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男女の体力の差、それは高校生にもなると虚実に現れるものだろう。
ゆえに高校では男女では体育の競技を男女で分けていた。
————男女で、だ。
「…………」
男子は外でサッカー。女子は体育館でバスケ————尚、アラカは後者に分類される。
「ええっと…準備運動ですが。菊池さん、先生と組みましょう」
「……」(こくり)
体力差、という点においてはなるほど。アラカは女子に区分されるだろう。
加えて昨日、男性から暴力を振るわれたばかりなのだ。
「(クッソ可愛い……頬のガーゼが庇護欲を掻き立てるぅぅ…!)」
「(昨日間近で見たけど、やっぱり傷ができてたんだ……)」
「(殺)」
頬に痛々しいガーゼを貼られた彼女を受け入れる上で異論は一つも無かった。
ボロボロな見た目で、義足で何とか立って体育に参加しようとしてる健気な子を前にそんなことできるわけもない。
「(こんなかわゆい子を男子とかいう獣の群れに放り込んだらどうなるか……保護せねば)」
そして体育教師の中村はレズと男性不信を拗らせていた。
順調に授業は進む。しかし他クラスとの合同練習。
それはアラカと関わりが多少濃い人間がいるということで、当然のように厳しい体育となっていた。
「あ、あの……」
それは自由時間での出来事であった。
体育教師には様々な種類がある。
そのうちの一つ、『自由時間を設ける教師』こそが中村であった。
一通りの体育の授業が終わり、教師の方針か自由に運動してよしと言われると生徒らは救われた気持ちになるだろう。
「あら、か……くん」
「?」
そんな中、アラカへと声をかけるポニーテールの女子生徒がいた。
アラカは声をかけた生徒へ目を向けて——不快感に鼻血を垂らす。
「っ」
「ご、ごめんなさい……一言、一言、だけ……それだけ言ったら消えるから……ごめん、なさい……」
アラカには今、その女子生徒がまるで認識できていない。
本能的に嫌っているのだ。
「風魔さん。何してるの」
「ぁ……なか、むら…先生」
風魔沙霧。風紀委員長であり、男だった時のアラカを好いていた少女でもある。
————そしてアラカの心に亀裂を産んだ要因でもある。
「……風紀委員長として見過ごせないなら、別の子をお願いします。
その子の心には……距離が必要でしょう。貴方にも、菊池さんにも」
それは真実だ。そして正論でもあるため、風魔は挙動不審になる。
「い、いえ……あ……」
もどもどし、何も言えず、口が詰まり。
「ごめん、なさい……」
中村先生にそう言うと、落ち込んだ様子で背を向けた。
その背中は怯えた小鹿のようで、事情を知らなければ同情してしまうほどに憐れだった。
「……こちらこそ、少しだけキツい言い方をしたわ。ごめんなさい」
そう言う。別に厳しい言い方はしていない。
しかし風魔の精神からしたらどうしようもなくキツい言葉に聞こえたことだろう。
それを中村先生は汲んだのだ。
「(以前はもっと明るい子だと聞いていたけれど……すっかり心にきて、元気がなくなってるわね……風紀委員長も、辞めさせてほしいと言ったらしいし……)」
アラカが生徒の一人を優しく諭して許したと聞いたが、周囲との溝はあまりにも……いいや、これまで以上に深まったと言えるだろう。
「(明るい性格で、真面目でハキハキ喋る子……と、聞いていたけど)」
あの調子じゃ、将来は厳しいかもしれない。
そう思わずにはいられない様子だった。