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「麗華……本気なの? モデルの仕事は?」
「モデルなんて、もう何だか飽きちゃった。今は向こうで絵の勉強がしたいの。ずっと思ってたことよ。itidou化粧品はお父様の弟が継ぐんだし、お父様も賛成してくれるはずだわ。私は、自分の道を見つける。だから何も心配しないで。これからは家族みんなで仲良くして。彩葉さんも、慶都さんと幸せになればいいのよ」
「麗華……」
「もうあれこれ言うのは疲れたわ。好きにしてちょうだい。これでみんな幸せになれるなら……それでいいから」
その目、今の言葉は意地悪じゃないんだよね?
麗華の本当の気持ちなんだよね?
私に突っかかった言葉、あれは、麗華の胸のつかえを全部吐き出してしまいたかっただけなんだよね?
本当は……優しい子。
ちゃんと知ってたよ。
どうしようもなくキツくて苦しくて、夜中、お母さんを思ってずっと泣いてたこともあったよね。
お父さんに甘えたくても、忙しいからって我慢したり、夢中で好きな絵を描いてる時の顔がすごくキラキラしてたり、私のことは……嫌いといいながら名前で呼んでくれたり。
いっぱい……わかってた。
だから、何を言われても嫌いになれなかったんだ。
これからはもう、あなたが望む人生を、あなたが思うように生きてほしい。
私はただ、それを全力で応援したいって……心から思ってるよ。
今日はここに来て良かった。
2人で話すことができて、何だかホッとした。
私は父に声をかけ、リビングに雪都と一緒に戻ってきてもらった。
麗華は自分の思いを、もう1度話した。
しばらく考えていたけど、
「麗華の描く絵、私は好きだったよ。お前と離れるのは寂しいが、いつでも帰ってきなさい。麗華の家はここだ。誰にも遠慮することはない。お父さんは、麗華のことを愛している。何があってもお前の味方だから、それだけは……忘れないでくれ」
そう言って、父は麗華を抱きしめた。
「わがまま言ってごめんなさい……」
「何を言うんだ。わがままなんかじゃない。お前の輝かしい未来のためじゃないか」
麗華も父の体にしがみつき、ボロボロ涙を流して子どもみたいに泣いた。
「お父様ありがとう。私、いっぱい絵を描いて、いっぱい勉強して……そして、またいつか、ここに必ず帰ってくるから」
「ああ、いつでも待ってるよ。応援してる」
ギュッと力を込めて父から離れない麗華。
大好きなんだよね、昔からお父さんのこと。
「ねえママ……お姉ちゃん、どうして泣いてるの?」
雪都が私の洋服を掴んで聞いてきた。
麗華が泣いてるのを見てびっくりしたんだよね。
「あっ、うん、大丈夫だよ。麗華お姉ちゃんが泣いてるのはね、すごく嬉しいからなんだよ」
私がそう言うと、麗華はお父さんから離れて、雪都の前にしゃがんだ。
「雪都……あなたが彩葉さんの子どもなのね……」
「うん、そうだよ。麗華お姉ちゃん泣かないで」
そう言ってから、向こうのテーブルに置いてあるティッシュケースまで走り、急いで戻る雪都。
そして、ティッシュを持った小さな手で、麗華の涙を優しく拭った。
「大丈夫だよ、お姉ちゃん。僕がお姉ちゃんの側にいるから」
ドキッとするようなセリフ、そんなこと言えるようになったんだ……
まるで慶都さんを見ているよう。
「雪都……ありがとう。あなたは私の甥っ子……可愛い天使。これからもよろしくね」
「うん!」
麗華のこんなにも穏やかな表情、今まで見たことなかった。
ずっと一緒に暮らしてきたけど、今の麗華が1番可愛い。
いっぱい背負ってきた何かを、ようやく下ろすことができたのかな……
私も父も、目の前の温かな光景に堪えきれずに泣いた。
本当に、みんな涙もろいんだから。
それからしばらくして、麗華は友人の男性の別荘で暮らし始めた。
麗華の申し出で、いつでも連絡が取れるように電話番号も交換した。
明らかに前進した姉妹の関係。
慶都さんに背中を押してもらって、麗華に会うことができて本当に良かった。
2人の溝を埋めるにはまだ少し時間はかかるかも知れないけど、いつか必ず本当の姉妹みたいになれる日がくるって、私は信じてる。
自分自身で見つけた新しい未来。
あなたが幸せそうに絵を描いてる姿を想像すると何だかワクワクする。
ずっとずっと応援してるからね。
ありがとう……私の可愛い妹、麗華。