テラーノベル
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キーンコーンカーンコーン。六時間目終了の合図が鳴る。
今日は金曜日。
クラスメイトは明日から始まる休日にうれしさを隠しきれない様子で帰る支度をしている。
いつも通りチャイムの少し後に担任の先生が来て。月曜の持ち物やら、近々ある文化祭やらの説明をする。
その説明を俺は聞き流し、前の席に座る幼馴染を見ていた。
前の席の幼馴染はしっかり話を聞いている……かと思いきや、机の下でスマホゲームをしていた。
彼奴らしいっちゃ彼奴らしい。
先日俺が最近ハマっているスマホゲームを幼馴染に教えたら、次の日ダウンロードした、と教えられた。
理由聞いたら、「一緒にやりたかったから」。
その笑顔にきゅんとしたのは生涯誰にも言えない。
先生の目を盗みながら、俺は目の目にいる幼馴染に声をかけた。
「お前、先生の話聞いてる?」
「聞いてる聞いてる」
「絶対聞いてないだろ」
「聞いてるって。……たぶん」
「たぶんってなんだよ」
絶対嘘だ。彼が嘘ついているのもすぐにわかってしまう。だって、幼馴染なんだから。
「んじゃ、月曜日忘れんなよ~」
先生はそう言い、「んじゃ、またな~」とホームルームを切り上げた。
教室がまた一段と騒がしくなる。
帰ろうぜと誘う声。
明日暇?と遊びに誘う声。
そんな中、幼馴染がスマホを片手に、
「いるま、月曜って何持ってくんだっけ?」
と聞いてきた。やっぱりお前、何も聞いてないじゃん。
「俺も知らね」
「え~、聞いてねーのかよ」
「なつが言えることじゃないだろ」
「それはそう」
なつは軽く笑いながら、スマホの電源を落とした。
「なぁ、いるま。お前今日も暇だよな?」
「なんで確定事項みたいに聞くんだよ」
「だってお前、俺と遊ぶ以外に用事ないでしょう?」
「ん、まぁ……」
否定はできない。今日だって部活仲間に遊びに誘われたけど、断ってきた。
なによりなつ優先。
それは数年前から変わらない。
「でしょ?だからさ帰りコンビニ寄らね?新作スイーツ出たんだって」
「いいけど」
「やった」
なつが小さく笑った。
……こういうところだ。
俺が断らないって、最初からわかってるみたいな顔をする。
それが少し嬉しくて。同時に、少しだけ怖い。
もし俺が、いつか「嫌だ」って言ったら。こいつはどんな顔をするんだろう。
……まあ、そんな日は来ないだろうけど。
「なつはやっぱり新作に目がないな。」
「まぁね。甘いもの好きだし」
そう話しながら荷物をバックに詰める。教室は人気がなくなっていく。
詰め終わり、廊下に出て下駄箱に向かう。そこで後ろから声がかけられた。
「あ、なっちゃんもいるまも今帰り~?」
「ん、あ、らんか。」
この前髪がピンクの男、らんは俺たちの親友だ。
あと何人か仲のいい奴はいるけど、俺となつ以外はクラスが離れてしまったので、最近はあまり遊べていない。
「相変わらず二人は仲良しだね~?」
なんてニヤニヤしながら話しかけてくるらんに若干のイラつきを感じながらもスルーする。
こいつは俺の事情を知ってる数少ない奴。絶対相談するやつ間違えたよな、と過去の自分を呪いながらも、
まぁほんの少し?助かっているので強くは言えない。
「別に普通だろ」
「え~、でもなっちゃん、俺が新作スイーツ食べに行こって誘っても来てくれないじゃん!」
「……いや、だってそれは……こさめに悪いかなって」
少し早口で説明するなつ。
こさめってのも俺らの親友。らんとは恋人、らしい。
「え~、こさめも遊びたいって言ってたよ、今度、ダブルデートでもする?」
「は?ダブルデート?なんで」
「俺ら幼馴染なんだけど」
俺らが否定するとらんは、なにいってんだか、という顔をする。
そして、一瞬通知音が鳴ったスマホを見て、顔をにやけさせながら、らんは言った。
「ん、ま~いいや。デートじゃなくても六人で遊びに行こーな、すちもみこちゃんも寂しがってたし。」
