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「⋯青木」


「はい!」


「ありがとう」


「⋯!」


面と向かって薪さんからありがとう、と言われたのは初めてかもしれないと青木は思った 。思えば距離がとても近かった。薪の長いまつ毛、少し濡れた目、さらさらで艶めきのある髪⋯思わず青木は見とれてしまっていた。


「⋯青木、顔が赤い  熱でもあるのか?」


と泣き止んだ薪が今度は青木を心配する。


「いーえ!なんでもないです!」


青木は瞬間的に目を逸らした。薪が不思議そうに青木を見た。そうだ、最初は薪さんのこと実は女で⋯みたいなこと考えてたっけ なんて事を思い出す。そうして抱きしめていた薪から体を離した。時刻は午前12時。丁度昼休憩の時間になっていた。


「⋯薪さん、お昼休憩ですしどこか食べに行きましょう!」


「いや僕は」


青木は薪の言葉を遮り手を引いた。話を聞け。そう言おうとした薪だが、その言葉を飲み込んだ。あまりお腹は空いていないのだが、青木が自分のことを考えて提案してくれたのだと思うと薪は心が温かくなった。













「何がいーかなー」


「⋯何がおすすめだ?」


「俺は⋯某有名なうどんがオススメです!」


「じゃあそこ」


「き、決めるの早くないですか?!」


他愛のない話をしながら食事処を探す。


「青木⋯」


「どうしましたか?薪さん」


笑顔で薪のことを見る。その屈託のない笑顔に薪の心に何かが芽生えた。最初から気づいていた。出会った時から、ずっと。


「⋯髪にゴミついてる」


「えっ?! 早く言ってくださいよー!」


薪は悟られないように咄嗟に嘘をついた。本当はゴミなど付いていない。青木は必死にどこだ?などと言いながらゴミを取ろうとしていた。


「ほら、僕がとってやるから」


「頼みますよ!」


薪の身長に合わせて青木が背を小さくさせる。


「⋯取れたぞ」


「はぁ⋯良かったです」


青木は薪がそんなにか、と思うほど安心しきった顔をした。思わず口がほころぶ。


「⋯あ!薪さん!見てください!綺麗な花です!」


子供のように青木が言った。そこには夢の中で見た花と一緒の花が咲いていた。


「これって」


「スターチス」


薪が素早く答える。


「え、知ってるんですね  意外と」


「青木一言余計だ」


「すみません、でもあまり聞かない花だったので」


青木は冗談ですよ、と言ったように笑った。そういえばあの夢は途中で途切れた。『花言葉はー


「本当だ、スターチス。⋯花言葉は「永遠の愛」らしいですよ!」


いつの間にか調べていた青木はまたもや屈託のない笑顔を向けて言った。













『おかあさん、この花なんていうの?』


『これはスターチスって言うお花なのよ』


『すたーちす?』


『ええ、お父さんがお花屋さんで買ってきてくれたの』


『へー!綺麗なお花!』


『花言葉はね、










『永遠の愛』












随分と古い記憶だ。薪の母が生きていた頃。夢は心の奥底にある意識や心理から来る。だが何故母ではなく鈴木が。 そう考えたが花言葉を思い出し、薪は自分で納得した。その人に対しての変わらぬ心。


「⋯おーい、薪さん?」

青木が薪の顔を覗く。


「⋯あ、あぁすまない 。昔のことを思い出していた」


「全然大丈夫ですけど⋯お腹すいたので、早く行きましょう!」


青木はまたもや薪の手を取って早足でどこかへ向かう。その姿には朝はあると思った親友の面影は一切なかった。あの夢の中に居られたらどんなに良かっただろう。あの夢の続きを見れたら、あいつが、生きていたら。


「ほーらー、薪さんも急いで!」


青木が薪を急かす。失いたくない。大切な、

大切な存在。もう二度と





『薪』





花を枯らさないように。

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