体が自分の声であることに気づくのにそう時間はかからなかった。
『………ぁっ、……』
ロシアは突如、小さく叫び声を上げてしゃがみ込んだ。
『ッロシアッ⁉︎ 』
自分の名を叫んだのがどちらだったのかは判然としなかった。
心の中で怒声が吹き荒れ始めた。
父さんに、親父に似ている?この、俺が⁉︎ 何故!どこが似ていると……!似ていることを否定しようとはしない。むしろ、親父のような厳格な性格になれるなら願ったり叶ったりだ。しかしそれは、親父と俺の間に何も残っていなかった場合の話であって。親父との間には、大切な、大切な約束事がある。それは、『平和を作る』というもの───‼︎ 時にそれをくびきのように重苦しく感じていながらも、俺はその約束事を大事に、大事に、決して風化することのないように、心に留めておいていた。でも‼︎ 俺が親父に似ているならば、性格が彼のようだと言うのなら、俺は、俺は───‼︎
「……………〜〜〜〜ッッッ‼︎‼︎‼︎」
平和を作れずに、死んでゆくのか?
俺も、親父と同じように。
いつかの光景がフラッシュバックする。荒れ果てた廊下に溢れた怪我人と病人。ボロボロの建物。酷い腐臭。場違いな程に美しかった、青い空。
彼がいた、病室───。
どこかの病院で。俺は。
彼と───向き合って、いて───
頭を抱えた。
『ロシアはさ………どうか、お願い。どうか………平和を作って。俺が、作れなかった……平和を』
『どうか、俺たちみたいには………ならないで、ね………』
声が、脳内に響く。頭蓋を内側から割られるような痛みに襲われる。
『………仲良くしろよ、お前たち。ずっと仲良く……平和に』
父さん。平和って、なに?
愚かで幼い自分の声が聞こえる。吐き気がした。再び父の声が脳内を満たす。
『………平和を、……作れなかったせいで、俺はこれまでに、あまりにも多くのものを失った。だから、お前たちには』
『大切なものを無くさないよう、平和を作っていって欲しいんだ』
………無理、なのか。俺には。
あんなに大切な友人との約束はおろか、愛してやまなかった親父との約束も果たせずに。
「…………ヒュゥッ」
喉が、不気味な音を立てた。刹那、息を上手く吸えなくなった。やまない耳鳴りと自分の激しい呼吸音の中でどうにか捉えられたのは、自分を心配するアメリカと中国の、切羽詰まった声だけだった。
ほんとにこれから投稿頻度落ちるかもです…すみません、よろしくお願いします
コメント
2件
フラッシュバックのところ褒めていただいて本当に嬉しいです……!少し露を女々しくしすぎたかとも思ったのですが💦 読んでくださってありがとうございます😭!!!投稿もできるだけ頑張りたいです…!
悪意のない言葉に傷つくことほど辛いことはないんだなと切実に思いました。 フラッシュバックするときの疾走感の表現がとても好きです。 投稿頻度のことはお気にせず!いつまでも待ち続けます!