「ん、そうだな」
俺はすぐに返事をしたけれどなつは少し複雑そうな顔をしてる。
けどすぐに元の顔に戻り、
「だな、俺も久しぶりに遊びたいわ」
と言った。その後らんは、こさめに「まだ~?」って怒られたから!と早足で消えていった。
また、二人っきりに戻った。さっきまで騒がしかった廊下に静寂が落ちる。
「……行く?」
「ああ、」
「コンビニ」
「ん」
「〇✘町コンビニでいい?」
「そこ遠いけど」
「いいじゃん、別に。そこにしかないの」
「わかった」
下駄箱で上履きから外靴に履き替え、生暖かい風が当たる外に出る。
グラウンドでボールを蹴るサッカー部の声。走り込みをする陸上部の声。
すぐ目の前にあるはずなのに、なつを見ていると、全部すごく遠くに感じる。
「……暑いな」
「んー。今日暑すぎ」
なつが制服の襟元を少し引っ張って、ぱたぱたと風を送る。
「お前、暑いならコンビニなんて遠いとこ選ぶなよ」
「だって新作食べたいし」
「食い意地張りすぎ」
「うるさいなぁ」
そう言って、なつが笑う。
俺はその横顔を見る。
いつも見ている顔。
何年も、何千回も見てきた顔。
___なのに。
最近、どうしてか。前よりずっと、目が離せない。
ずっと見ていたいなって思ってしまう。
ずっと、隣で。
「……いるま?」
「ん?」
「さっきから何見てんの?」
「別に」
「俺のこと?」
「違う」
「じゃあ何?」
「……空」
「今、空見てなかったじゃん」
「うるせぇ」
なつが楽しそうに笑う。
その笑顔を見て、俺も少しだけ笑った。
……こういう時間が、ずっと続けばいいのに。
歩き出して数分。
会話は何もなかったが、不思議と気まずくなかった。
少し後ろを歩いていたなつが口を開ける。
「なぁ、いるま」
「なに?」
「あのさ、お前は恋人作る気ある?」
「……は?何急に」
「いや、だってらんがダブルデートって言ってたから、気になっただけ。」
「……俺は___」
作る気はないわけじゃない。
だって好きな人はいるわけだから。
けど、言えるわけがない。
「…まだ作る気はないよ。だって、」
「ん?」
「お前といる方が楽しいから」
「……そっか」
なつは少しだけ安心したように俯いた。暑さのせいか少し耳が赤くなっている。
「なに、その反応」
「いや……」
しばらく黙って歩いていたなつが、ぽつりと言う。
「……俺も」
「ん?」
「俺も、いるまといる方が楽しい」
「……」
今度は俺が黙る番だった。
なんだよ、それ。
そんなこと言われたら、期待するだろ。
うれしいって思っちゃうだろ。
もしかしたら、って。期待しちゃダメなのに。
「……じゃあ、恋人いらないじゃん」
冗談っぽく言ってみる。
「んー……」
なつが少し考えるように空を見上げる。
「そうかもね」
「……そうかよ」
なんで、なんでそんな嬉しそうに笑うんだよ。
〇✘町のコンビニについて、自動ドアを通る。
いらっしゃいませ~という店員の声を聞き流し、先を歩くなつへついて行く。
新作スイーツを見た瞬間、なつの瞳がキラキラ輝く。
「わ、いっぱい……」
何種類かある新作スイーツ。
全部食べたら夕飯が食べれなそうだ。
「どれにしよ……」
なつは棚の前でしゃがみ込み、真剣な顔でスイーツを見比べている。
「そんな悩む?」
「悩むよ。だって全部美味しそうじゃん」
甘党のなつには究極の選択のようだった。
「じゃあ全部買えば?」
「……いるま、俺を太らせようとしてる?」
「なんでそうなるんだよ」
「だって全部買えって言ったじゃん」
「お前が全部食いたいって言ったんだろ」
「それはそうだけど」
ケラケラと笑いながら、なつはまたスイーツを見る。
しばらく悩んだ末、なつが一つの商品を手に取った。
「これにする!」
「決まった?」
「うん!」
「じゃ、俺も___」
「待って」
なつが俺の袖を掴む。
振り返れば、少し顔をうつむかせているなつの姿が見える。
「……?」
「これ、一人で食べるにはちょっと大きい」
