きんとき視点
もう覚えていない、長いこと前に俺以外のメンバーの五感の一部が消えた。
いや、覚えていないなんて嘘だ。あの日、あの日を境に五感がなくなった。
あんな企画を考えなければ、彼らは苦労しなかったのだろうか?
………………、
なかむは嗅覚を失った。元々甘味が大好きだったのに、口にしないようになった。甘味に限らず食べるという行為が極端に少なくなった。食事は味の無い粘土を食べている感覚らしい。特にクリームの舌触りが最悪なのだとか。
ぶるーくは味覚を失った。味がわからないのとプラスして、声が出なくなってしまったんだ。あの日からぶるーくの煽り気のある優しい包み込むような声は聞けなくなった。あの楽しそうな笑い声も、嘲る声も、何も聞こえなくなったんだ。
シャークんは触覚を失った。下半身が動かないらしい。普段は車椅子を使って移動しているが、時々不便に感じているようだ。シャケは意外にも運動することが好きだった。特にスノーボード。もう彼に教えてもらえることもなければ一緒に滑ることも無くなった。
スマイルは聴覚を失った。いつもみたいに喋るが何処が悲しそうだった。いつもみたいに喋ると言っても会話に入ることもなければただの独り言のようだった。どんなときでも寂しい思いをさせてしまっている。
きりやんは視覚を失った。元々彼は目は悪かったが失明しているようなレベルではなかった。いつもゾンビのように手を伸ばし周囲の危険を確認する。彼が何も無い虚無に怯えるのは見るに耐えなかった。誰よりも元気いっぱいな彼はもう居ない。
何で、俺じゃないんだろうって考えてしまう。どうすれば彼らを救ってあげられるだろうか、どうすれば彼らに罪滅ぼしができるのか、望まれていない懺悔を繰り返すしか俺に出来ることはないんだ。
そんなときに、ふと遠く広がる空を見上げて、天に向かって、いるはずのない神様に聞いてみる。
ねぇ神様、何を代償にすれば彼らの五感は戻りますか?
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