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火曜日。休日明けの朝は、どうしてこうも身体が重いのだろう。
教室の扉を開き、自分の席に鞄を置くと、前の席に座る友達の背中に声をかける。
「おはよう、ツバメくん」
すると彼は勢いよく振り返り、芝居がかった調子で胸に手を当てた。
「おはよう我が同胞よ! 本日も小鳥が囀ずる麗しき日だな! しかしこの平穏なる日常が、いずれ私の手で破壊されると思うと……ああ、なんと恐ろしい! 今日も私に従うのだよ、人間!」
「……元気そうだね」
彼――ツバメくんは、中学時代に“卒業できなかった病”をこじらせたまま高校へ来てしまった人だ。設定過多な言動が目立つけれど、根はとてもいいやつだった。
机の上を整え、ホームルーム開始までの時間をどうでもいい会話で潰していると、教室の扉が開き、担任の先生が入ってくる。
「気をつけ。礼」
「お願いします」
半ばあくびを噛み殺しながら着席する。休日明けの学校、それに昨日はパーティーまであった。正直、憂鬱だ。なぜなら――大抵、ろくなことが起きない。
「今日は転入生を紹介する」
その言葉に、教室の後方を見る。確かに、席がひとつ増えている。寝ぼけていて気づかなかったらしい。
先生が何か言う前に、廊下側の扉が勢いよく開いた。
――そして、目が合った。
「雪ノ下サエ。以上だ」
それだけ言い放ち、そいつはまっすぐこちらを睨みつけたまま、僕の後ろの席に座った。
……やっぱり、ろくなことがない。
ホームルームが終わり、一限の準備をしながら、意を決して話しかけてみる。
「ぐ……偶然だね……サエくん……」
「雑魚が名前で呼ぶな」
即座に返された言葉に、それ以上続ける勇気は消し飛んだ。その後も一切、相手にされることはなかった。
「ユズリハユズリハ、サエくんと知り合いだったの?」
ツバメくんが、珍しく設定を忘れた“通常モード”で聞いてくる。
「バイト仲間だよ。でも相手にしてくれなくて……」
「えっ、ユズリハバイトしてたの!? 今度遊び行ってもいい?」
「うん、喫茶みたいなところだから来ていいよ。変なところだけどね……」
「え! ずるいわツバメちゃん、俺も連れてってや」
割り込んできたのはクラスメイトの中村くん。その隣には、いつも一緒の幼馴染・宇都宮くん。
「中村が行くなら、俺も」
「い……いいよ~!」
本当は月光のことをあまり学校の人たちに知られたくなかったけれど、断れる雰囲気でもなく、今週の土曜に来ることになってしまった。
「一限、はじまるよ」
宇都宮くんの言葉で、各自席につき授業が始まる。
ツバメくんはいつも通り、開始十分も経たないうちに爆睡。一限目とは思えない集中力のなさだ。ふと後ろが気になり、振り返ってみると――
サエくんも寝ていた。
(えぇ……)
てっきり真面目なタイプだと思っていたから、落差がすごい。
気づけば昼休憩。時間の流れは異常に速い。
僕らの日課は屋上で弁当を食べること。教室や食堂は人が多くて、大人数が苦手な僕にはちょうどよかった。
今日は快晴で、風も心地いい。……が、なぜか着いてきたサエくんの存在のせいで、胃がきりきりと痛む。
「ユズリハ、食べないの?」
「今日はあんまりお腹空いてないかな~……」
購買で買ったパンの袋を開ける気力もなく、ツバメくんに渡すと、彼は小鳥みたいに腕をばたばたさせて喜んだ。
「……うまい」
サエくんは購買のメロンパンを頬張り、素直に感想を漏らしていた。
「これ、初めて食べた?」
「あぁ。シアターでは定食とかだったからな」
「それ、すぐ売り切れちゃうから早めに行くといいよ」
「雑魚が指図するな」
なぜか地雷を踏んだらしく、会話はそこで終了してしまった。
「先ほど小耳に挟んだが、サエはシアターの人間なのか?」
ツバメくんの設定スイッチが再びオンになる。
「諸事情で今は外にいるが、属してはいる」
「えっ、じゃあリンクスなの? 見たい見たい!」
言葉が思いつかなかったのか、ツバメくんはあっさりキャラを捨てた。
「雑魚、そこに立て」
「え?」
状況が理解できないまま立ち上がる。たぶん、リンクの実演台にされるのだろう。
次の瞬間、サエくんの手に持っていた袋が、赤い液体のように変質し、棒状の何かへと形を変えた。
――そして。
脇腹に、容赦のない一撃。
「痛!!!!!!」
思わず声が裏返る。血は出ていないが、間違いなくアザになるやつだ。
「えー、すごい! ま、私ほどではないがな」
オフとオンが混ざった状態のツバメくんは、僕の心配など微塵もしていなかった。
……明日もこれが続くのだろうか。
そう思うと、脇腹だけじゃなく、胃まで一緒に痛くなってきた。