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桜が散る前に
春の匂いが、少しだけ苦しくなる。
吉田「…..今年も咲いたな、桜」
校舎裏の坂道。ひらひらと舞う花びらを見上げながら、仁人は小さくつぶやいた。
佐野「なに、しみじみしてんの」
後ろから聞こえた声に振り向くと、勇斗が笑って立っている。
吉田「別に。なんとなく」
佐野「なんとなく、って顔じゃないけど」
吉田「うるさい」
軽く肩をぶつけると、勇斗は大げさに「痛っ」と言って笑った。
そんな何気ないやり取りが、ずっと続くと思っていた。
ーーでも、今年で終わりだ。
佐野「なあ仁人」
吉田「ん?」
佐野「卒業したらさ、お前どうすんの?」
吉田「どうって….普通に大学行くけど」
佐野「そっか」
勇斗はそう言って、少しだけ目を細めた。
その表情に、胸がざわつく。
吉田(なんでそんな顔すんだよ)
言えないまま、花びらだけが二人の間をすり抜けていく。
数日後。
教室の窓から見える桜は、満開を少し過ぎていた。
教室の窓から見える桜は、満開を少し過ぎていた。
佐野「仁人、これプリント」
吉田「あ、ありがと」
受け取りながらも、視線は自然と前の席へ向かう。
佐野勇斗。
いつも通り、友達と笑っている。
吉田(いつも通り、なのに)
なぜか、遠く感じる。
佐野「なあ」
放課後、勇斗に呼び止められる。
佐野「今日、帰り一緒にいい?」
吉田「……別にいいけど」
佐野「よし決まり」
少しだけ嬉しそうな顔をするのが、ずるい。
帰り道。
桜並木の下を並んで歩く。
風が吹くたびに、花びらが二人を包む。
佐野「なあ仁人」
吉田「なに」
佐野「俺さ」
勇斗が急に立ち止まる。
佐野「…..春、あんま好きじゃないかも」
吉田「は?なんで」
佐野「終わる感じするじゃん。いろいろ」
吉田「…..まあ、わかるけど」
沈黙が落ちる。
花びらが、足元に積もっていく。
佐野「でもさ」
勇斗が、ぽつりと続ける。
佐野「終わる前に、ちゃんと言っときたいことあんだよ ね」
心臓が、どくんと鳴る。
吉田「…..なに」
勇斗は一瞬、視線を逸らしてからーー
佐野「仁人ってさ、鈍いよな」
吉田「は?」
佐野「俺、ずっと好きだったんだけど」
吉田「……え?」
思考が止まる。
風の音だけがやけに大きい。
佐野「だから、その…」
勇斗は困ったように笑う。
佐野「卒業する前に、言っとこうかなって」
吉田「…..なにそれ」
佐野「なにそれって、告白」
吉田「いや、わかるけど…」
頭が追いつかない。
でも、胸の奥はやけに熱い。
佐野「…..断るなら今でいいよ」
吉田「断るわけないだろ」
佐野「え?」
勇斗が目を見開く。
仁人は少しだけ顔を逸らして、言った。
吉田「俺も、好きだし」
佐野「…..は?」
吉田「だから、ずっと」
勇斗と同じ顔をしているのが、なんだか可笑しくて。
でも、泣きそうなくらい嬉しくて。
吉田「お前さ、言うの遅いんだよ」
佐野「お前もだろ」
二人同時に笑う。
その瞬間、また風が吹いてーー
桜が、一斉に舞い上がった。
佐野「なあ仁人」
吉田「ん?」
佐野「これってさ」
吉田「うん」
佐野「……付き合ってるってことでいい?」
吉田「今さらなに言ってんの」
佐野「ちゃんと確認したいじゃん」
吉田「……いいよ」
佐野「よっしゃ」
子供みたいに笑う勇斗に、思わず笑ってしまう。
吉田「でもさ」
佐野「なに」
吉田「桜、もうすぐ散るな」
佐野「そうだな」
佐野「でも」
勇斗がそっと手を伸ばしてくる。
一瞬だけ迷ってーー
その手を、握った。
佐野「終わりじゃないだろ」
吉田「……うん」
花びらが、二人の手に落ちる。
佐野「来年も、その先もさ」
吉田「うん」
佐野「一緒に見ようぜ」
仁人は小さく笑って、答えた。
吉田「約束な」
桜が散る前に、伝えられた想い。
そして、散ったあとも続いていくーー
二人の春が、始まった。
𝕖𝕟𝕕
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