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「デートってどんなかんじなんだろ」
放課後の教室で、ぼんやり外を眺めていたらんがぽつりと呟いた。
隣に座ってスマホをいじっていたいるまは、その言葉にふと顔をあげた。
「なに急に」
らんが振り返って、ふたりの視線が交わる。
「いや……この前みことがすちとデートしたって嬉しそうにしててさ。こさめからもさんざんなつとのデートの話聞かされるし。なにがそんなにいいんだろうって」
「あー、なるほど」
いるまはスマホを伏せ、しばらく考える素振りをする。
すると、思いついたようにらんに向き直った。
「じゃあ、俺とデートしてみる?」
「いるまと?」
いるまは何も言わずにらんを見つめている。
らんは目をぱちくりとしたあと、ぱっと笑った。
「いいのっ? 行きたい!」
「ん。じゃあ決まりな。土曜、空けとけよ」
「うん! いるまとお出かけするの久しぶりだし、楽しみだなぁ」
意外にもあっさりとデートが決まった。
らんは無邪気に「どこ行こうかな~」とにこにこしている。
そんならんを横目に、いるまはこっそりため息をついた。
(こいつ、絶対わかってねぇ)
デートの意味。
いるまが自分から誘った意味。
そんなもの、らんが知るわけがなかった。
(でもまあいいか)
むしろ。
いるまには好都合だった。
デート当日。
待ち合わせ場所に先に着いたらんは、ちょこんとベンチに座り、照れくさそうに服をつまんだ。
チェックのシャツに、シャツが袖から出るように大きめのサイズのパーカーを重ね着した、かわいい系でまとめたコーデである。
数日前にみこととこさめに相談したときに「らんくんは絶対これ!」と選んでもらったものだ。
あまり着ない系統に、すこしだけそわそわする。
「らん、お待たせ」
「あっいるま!」
いるまは立ち上がったらんを上から下まで眺め、ふっと優しく微笑んだ。
「かわいいじゃん」
「っ!! そういうこと……急に……!」
「思ったから言ったの」
(あ、あれ?いるまってこんなこと言う人だっけ?)
不意打ちに動揺するらん。
その表情をみてくすりと微笑んだいるまは、手を差し出した。
「行こ」
「え、と……」
「手、繋ぎたいんだけど。デートだろ」
「あっ、そっか!」
いつもより少しだけ綺麗に整えられた髪と、黒いシャツに薄手のジャケットを羽織るいるま。
そんないるまがやってのけると、あまりにも様になる。
一瞬びっくりしたらんだが、デートらしさに納得したらんは躊躇なく手を重ねた。
すると、きゅっと指が絡められる。
いわゆる、恋人繋ぎ。
当の本人はなんでもない顔をしてらんの手を引く。
その自然さに、らんは、きっとデートってこういうもんなんだろうと勝手に解釈したのだった。
デートに選んだ場所は水族館。
らんは入った瞬間からきらきらした瞳ですっかり夢中だった。
「いるま!みてみて、クラゲ!綺麗だよ!」
「そうだな」
「あ!あの子かわいい~」
「……かわいいな」
らんがお気に入りのクラゲを見つけてはしゃぐ横で、いるまはらんをじっと見つめていた。
相槌を打ってはいるものの、その瞳に浮かぶ熱は誤魔化しきれていない。
どこか生返事のような声にぱっとらんが振り向き、ぷくっと頬をふくらませた。
「ねぇいるま、見てなかったでしょ!」
「んー……笑」
「ほらぁ!」
「うん、かわいいよ」
いるまはぽんとらんの頭に手を乗せる。
「噛み合ってないじゃん!」
「ごめんごめん。しょうがないだろ、らんのほうがかわいいんだから」
「……え」
「あ、もうすぐイルカショー始まるな。行こうぜ」
時間をみたいるまは、場所を確認して歩きだす。
けど、らんはいるまが悪びれもなくさらっと放った一言に固まっていた。
目がまんまるに開かれている。
「え、いるま……いま、俺のこと……」
「ん?」
「ん?じゃなくて!! ど、どういう意味……?」
慌てて追いかけてきたらんがきゅっといるまの袖を引くと、いるまはふっと意味深に笑った。
「さあな」
そのままらんの手を引いて歩いていく。
(これもデートっぽい、のかな……?)
