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部活中の異変体育館にバスケのボールが弾む音が響く。いおりは華麗なドリブルからシュートを決め、チームメイトとハイタッチを交わした。その瞬間、突然、いおりの口から吐瀉物が溢れ出した。何の予兆もなく、気分が悪いわけでもない。いおり自身も何が起こったのか分からず、ただ呆然と立ち尽くす。
チームメイトからは奇異な視線が集まり、顧問の先生からは「おい、いおり!どうしたんだ!」と𠮟責の声が飛んだ。その時、幼馴染のゆうが駆け寄ってきたいおりの背中をさする。ゆうはいおりが時々この現象に見舞われることを知っていたが、最近は全くなかったため、今回の突然の出来事に驚きを隠せないでいる。
保健室での再発
ゆうに支えられ、いおりは保健室へ向かった。保健室の先生は「気分が悪くないなら来る必要ないでしょ」と冷たく言い放つ。いおりはゆうに「もういいよ」と力なく笑いかけた、その途端、先ほどと同じ現象が繰り返し起こり始めた。いおりは吐き続けているにもかかわらず、本人は何の不快感も訴えず、ただ勝手に口から異物が出続けている状態だ。
しばらく保健室で休ませてもらったが、何時間経ってもいおりの口からは異物が出続ける。ゆうは心配し、「もう限界なんじゃないか」といおりに声をかけた。しかし、いおりが限界を感じているのは喉の痛みや脱水症状からではなく、お腹だった。いおりは苦しそうにお腹をさすり始めた。さすってもお腹の異物排出は止まらない。ゆうは、これが逆流のしすぎによる筋肉痛だと気づき始める。いおりは涙も流さず、ただ前を見つめているだけだ。異物は止まろうとしない。
「いおり、もうこの状態は異常だよ。すぐに病院に行こう。このままじゃ本当に体が持たない。」ゆうは真剣な眼差しでいおりに訴えかけた。
病院での診察
保健室の先生に付き添われ、いおりは病院へ向かった。待合室でも、我慢していた分が一気に溢れ出し、いおりの口からは異物が止まらない。ゆうは、いおりのお腹がもう限界を超えていることを肌で感じていた。
やがて名前が呼ばれ、診察室へ入る。医師はいおりが吐いているにもかかわらず、そのまま聴診器をお腹にあてた。聴診器が少し触れただけでも、いおりは痛そうに顔を歪める。背の高い看護師がいおりの背中を優しくさすってくれたが、ゆうの心配は募るばかりだった。
診断とゆうの回顧
診察室で、いおりの突然の嘔吐が激しい咳へと変わった。その変化に、ゆうは少しだけ安堵の息をついた。医師は、いおりの症状がトラウマやストレスが積み重なって引き起こされることがあると説明した。
その言葉を聞き、ゆうはいおりのこれまでの人生をもう一度振り返り始めた。最近、大きなストレスとなるような出来事はなかっただろうか。何か、いおりの心に深く刻まれたトラウマがあったのだろうか。ゆうの頭の中を、いおりとの思い出が駆け巡っていく。
ゆうの気づき、そして悪化する病態
ゆうははっとした。いおりが感情を表に出さなくなったのは、両親の離婚が原因かもしれない。そういえば、いおりは兄弟と暮らしていて、両親は離婚していると聞いたことがある。そして、その離婚の原因は、父親がいおりに暴力を振るっていたからだという話を思い出した。その時から、いおりは感情をあまり表に出さなくなった。
ゆうはいおりに尋ねてみたが、いおりの咳は止まらない。ただ首をかしげるだけだ。これは覚えていないということなのだろうか。ゆうにはわからなくなってしまった。
いおりの病状は、医師の診断とは裏腹に、徐々に悪化していった。咳は止まらず、次第に呼吸も苦しそうになっていく。体は目に見えて痩せ細り、顔色も悪くなっていく。それでもいおりは「大丈夫」と弱々しく微笑むばかりで、助けを求めようとはしない。ゆうの焦りは募るが、どうすることもできない。いおりの体は、確実に限界へと近づいていた。