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「アルメリア、お前との婚約を破棄させてもらう!」
それは舞踏会の最中の出来事だった。
ムスカリ・フォン・ルドベキア・ロベリア王太子殿下は、婚約者であるアルメリア・ディ・クンシラン公爵令嬢を見つけると、つかつかと歩み寄り指差すとそう言った。
王太子殿下は後ろに数人の公爵令息を従え、片方の腕にはダチュラ・ファン・クインシー男爵令嬢が手を絡ませ身体を寄せている。
アルメリアは心の中でやはりこうなってしまうのか、と呟いた。
アルメリアは六つの頃、多忙な両親の邪魔にならないようにと、領土内のヒフラと言う避暑地に行かされていた。
クンシラン家は公爵家とはいうものの、裕福ではなかったので、所有するその避暑地の屋敷はそこまで大きなものではなかったが、それでも維持するのがやっとと言ったところだった。
当然働いている使用人も多くなく、管理の目が届かず近所にあるらしい孤児院の子どもたちが、庭や敷地内に入って遊んでいることもしばしばあった。
アルメリアは彼らが遊んでいる様子を窓から見て、いつしか自分もみんなと遊びたい。そう思うようになっていった。
そんなある日、庭の壁の一角が崩れているのを発見したアルメリアは、大人たちに気づかれることなく外に出られることに気づいた。
そこでこれ幸いと、使用人の置いていった子供用ドレスを拝借すると、それに着替えてこっそり外に行くことにした。
外へ出ると牧歌的風景がどこまでも続いていた。町に出るには子供の足では距離があり行くのを諦めたが、アルメリアは町に出られなくとも自由に外を歩けることが楽しくてしょうがなかった。
「お前、なにやっている!?」
突然背後から声をかけられ振り向くと、いつも庭に入り込んで遊んでいる孤児院の子どもたちが立っていた。
「わたく……、あたしは、アンジー!」
アルメリアはかねてから、もしも外に出ることができて、彼らに会えたなら名乗ろうと思っていた名前を口にした。
庶民の口調がわからなかったので、そこは出入りしている肉屋の息子の口調を真似る。
「おやじが行商人で、そこの屋敷に来てるから連れられてきた!」
すると先頭の男の子の背後から、ひょっこり女の子が顔をだすと、くすくす笑い出した。
「女の子なのにお父さんのこと、おやじって言うの? 女の子はお父さんのことはおやじって呼んだらダメよ?」
自分が間違えたことを知ったアルメリアが照れ笑いをしていると、その女の子が目の前に立ち手を取った。
「私はシルって言うの、宜しくね。そこで怖い顔してるのはルク。その後ろにいるのがルフスとマニ」
シルが紹介し終わると、ルクはあからさまに嫌そうな顔をした。だが、ルフスとマニは笑顔を見せた。
「アンジー、宜しくな! 俺らいつもここら辺で遊んでんだ。な、マニ!」
ルフスはいかにもやんちゃな男の子と言った感じだったが、マニはルフスより落ち着いた雰囲気の男の子で、アルメリアに優しく微笑みかける。みんなアルメリアより二つか三つは年上のようだった。
「そうだよね、ここら辺は変な大人がいないしね。遊ぶのには安全だからね」
アルメリアはマニの言っている、変な大人と言う意味がよくわからなかったが、取り合えず頷いておいた。
そんな出会いから、アルメリアがシルと仲良くなるのにあまり時間はかからなかった。シルは、周囲に同年代の女の子があまりいないらしく、自然とアルメリアと一緒にいることが多かった。
アルメリアは、年上のシルのことを姉のように思っていた。
逆にルクはあからさまにアルメリアを嫌がっているようで、あまりアルメリアに話しかけてくることはなかった。アルメリアはこちらから近づかなければ問題ないだろうと思い、無理に話しかけたりすることは避け近づかないことにした。
だが、なぜか頻繁に二人きりにされた。そんなときはシルやマニ、ルフスが帰ってくるまで無言でやり過ごすしかなかった。
ある日、二人で牧場の木の柵に寄りかかりながらいつものように無言で、他のみんなを待っていた。
だが、いつものこの状況についに我慢ができなくなったアルメリアは、意を決してルクに訊くことにした。
「ねぇ、ルクはあたしのこと嫌いでしょう? なんでそんなに嫌いなの?」
するとルクは驚いて顔をこちらに向けた。
「は?」
おまえなに言ってるの? と、言わんばかりの顔でアルメリアを見つめる。アルメリアはルクの予想外のその反応に驚く。
「え?」
しばらくお互い見つめ合って、お互いがお互いの気持ちを探るような時間が続いた。先に口を開いたのはアルメリアだった。
「だって、ルク、最初のときもだったけどあたしがシルと仲良さそうにするの嫌そうな顔してたじゃない。あたしはてっきり、ルクの大切で大好きなシルを、あたしに取られるのが嫌なのかと思ったんだけど。違うの?」
ルクは怪訝な顔をした。
「なんだそれは? 俺はシルが好きな訳じゃない。おまえに取られるなんて思ってもない。俺が好きなのはシルじゃないし、ましてお前を嫌だなんて一回も思ったことはない」
アルメリアはそんなルクの様子を見て、思い切り否定するその態度が余計に怪しい。と思ったが、これ以上からかうとルクが怒りそうだったので、その件に関しては突っ込んで訊くのをやめた。
「そう。じゃあ、あたしのことは好きでも嫌いでもないってことね。なんだ、良かった! 嫌われてると思ってた」
そう言って微笑んだ。ルクはそんなアルメリアから視線を反らす。このときアルメリアは、ルクは人見知りがあるのかもしれない。と思った。
「でも、だったらなんであたしが近づくとルクは嫌な顔するの?」
するとルクは苦い顔をした。
「まだ俺はお前に話しかけられる立場にないからだ」
アルメリアは納得できなかった。
「なにそれ? 意味がわからないよ。そんなの関係なく友達でしょ? 違うの?」
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