手を引かれながら、らんは何度もいるまの言葉を思い返してしまう。
たしかに、デートに相応しく甘い響きだ。
いつものいるまからは考えられないくらい。
けど。
(なんだろ、さっきから……)
じわじわと頬が熱くなってくる。
これがデートなのだと教えてくれているのは分かっているのに、なぜかすぐには顔をあげられなかった。
館内をひと通り歩いたあと、ふたりは外にある小さな公園を歩いていた。
秋の風が吹いていて、すこし肌寒い。
「くしゅっ」
らんが小さくくしゃみをする。
「寒い?」
「んー、大丈夫」
「ほんとかよ」
いるまが呆れたように息を吐いた直後、らんの肩にふわりとぬくもりが乗せられた。
「えっ」
いるまのジャケットだった。
「着とけ」
「え、いいのに!いるまは?」
「俺は平気」
「ほんとに?」
「ほんと。いいから着とけ?」
優しい目でのぞき込まれ、らんはなにも言えなくなった。
「ありがと」
「ん。」
らんが大人しく袖を通すと、いるまは満足気な瞳を向け、そっと襟を整えてやる。
その手つきがあまりに甘くて、らんは無意識にふわりと頬を染めた。
その後も、いるまはずっとらんを気にかけていた。
休憩がてら入ったカフェで、そっと口元を拭ってくれたり、当たり前のように自分のもひと口食べさせてくれたり。
らんが気になったお店には、らんが行きたいと言う前に必ず寄ってくれたり。
(なんか、ちがう……)
いつもだっているまはやさしい。
さっと荷物をもってくれるし、らんが困ったときは必ず助けてくれる。
けど。
今日は、なんというか。
(俺のことすき、みたいな……)
勝手にそんなことを思ってしまうほど、らんのことを見ている。
(……いやいやいや!デートを教えてくれてるだけ、だし)
心の中で思いっきり首を振る。
けれど、いるまに見つめられるたびに、指先が触れるたびに、心臓が跳ね上がることには、とっくに気づいていた。
辺りが暗くなってきて、帰り道を歩き始めたころ。
いるまはふいに足を止め、らんに向き直った。
らんは不思議に思いつつも、いるまを見上げる。
「いるま?」
「……らん」
名前を呼ばれて、らんはこてんと首をかしげた。
「今日、楽しかった?」
「楽しかったよ!」
ぱっと表情を明るくしたらんは、うれしそうに笑った。
「水族館も楽しかったし、ごはんもおいしかったし!いるまといっぱいお話しできたし!」
「そっか」
「これがデートなんだなぁって!」
それを聞いたいるまは、やさしく目を細めた。
「じゃあ、またデートしてくれる?」
「うん!また来よう!」
即答するらんに、いるまは思わずくすりと笑ってしまう。
「ほんと、お前分かってねぇな」
「え?」
きょとんとするらんに、いるまは一歩近づく。
「じゃあ、質問変えるわ」
「うん?」
「今日の俺、どうだった?」
「いるま?」
「うん。俺、だいぶいつもと違っただろ」
「ぁ……」
そう言われて、一気に蘇ってくる。
かわいい、と何度も言われたこと。
当たり前のように絡められた指先。
自分に向けられた甘い視線も。
強がる自分に貸してくれたジャケットも。
なにより、『お前のほうがかわいいんだから』という言葉。
どれも忘れられないくらい覚えている。
「ちがった……」
「うん」
急激に頬を染めたらんを、いるまは愛おしそうに見つめる。
抑えられないほどの、今日一番の熱がまっすぐらんに届く。
……いや、らんが気づいていなかっただけで、いるまはずっとこうやって見つめてくれていた。
「なんか……いるま、ずっと俺に甘くて……」
