テラーノベル
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一時間くらいたったころだろうか、未だに僕の名前は呼ばれていない。「あれ?セリオまだ呼ばれてないのか?」「そうなんだ、もう呼ばれてもおかしくないはずなのに」「もしかして神父から見えてないんじゃないか?人が多すぎて分からないとかありえそうだろ。」「確かに、もう少し前に行ってくるよ。ありがとうラッセル」「いいってことよ」そんな会話をして神父様から見えやすい位置に移動した時のことだ、「ねぇ。セリオ」と見知らぬ声で名前を呼ばれたのは。声のした方に顔を向けると、先ほど教会の前で見かけた少女がそこにいた。なぜ彼女が僕の名前を知ってるのか、なぜ今声をかけてきたのかと回らない頭でいくら考えても答えは出なかった。
彼女と見つめ合ってどのくらいたったのだろう?もしかしたら五分もたっていないかもしれないが、まるで時間がゆっくり流れているような感覚だった。そこから抜け出せたのは「セリオくん~、居ませんか?セリオくん~」という神父が自分を呼ぶ声がしたからだ。「はい!居ます!」と慌てて返事をして、彼女にあとで話そうと声をかけようとそちらを向いた時には、すでにそこには誰もいなかった。それに少しの恐怖とたくさんの疑問を抱えながら、神父様のもとに早歩きで行き「お待たせしました、お願いします。」と声をかけると「では、そこの水晶に手をかざしてくれるかな~」とニコニコしながら言われたので、大人しくそれに従い手をかざした。
……おかしい。何の変化も起きない。まさか、いやそんなことあるわけない。あっていいはずがない。
「これは…残念ですが、あなたに少しも適性はありません。結果を誰にも言わず、今すぐにでもここから立ち去ることをお勧めします。」先ほどまで間の抜けた声を出していた者と、同一人物だとは思えないような真剣な声音と顔でそう告げられた。解っているそれが自分のために言っていることも、神父様が何も悪くないことも。それでもこの村の人なら大丈夫なのでは?という思いと、自分が適正ないことを信じたくない思いが僕僕その場に留めていた。「セリオどうだっ……え……」自分の予想があってるか確認したかったらしいラッセルが、結果の紙を見て数秒固まった後に徐々に顔色が変わっていく。それは幼馴染を心配している顔色とは到底かけ離れていて、むしろ親の仇を見るような顔色だった。「ラッセル…」「適性無しのくせに、軽々しく俺の名前を呼ぶんじゃねえよ!」これは本当にラッセルなのか?困ったとき優しく助けてくれていた彼が、ただ僕の適性が無いというだけでこんなにも変わるのか?
「聞いたか今の。」「適性無しだって?」「最悪、今まで優しくしてたのに。」「本当よね、親もいないし適性無いの分かってたら助けなかったのに。」ひそひそとそんな声がそこら中から聞こえて来る。今まで優しかった村の人たちが、悪魔のように見えて仕方がない。恐怖に震える僕を横目に「サリスさーん、居ませんか~」と神父様は別の人を呼んでいる。「…目の前にいますが」いつの間にか真横に先ほどの少女が立っていた。そうか、サリスというのか彼女は……彼女ももう自分に話しかけることはないだろう。「これは!すべての数値が適性を大幅に超えている!?こんなことがあるなんて!」驚きで大きくなった神父様の声は、全体に響いたらしく一気に周りが騒がしくなった。それに何とも言えない顔になってしまったのは仕方ないだろう、なぜ彼女が?自分ではだめなのか。そんな考えが頭を支配していく。
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