「じゃあ戻せば?」
「えー……食べたい」
「……」
「いるま」
「なに」
「半分こ、しない?」
一瞬、言葉が出なかった。「半分こ」ただそれだけの言葉なのに。
さっきの会話が頭をよぎる。
『お前といる方が楽しいから』
『俺も』
……やめろ。これ以上、期待させないでくれ。
「……いいけど」
「ほんと?」
「うん」
「やった」
嬉しそうに笑うなつ。その顔を見て、俺は目を逸らした。
……半分こくらいなら。親友でもやること。
今の俺たちでも、許されるよな。
コンビニの重い自動ドアを開けると、少しだけ低くなった太陽が影を長く伸ばしていた。
袋の中でシャリと音を立てるスプーンと、ふたりで一つだけ買った新作のカップスイーツ。
「外で食うの?」
「うん。歩きながら食お」
なつはそう言って、さっき買ったばかりの大きなカップスイーツの蓋を慣れた手つきで外した。
ビニールからプラスチックのスプーンを二本取り出し、そのうちの一本を俺の目の前に差し出してくる。
「はい、いるまの分」
「……サンキュ」
受け取ると、なつは「じゃあ最初は上の層からね」と言って、躊躇なくスプーンを入れ、口に運んだ。
頬を少し膨らませながら美味しそうに目を細める顔。
いつも見ているはずのその表情に、胸の奥がキュッと締め付けられる。
「ん、うま!いるまも食いなよ」
「おう」
なつに促され、俺もスプーンを伸ばす。同じカップの中に二本のスプーンが行き来する。
交互にすくい取っては口に運び、「これ下の層と一緒に食った方が美味いな」なんて他愛もない感想を口にするけれど、視線が重なるたびにどこかぎこちない間が空いた。
一つのスイーツを、ふたりで半分こして食べる。
カップルがやるような甘いシチュエーション。
けれど俺たちはそれを”親友だから”・”ただのノリだから”という無言の言い訳で覆い隠している。
……これで十分。そう胸の中でそっとつぶやく。
「好き」なんて言葉は、口が裂けても言えない。
そんな言葉を出してしまえば、今まで作ってきた二人っきりの心地いい関係が、音を立てて崩れてしまう気がして怖かった。
もし振られたら、こんな風に笑い合う放課後は亡くなるんだ。
そんな可能性が1%でもあるなら、俺はこのままでいい。
「あー、もう終わっちゃう。半分こだとあっという間だな」
「なつが一口でかく食うからだろ」
「だって美味しかったんだもん」
空になったカップとなつの満足そうな顔を見ながら、俺たちは並んで歩く。
家までの距離が少しずつ縮まっていくのが、なんだかやけに寂しく感じられた。
夕暮れの街並みを抜け、なつの家の前につく。
玄関のドアノブに手をかけたなつが、くるりと振り返った。
「じゃあ、ここまでね」
「おう。じゃあな」
なつは一瞬だけ何かを言いたそうに唇を動かしたけれど、すぐにいつもの柔らかい笑顔を作って、ドアを少しだけ開けた。
「また月曜な、いるま」
カチャリ、と静かな音を立ててドアが閉まる。
たったそれだけの言葉。
けれど、その「また月曜日」という何気ない一言が、俺の心にじんわりと温かく広がっていく。
週末を挟んだら、また当たり前みたいに学校で会える。
月曜日になれば、またお前と笑い合える。
恋人になれなくたっていい。告白なんてできなくたっていい。
なつが俺に「また」と言ってくれるだけで、俺の世界はそれだけで満たされてしまうんだから。
~end~
#なつこさ
かは
3,596
如月💜🎼@毎日投稿中
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コメント
1件
うわあ、すごく甘酸っぱい……! 幼馴染同士の「半分こ」とか「お前といる方が楽しい」みたいな、絶妙に恋人っぽい距離感に胸がきゅっとなりました。いるまが「このままでいい」って自分に言い聞かせてるところ、すごく切ない。好きだけど言えない、そのバランスがリアルで、続きがすごく気になります。半分このスイーツ、めちゃくちゃ象徴的でしたね。