「うん」
「俺のこと、すき、みたいだったから……」
消え入りそうな声で、ぽつりと告げる。
言ってから、さらに顔が熱くなる。
「いや、その!なんていうか!デート、だから……!そうやってしてくれてるのはわかってるんだけど……!!」
恥ずかしさでいるまの顔もまともに見れずにあたふたするらんの手を、いるまがやさしく取った。
「らん」
「はい」
「合ってるよ」
「……え?」
「好きみたい、じゃない」
包みこんだらんの手を軽く握りなおす。
「好きだよ」
らんの思考が完全に止まった。
「……え?」
「好きだよ、らん」
「……ぇえ!?」
いるまがやわらかく笑いかける。
「今日、ずっとらんのこと口説いてたつもりなんだけど」
「く、くどっ……!?」
「お前はデートの練習かなんかだと思ってただろうけど」
「う、うん……」
「手繋いだり、かわいいって言ったり、ずっと見たりなんて、好きじゃない奴にしねぇよ」
ひとつひとつ、ゆっくりと紡いでいく。
らんにきちんと伝えるために。
「俺がそうしたかったから。お前にしか、しないよ」
らんの心臓がどくんと音を立てた。
「ど、どうしよう……そんなの……」
今日一日、何度もいるまにどきっとした。
うれしかった。
たのしかった。
そして。
いま思い返しても、どきどき、する。
それって。
もしかしたら……
「らん」
黙りこんでしまったらんの頭をいるまがやさしく撫でる。
「ゆっくりでいいよ。ごめん、急に言いすぎたな」
「ううん……」
しばらくして、らんはぽつりぽつりと、整理しきれていない気持ちを話し始めた。
いるまが伝えてくれたことには、きちんと返したいと思ったから。
「あのね」
「うん」
「今日、いるまがずっと俺のことみてくれてたの、気づいてた」
「……うん」
「デートっていうものを教えてくれてるんだ、って思ってたから……そうやって納得してた、のに」
ぎゅっと手を胸の前で握りしめて、恥ずかしそうに俯いてつぶやく。
「どきどき、して……」
いるまが目を瞬かせる。
「恥ずかしいけど、うれしかった、の……」
その言葉に、いるまはやわらかく表情を崩した。
「ありがと、らん。うれしい」
「ぁ、ぅ……」
真っ赤になったらんはついに両手で顔を覆ってしまった。
そんならんを、いるまはまた本当に愛おしそうに見つめる。
「らん、もう1回言う。俺、らんのことが好きです」
らんがこくりと頷く。
けど今度は、ただ恥ずかしいだけじゃない。
ちゃんと嬉しい気持ちもある。
「返事は急がないから、ゆっくり考えて。」
「え……?いいの……?」
「うん。けど俺のこと好きにさせるつもりで落としにいくから」
「っ!!」
「覚悟しとけよ」
宣戦布告みたいにいじわるっぽい笑みを浮かべるいるま。
そんなことされたらんは、声にならない声をあげて熱くなった顔をぱたぱたと冷ますのだった。
すでにいるまのことが頭から離れなくなっていることは、ふたりともまだ知らない。
初めてのデートは、大成功で。
そして、ふたりの恋の本番は、ここからはじまる。
コメント
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デートの練習だと思ってたらんくんが可愛すぎました…! いるまくんの「好きじゃない奴にしねぇよ」に胸がギュッとなりました。あと、クラゲよりらんくんを見てるところとか、ジャケット貸してあげるところとか、全部が甘くて、最後の「好きだよ」で私まで照れました。ふたりの恋の本番、めちゃくちゃ応援したいです🥀🤍