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昔、瞳と一緒に作り上げた暖かい部屋とは正反対の生活感のないマンションに向かう。
そこで、あの時の話をした。
おふくろが瞳や瞳の父親に対して失礼なことをしたことを知った時には、ひたすらに二人に対して申し訳なく思ったが、それ以上にお袋に憎悪した。
母親らしいことなどしたこともないくせに、くだらない自分の見栄のために、俺の幸せを奪い、瞳を苦しめたことを許せなかった。
ずっと恨んでいたいたはずの瞳に対して申し訳なさと、そしてまだ気持ちが残っていることに気付く。
瞳は旦那の不倫相手の学校に張り込むなどと言っていて、非効率でなにより危険がないとは言えない。
罪滅ぼしとまで言わないが、知り合いに探偵がいることもあり、不倫相手の調査を俺がやることにした。
離婚をすれば、俺にもチャンスがあるかもしれないという気持ちがあった事も手伝う気になった一因だ。
ヨリを戻したいと伝え、キスをしようとしたがあっさりと拒否された。
残念ではあったがその反面、ホッともした。
その時、松本ふみ子のことを聞かれ彼女ではないと答えた。
ずるい言い方だとは思うが、何度か体の関係を持っただけの間柄で、恋人ではない。
今まで、俺にとって恋人と呼べたのは瞳だけだった。
瞳がいると安らげる。
気がつくと寝落ちした俺に瞳は毛布をかけてくれていて、瞳自身は掛け布団にくるまり床に寝ていた。
瞳を抱き上げるとソファで一緒に眠りについた。
仕事に追われ、と言うよりもすべてのことから仕事に逃げて働き詰めで、ずっと眠りが浅かったが久しぶりに深く眠ることができて頭が冴えている。
腕の中で眠っている瞳を見ると、大学の近くにあったあのマンションでの生活を思い出した。
目を覚ました瞳が俺の腕の中から出ようともがいている姿が可愛いと思った。
やっぱり俺は今でも瞳を愛している。
名残惜しいが、今の瞳は不倫夫がいる既婚者だ。
瞳にまで不倫の汚名を着せるつもりないから、一旦は引くことにする。
瞳が住んでいるマンションの最寄り駅で瞳を降ろすと遠ざかっていく背を見ながら、探偵をしている知り合いに電話をかける。
探偵と言っても、ほぼ不倫関係の依頼が多いらしい。
だからこそ、鼻も効く。
瞳から受け取った不倫相手のデータを送り、なるべく早く調査をしてほしいと伝えると、揃えた証拠が有効に働き、あっという間に住んでいるアパートも特定できた。
結果を伝えると、瞳はすぐに行動に移していた。
俺も、いつぶりかわからないほど遠ざかっていた実家に向かった。
フミさんは相変わらず優しく迎えてくれた。
おふくろはこの家を出た時のまま3階に居て、親父とあいつは2階に居る。
フミさんは、俺の部屋は昔のままで時折、埃を払ってくれてくれていた。
真っ直ぐに3階のおふくろの部屋に向かうとノックをする。
「フミさん?どうぞ」
俺が部屋に入ると一瞬驚いた表情をしたが、すぐにいつもの澄ました表情になった。
思えば、おふくろの部屋に入るのは初めてかもしれない。
洋室だがどこか和風の和洋折衷の部屋。
あくまでも自分は倉片であると主張しているようだ。
老舗ということに胡座をかいて時代に乗り遅れ没落した家。
甲斐が手を差し伸べなければ、目の前ですましているこの女は金策に走らねばならなかっただろう。
「久しぶりにね、たまにはここにも帰ってきてちょうだい。じゃないと、愛人の子が我が物顔でこの家にいるのが忌々しいから。それから、お茶問屋の真子さんだけどあなたより二歳年上だけどとてもいい子なのよ。お花の師範でもあってわたしも手ほどきをうけているのよ。話を進めておくから」
この人は一生そうやって生きて行くんだろう
「倉片と同じ、先が見えているお茶問屋の娘との結婚に何の意味も無いし、それ以前に愛のない結婚がどんなことになるかよくわかっているからな、かんべんしてくれ。親父の愛する女性の子供とでも縁組してやってくれ」
「成り上がりには老舗の看板が必要なのよ。歴史は裏切らないんだから」
「くだらない話はどうでもいい、瞳に会って話を聞いたよ。随分と好き勝手やってくれていたんだな」
「お金を受け取ったのは間違いないわよ」
「あんたが無理やり持っていったんだろ、甲斐のお金を。倉片にはそんな余裕はないから」
「なっ」
おふくろは一気に顔が赤くなった。
「今後、また瞳と家族に何かをしたら倉片への資金援助は中止する」
「あなたが決められることではないでしょ。それにわたしは親として、あなたのために」
「母親らしいことなんしたこともないくせに、兎に角俺にかかわるな、それだけを言いにきた」
俺はそう言い放って、おふくろが何かを言おうとしているが、聞くことなく部屋を出た。
階段を降りてリビングに行くとあいつがソファに座って「兄さん久しぶり」と声をかけてきたが反応せずにフミさんにだけ挨拶をして家を出た。