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第三章 さよならを綴った手紙 後編
――リュカ視点――
馬車に揺られながら
何度も膝の上の封筒に目を向けた
エリアスから手紙をもらったことなんて一度もない
幼い頃は用があれば直接会いに来てくれた
嬉しいことも、悲しいことも、いつも隣で話してきた
だからこそ、この一通には特別な意味がある気がしてならなかった
“向こうに着いて一人になった時に読んでくれ”
別れ際の言葉が頭をよぎる
どうして一人の時だったんだろ
どうして、あんな表情をしていたんだろ
考えれば考えるほど胸が落ち着かない
窓の外に視線を向けても
景色はほとんど頭に入らなかった
気づけば
ローゼンフェルト王国の城に到着していた
案内された部屋は広く
必要なものはすべて揃っていた
けれど、どれだけ豪華でも心は満たされない
部屋に一人になるとゆっくり息を整えた
リュカ「…読もう」
封筒を両手で包み込む
震える指先で封を開け
中から一枚の便箋を取り出すと
そこには、見慣れた文字が並んでいた
「リュカへ」
その一行だけで胸がいっぱいになる
便箋を握る手に力が入った
「この手紙を読んでいる頃には、君はもうローゼンフェルト王国にいるんだろうな」
「直接伝えようと思った」
「何度もそう考えた」
「だけど、君の前に立つとどうしても言葉が出てこなかった」
目の奥が熱くなる
あの日、城門で何度も口を開きかけていたエリアスの姿が浮かんだ
あれは迷っていたんじゃない
伝えたくても伝えられなかったんだ
「俺は、昔から君が好きだった」
その一文を読んだ瞬間息が止まった
何度も見返す
文字は変わらない
夢でも見間違いでもなかった
「友達としてじゃない」
「家族みたいな存在でもない」
「一人の人として、大切に思っていた」
視界がぼやける
便箋に涙が落ちないよう
慌てて袖で目元を押さえた
リュカ「…どうして」
声が震える
リュカ「どうして、今なんだよ」
俺だってずっと好きだった
子どもの頃から
隣にいるのが当たり前になって
その当たり前が何より幸せだった
伝えたかった
何度も
でも立場を考えるたび言葉を飲み込んできた
「君を困らせると分かっていたから言えなかった」
「最後まで笑って送り出そうと決めていた」
「それでも、この想いだけは嘘をつきたくなかった」
涙が止まらない
こんなにも近くにいたのに
同じ気持ちだったのに
どうして一度も伝え合えなかったんだろう
そして、便箋の最後視線を落とす
「君が笑って過ごせるならそれだけで十分だ」
「どうか幸せになってほしい」
「ありがとう」
「さようなら」
リュカ「っ…違う」
声にならない声が漏れて便箋を胸に抱き寄せる
リュカ「こんなの、嫌だ」
ありがとうなんて
さようならなんて
そんな言葉、受け入れられるはずがない
俺が欲しかったのは、別れの言葉じゃない
「好きだ」
その一言を、同じ時間に伝え合いたかった
なのに頬を伝う涙は止まる気配がなかった
部屋には嗚咽をこらえる音だけが響く
あの日、あと一歩だけ勇気を出せていたら
どちらかが先に気持ちを伝えられていたら
未来は変わっていたのだろうか
答えはもうどこにもない
それでも……。
俺は手紙を胸に抱いたまま小さく誓う
リュカ「エリアス。この手紙だけは一生大切にする」
たとえ離れた場所で生きることになっても
この想いだけは誰にも奪わせない
そう誓ったことが
やがて運命を動かす最初の一歩になるとは
この時の俺はまだ知らなかった
・
こと-koto
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コメント
1件
ああ、これは……泣きましたね。 リュカとエリアス、ずっと近くにいたからこそ言えなかった「好き」が、手紙という形で初めて交わされる切なさ。エリアスが笑顔で送り出そうと決めていたのに、最後の最後で嘘をつけなかった心情、そしてリュカもまた同じ想いだったというすれ違い――「どうして今なんだよ」の台詞が心に突き刺さりました。 「さようなら」を受け入れられず、それでも手紙を胸に誓うラスト、この一歩がどう運命を動かすのか、続きが本当に気になります。素敵なエピソードをありがとうございます。