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今年のバレンタインは土曜日。前日の金曜日の朝の学校では、男子生徒がとある”何か”を期待して、普段通りではなかった。
超モテる、って訳でもなく、それなりにモテる俺。本命チョコは必ず渡される。
全員に思わせぶりな態度をとるほど腐ってはいないので、丁寧にお断りするが、作って貰ったチョコはありがたーく頂く。
だって、勿体ないじゃんね?
ふつーに過ごして、ふつーにチョコもらって。流れるまま放課後になった。
(部活の時間だし、…流石にもう来ないよな)
貰ったチョコ入れた紙袋を両手に、校門を出る。
周りから視線を感じる気がしなくも無いが、気にせず突き進む。
「あのっ、椎名先輩!」
と、女の子の声。
「これ、良かったら。どぞ!それじゃあ!」
嵐?
これといった自己紹介もなく、俺とした事が礼も言わずに無言で受け取ってしまった。
多分、初めましての子だろう。
対話した記憶も無いし、見たことない子だった。旧校舎に居る下級生だろうか。
眉毛のちょい上に前髪。黒髪で肩に毛先がかかるくらいの長さ。少し地味目な女の子。
今までの女の子達と何かが違う。それが俺の直感だ。
どうやって笑って、どんな表情をするのか。
(って、気になってるの?俺。)
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家に帰って早速、貰ったチョコを机の上に広げる。
「に、しぃ、ろぉ、やぁ……、あれ?」
“あの子”に貰ったチョコが無い。
(どこやったかなぁ…?)
もう一度紙袋を覗いたが、見えるのは底だけだ。背負っていた鞄の中身も、一応見ておく。
あった。
紙袋が満杯で、仕方が無かったから鞄の中に入れたんだった。
貰ったチョコの数は13個。
そのうちの4個は本命チョコ。
あの子のはどっちだろうか。
思い返してみれば、義理だとか、本命だとか言われてない。
ひょっとして俺、浮かれてた?
(うわ、どうしよう。開けんの怖いかも。)
恐る恐る、箱の蓋に手をかける。
手紙。手紙が2枚入っている。
手紙には何度も書き直された筆跡。
ご丁寧に学年と組、所属してる部活まで書かれている。
原 真桜ちゃん。
1年C組で、陸上部。
作ってくれたのは、生チョコとガトーショコラ。それとクッキー。
ラッピングもデコレーションも、何もかもが素敵だ。
(お返しは何にしよう…)
気付いたら先のことを考えてしまうくらいには、真桜ちゃんのことを考えていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
月曜日。バレンタインから2日が過ぎた。
土曜、日曜で考えてきた、まずは昼食を共にして距離を縮める作戦を遂行する。
四限の終了を知らせるチャイムが鳴った。
今は昼休憩の時間。3年と1年の校舎は別なため、移動には時間が掛かる。
それに加えて、俺の教室から1年の教室を繋ぐ2階の廊下には、職員室がある。
つまりは最短距離を走ったら現行犯で即逮捕案件ということだ。終わってる。どうなってんだ。
着いた頃にはどこか別の場所で他の子と食べているかもしれない。そのまま会えずに今日一日を棒に振るのはごめんだ。
着いた。1年C組の教室。
教室の電気がついていない。四限は移動教室だったらしい。
(ギリセーフ…)
時間が惜しかったため、職員室前も小走りで向かったが、特に捕まることも無く到着出来た。多分見逃されてるだけだけど。
「しっ、椎名先輩!?」
と、聞き覚えのある声。
「…名前呼ばれるの2回目だ。真桜ちゃん」
「真桜ちゃん!?」
相当びっくひしたらしい。一緒に隣を歩いていた2人の女の子たちの陰に隠れている。
「え何?ちょい、何してんの?真桜〜?」
「一緒にお弁当食べたいな、と思ってさ。真桜ちゃん借りてもいいかな?」
「ウチらは全然良いっすよ。ね、ゆうか」
「うん。真桜ちゃん、行ってらっしゃい!」
「え゙?!」
「ダメかな?真桜ちゃん…」
「いやあの!喜んで!」
「よかった。どこで食べたい?」
「あ、うち人気ない良いとこ知ってます!」
「人気ないって…、えっち」
「えぇ!?」
「ウソウソ、冗談。今日はメイクしてないんだね。どっちも可愛い。」
「へ?…」
「行っちゃったね、真桜」
「お化粧してたことに気付いて褒めてくれるの、ポイント高いね、ひかりちゃん」
「しかも “どっちも” かわいい、って言ったよね。満点すぎるでしょ…。」
「どうなるかなぁ、真桜ちゃん…」
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
「人気のない場所って…、ここか」
案内されたのは、屋上の入口付近の階段だった。
「はい。3階の隅までわざわざ来る人、少ないんですよね。」
そう言いながら、真桜ちゃんが階段に座る。
「椎名先輩、お隣どうぞ!」
「ふは、失礼します。」
「…渡してくれたお菓子、めっちゃ美味しかったよ。沢山種類あって楽しめたし」
「チョコだけじゃ味気ないかなと思って…、頑張りました!」
「凄いね。手紙も頑張って書いてくれたの超分かったし…」
「良かったです。ちゃんと伝わって…。」
「………それ、美味しそうだね。」
「…食べますか?」
「いいの?」
「んま。お母さんも料理上手なんだ」
「あ、これうちが作ってます!」
「まじで?めっちゃ美味しい。俺のやつも食べていいよ」
「下の子達いっぱいいて、作る機会が多いので。…じゃあ、これ。いただきます!」
「……そういえば。食べ終わってからでも大丈夫だから、連絡先交換しない?」
「…うちも、したいと思ってました」
「ほんと?嬉しい」
「…これから、真桜ちゃんのこと知っていけたらなって思ってるよ」
「…………え?」
「よろしくね。真桜ちゃん」
「…はい。よろしくお願いします!」