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#akg
ポレ
105
カチ 、 カチ 、 と古い柱時計が時を刻む 。
静かな屋敷には 、 その音だけが響いていた 。
ウェンはソファに座り 、 ぼんやり暖炉の火を眺める 。
葛葉が出掛けてから 、 もう二時間くらい経っただろうか 。
昼間はどこか気だるそうなのに 、 日が沈むと必ず出掛けていく 。
帰ってくるのは決まって夜明け前 。
wn
「 …… 仕事 。 」
そう言っていた 。
でも 、 どこか引っ掛かる 。
普通の仕事なら 、 どうして昼間はずっと屋敷にいるんだろう 。
wn
「 …… ヘンな人 。 」
ぽつりと呟いて 、 ソファに寝転ぶ 。
今日は屋敷の掃除をしてみた 。
葛葉が止めるかと思ったけれど 、
「 好きにしろ 。 」
その一言だけだった 。
おかげで廊下もダイニングも少しだけ綺麗になった 。
キッチンを借りて簡単なスープまで作った 。
帰ってきたら温め直そう 。
そんなことを考えている自分に 、 ウェンは少し笑ってしまう 。
wn
「 居候なのに 、 」
そう呟いて目を閉じた 。
ガチャ 。
玄関の扉が開く音 。
ウェンは勢いよく起き上がる 。
時計を見ると 、 午前三時 。
wn
「 早かったね 。 」
廊下へ出る 。
そこにはコ ー トを脱いでいる葛葉がいた 。
いつもと違う 。
黒いコートの肩が少し破れている 。
袖にも赤黒い汚れ 。
葛葉はウェンに気付くと 、 一瞬だけ目を見開いた 。
kz
「 …… 起きてたのか 。 」
wn
「 おかえり 。 」
その言葉に葛葉は少しだけ動きを止める 。
何百年生きても慣れない言葉だった 。
kz
「 …… ただいま 。 」
小さく返す 。
それだけなのに 、 どこか照れくさそうだった 。
ウェンは葛葉のコ ー トへ視線を向ける 。
wn
「 それ 。 」
葛葉も自分の肩を見る 。
kz
「 あぁ 、 」
短く答えただけ 。
誤魔化そうとする 。
ウェンは近寄った 。
wn
「 怪我してる 。 」
kz
「 かすり傷 。 」
wn
「 見せて 。 」
kz
「 別にいい 。 」
wn
「 ダメ 。 」
いつもより少しだけ強い口調だった 。
葛葉は数秒黙る 。
それから小さくため息をついた 。
kz
「 …… 分かった 。 」
ダイニング 。
ウェンは救急箱を開く 。
葛葉は椅子に座ったまま 、 面倒くさそうに腕を組んでいた 。
コ ー トを脱ぐ 。
肩には鋭い爪で裂かれたような傷が走っていた 。
wn
「 これ 、 かすり傷じゃないでしょ 。 」
kz
「 治る 。 」
wn
「 治るとしても消毒はする 。 」
ウェンはアルコ ー ルを含ませたガ ー ゼを当てる 。
傷口に触れた瞬間 、
kz
「 っ …… 。 」
小さく肩が震えた 。
wn
「 痛い ? 」
kz
「 、 いや 。 」
wn
「 絶対痛いじゃん 。 」
葛葉は目を逸らす 。
kz
「 …… 消毒は嫌い 。 」
ウェンは思わず吹き出した 。
wn
「 子ども ? 」
kz
「 違う 。 」
「 痛ぇもんは痛ぇ 。 」
ぼそっと返す葛葉に 、 ウェンは肩を揺らして笑う 。
包帯を巻き終える 。
wn
「 はい 、 終わり 。 」
葛葉は包帯を見つめる 。
誰かに手当てをされるなんて 、 何十年ぶりだっただろう 。
kz
「 …… ありがと 。 」
その声はとても小さかった 。
ウェンは少し驚いて顔を上げる 。
wn
「 え ? 」
kz
「 聞こえなかったならいい 。 」
wn
「 いや 、 聞こえた 。 」
思わず笑う 。
葛葉は照れ隠しのように頭をかいた 。
kz
「 笑うな 。 」
wn
「 ごめん 。 」
「 でも 。 」
ウェンは少しだけ目を細める 。
wn
「 ちゃんとお礼言うんだ 。 」
葛葉は鼻で笑う 。
kz
「 俺を何だと思ってんだ 。 」
wn
「 もっとひねくれてる人 。 」
kz
「 失礼 。 」
そう返しながらも 、 どこか機嫌は悪くなかった 。
ウェンは立ち上がる 。
wn
「 そうだ 。 」
キッチンへ向かい 、 小鍋を火にかける 。
葛葉は首を傾げた 。
kz
「 何してる 。 」
wn
「 昼間にスープ作ってたんだ 。 」
温め直して器へよそう 。
テーブルに置くと 、 湯気と一緒に優しい香りが広がった 。
wn
「 帰ってきたら食べるかなって 。 」
葛葉はしばらく黙っていた 。
目の前のス ー プを見る 。
そしてウェンを見る 。
kz
「 …… 俺のため ? 」
wn
「 うん 。 」
当たり前のように返ってくる言葉 。
葛葉は何も言えなかった 。
何百年も生きてきた 。
誰かが ” 帰りを待っている ” なんてことは 、 一度もなかった 。
kz
「 …… いただきます 。 」
ぽつりと呟いて 、 スープを口に運ぶ 。
優しい味だった 。
どこか懐かしくて 。
少しだけ胸の奥が温かくなる 。
その様子を見ていたウェンは 、 安心したように笑った 。
屋敷にはまた静かな時間が流れる 。
夜しか知らない吸血鬼と 、 居場所をなくした青年 。
二人の距離は 、 ほんの少しだけ近づいていた 。
けれどウェンはまだ知らない 。
葛葉の肩についたその傷が 、 人間では決してつけられない傷だということを ―― 。
コメント
1件
うわぁ……第3話、めっちゃ良かった……! 「おかえり」「ただいま」のやりとり、グッときたよね。ウェンがスープ用意して待ってたの、優しすぎて泣くかと思った。葛葉の消毒嫌いとか「痛ぇもんは痛ぇ」って子どもみたいに拗ねるところ、ギャップ萌えが止まらなかったわ。 最後の「人間じゃつけられない傷」の一文で一気に世界観が広がったし、これからどうなるのか気になって仕方ない🔥 続き楽しみにしてる!