素敵な恋愛が書きたい
とか言いながら一瞬カニバリズムの話してすみません性癖なんです
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・謎軸蘭竜
・水族館
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10月、東京に住んでいたある兄弟は片方の強請りか、はたまた意見の一致で近所の、もしくは遠方の。とにかく、詳しい事は分からずとも二人で、どこにでもあるような在り来たりの水族館に足を運んだ。
徒歩で行ける距離に水族館は無いので、兄が車を運転して、何の変哲もなく平凡で、普通の水族館へ行った。車を降りて辺りを見渡せば日が沈んでいる事もあるのか周りに人影が少なく、初秋涼夕、心地良い風が兄弟の頬に触れた。派手な色を髪に纏わせた兄は、何かを隠す為か灰色の首巻を巻いている弟の先に立って水族館に向かって行っては、弟を見ないままふふと口角を小さく上げた。
「肌寒くなってきたね。そろそろ秋かな?春夏秋冬の内もう半分だよ、竜胆、時の流れは早いねえ」
「オジサンみたいな事言わないで。まだまだこれからなんだから、頑張ってよ」
「アレ、」
くるりと振り向き、不敵に微笑む。
「珍しくしっかりしてんじゃん、竜胆。反抗期終わった?」
弟は、兄を見てはああと面倒そうに溜息を吐いた。「もう次で30だよ」なんて、兄が聞いたらどう思うだろう。でも、兄が年を重ねたら弟も一年ゆっくり比例して、年を重ねていく。
置いて行きも、寄り添ってもくれないひとつのちいさな年の差に小さく舌打ちをする。兄の背を追いかけ後ろから抱き着いて、笑った。
「…俺の反抗期長すぎ!」
外が殺風景な割に、室内はゆったりと、碧くてらてら光っている。入場券を大人二人分買っている兄を尻目に、弟は気早くお土産コーナーに足を運んだ。まず目に留まったのは付き合って日の浅いカップルが購入していそうな、ふたつのキーホルダーを近付けるとピタリとくっつき、ハートが作られるもの。隣には違うデザインで、しかもイニシャルからも選べるものがあった。
「りーんど。お土産見るの早くね?先魚見に行かねえの?でっけえ水槽のさ、……え、これ超いいじゃん、後で買おうよ。」
兄が入場券を二枚指に挟みながら、もう片方の手で先程の磁石がついたキーホルダーを指差す。変な所で趣味が似ていると弟は鼻で笑った。
不思議そうな兄を見詰めるが触れず、「行こっか」と笑いかける。
どこか遠くで小さく深く鼓膜を揺らす洋琴の音、と水中を照らすひかりが反射して、酷く儚げで美しい兄。それに空気を肺いっぱいに吸い込めば、ふんわりと香る兄の香水。そして、水槽に手をやり指先に伝わる冷えた感触。
「……兄ちゃん、五感って、なんだった?聴覚、視覚。嗅覚?……触って感じるやつ。」
「触覚な。………兄ちゃんなんで竜胆が水族館に来てまでそんな質問が頭に浮かび上がるのかほんとーーーに分かんないんだけど、竜胆。特別に教えてあげるね、味覚。」
ああなるほど、味覚。五感で感じられる素晴らしい場所、と同僚に水族館を紹介したかったが、どうも四感しか揃わない。嗅覚はもはや無理矢理だが、すうと吸い込めば近くの人の香りがするだろう。ただ味覚、味覚だけはどうもできない。目の前の人を食べてしまう訳にはいかないし――そもそも、カニバリズムには理解を得ていない――、無論、魚も新鮮そうだが食べられない。第一深海に住んでいる魚は薄気味悪く、食わず嫌いが多い竜胆にはとても食べられるものではなかった。
でも、このままでは同僚に水族館を紹介することができない。だからなんとかしなければと晩飯のことを調べる。ここの水族館にイートインがあればいいが、生憎無さそうに見える。それならどうする?家でピザでも?
「竜胆竜胆、魚きれいだね。見てたら寿司食いたくなってきちゃった。見終わったら寿司食いに行こうか」
欲がちらりちらりと見え隠れしている兄の言葉を聞いてなるほどと納得する。そうか、近くの寿司屋に行けばいいんだ。
「食べ物として見ちゃってるじゃん、魚のこと。」
程良く着崩された背広であっても冷酷さをひしひしと感じるように、きっと部下や取引先はこの瞳に見詰められたらどうにもできないのだろう。そんな兄は弟の言葉に対して、心底不思議そうに首を傾げる。
「逆に何として見るの?魚をセフレとしては見ないでしょ、もしくは…友達?」
「そうだけどさ……まあいっか、飽きちゃったし寿司食べに行こ」
「兄ちゃんチケット代を思うと胸が痛いよ」
ふふと笑って出口の方へと足を進める。最初から綺麗な兄に、もっと綺麗になる場所なんて必要なかった。こんなに綺麗だと勢いあまって誰かが殺してしまう。
その誰かは、弟かもしれないけど。
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(何も思いつかなかった)
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ありがとうございました~~
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