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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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「おはよう、たっつんくん」

センター分けの前髪に、短めのウルフカット。それに、俺の友達のより格好の良い服。卒業式で見た時より男性的で、卒業式の時のように化粧をしていない彼女が、なぜか、すぐにえとさんだと分かった。 えとさんは、地面に置かれた紙袋を見て、

「それ、なーに?結構でかめの袋だね」

「っあぁ、これか?お母さんにクリーニング行ってこいって言われてしもて… これ、制服や」

「えとさんこそ、何しとるん?」

続けてらしくない格好やな、という言葉が喉まで上がってきていたが、なんとか呑み込んだ。

「散歩!散歩するのが日課なんだよね〜」

「それにここ、このくらいの時間なら人いないし」

そう、楽しそうに言うえとさんは、俺みたいな好きの感情が分からない、の真逆の人だった。

隣にいたらそれに俺も飲み込まれそうな、そんな人だった。

まあでも、周りの目は気にしているのだろう。時々まわりを見回して、人がいないことが分かると、ふっと息を吐き出してほっとした顔をしている。

「そうなんや、まあ確かにここ、今誰も人おらへんな」

「でしょ?散歩にはうってつけの場所、!それに、この綺麗な景色独り占めしてるみたいじゃん?」

確かに、景色綺麗やな。言われるまで気がつかなかった。やっぱり、俺とえとさんじゃ見ているところが違うのだろう。

「じゃあ私、そろそろ行こうかな」

「いつもこのくらいの時間にここ歩いてるから」

「え、あぁ、おう」

そう言ってえとさんは歩いていく。遠くなっていく背中に、不意に声をかけてしまった。

「えとさん!」

えとさんは少し驚いたように振り返った。

「に、似合っとるな!」

なに言ってんねん俺!絶対迷惑になったな…

「..あっ、ご、ごめん」

でもえとさんは、にこっと笑みを浮かべた。

「なんで謝んの?笑褒めてくれたのに」

「だって、いきなり話しかけて迷惑やろ、?」

「迷惑なんかじゃないって!w」

えとさんはくすくすと笑った。

「たっつんくんって、学校でも面白い感じだったけど、こんなに面白いと思わなかった笑」

「もう少し、話してみたかったな。」

過去形か…少し寂しくなる。

それじゃね、と笑ってえとさんはまた歩いていった。

えとさんが見えなくなるまで、俺は動けなかった。喋っただけ、なのに、目を奪われていた。

俺と違いすぎるから、なんか?考えても分からなかった。

家に帰ると、お母さんが掃除をしながら「ありがとう!」と言ってきた。というかなんで俺に頼んだんやろ?

「家事も仕事も立て込んでてん、ほんま助かったわ〜」

仕事…そんな忙しそうじゃ無かったんやけどな…?

「制服、着てみたか?サイズは大丈夫やった?」

「ブレザーだけな。多分大丈夫やと思う」

「そんなら良かったわ」

とりあえず、「部屋でごろごろしとく」と言って部屋にきた。

でも、なんてったってやることがない。音楽を聞こうか。いや、そんな気分じゃない。

漫画が並べられている本棚に目を移す。いや、そんな気分でもない。

結局、スマホでYouTubeを見る。何の動画を見るか考えるのも面倒だ。

だから、 人気のYouTuberの動画を垂れ流すだけ。

1週間コーデだの、ゲーム実況だの、お笑い芸人だの、色々見たけど、やっぱり”好き”は見つけられない。俺は、一生このまま生きていくのだろうか、と考える時がある。でもその度に、考えることから逃げてきた。なら、一生逃避行、でも良いかもしれない。

でも、それが人生、と言う自信はない。それは、俺がその人生を歩んでどうするか分からないからだろうか。いや、ただ、好きが分からない俺は全てにおいて自信がない。それだけだ。

まあ、それもこれも、全部世界が俺に見合わないせいやな。そう考えることにする。


ー全部、俺のせいなんかやない。俺に見合わない、世界が悪いんや。


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