プロセカ殺し合い
1.第1ラウンド(1回戦)
____キーン
4人が目覚める。
「ん……?」
「こ、ここは何処なんだ?!?!」
司の声が広く真っ白な部屋に鳴り響く。
「ちょっと……うるさいんだけど」
寧々が不機嫌そうに起き上がりながら言う。
「随分不思議な現象だねぇ…実に興味深いよ!先程まではワンダーステージにいたはずなのに…… 」
「とーっても、ワクワクわんだほいだねっ!!☆」
類とえむは楽しそうにしながら、起き上がるとすぐに部屋の探検を始めていた。司と寧々は呆れた様子で2人の方に視線を送る。
「あいつら…どこに行っても変わらんな」
「まあ迷子になりそうな場所でもないし…ほっといていいんじゃない?」
「だな、それにしても何故ここにいるんだろうか……」
「うーん……」
司と寧々が考え込む。その間も類とえむによる部屋探検は続いていた。時折笑い声も聞こえてくる。
「寧々、あの時酷い耳鳴りがして気を失わなかったか?」
「あ、うん。目覚めた時もそうだった」
「皆同じタイミングで気を失って目覚めるのっておかしな話じゃないか?」
「うーん……どうなってるんだろ……」
2人は再び考え込む。
そこで探検をしていた2人の足音、話し声が止まった。
「え………」
静かになった空間にえむの声が響く。
「えむ?どうしたんだ?」
「………」
えむは黙ったまま、ただ壁を見つめていた。その顔は今までに見た事がないくらいに、恐怖に歪んだ顔だった。
司と寧々はその顔を見るとすぐに駆け寄って行った。
「ほんとにどうしたの…?」
「こ、これ……」
えむは恐怖に震えた手で壁に貼られた1枚の紙を指差す。
殺し合え
「は……?」
「なっ………」
それを見た2人はえむ達同様、言葉が出なくなってしまった。
その時雑音と共に放送機器から声が聞こえてきた。
『ヨウコソ!皆サン!』
『ココデハ文字通リコロシアイヲシテモライマス!』
その後もルールの説明などが続いたが今の4人の頭にはそんな話が入って来るはずもなかった。
『ソレデハ、楽シンデクダサイネ!!』
その言葉を最後に放送は途切れた。
——ルール説明
・殺し方は問わない
・部屋にあるものなら何を使ってもよい
・自害も可能
※制限時間以内に誰も死亡しなかった場合はペナルティが全員に課されます
1ラウンドごとに1人死亡した時点で終了
第1ラウンドは4人戦
第2ラウンドは3人戦
第3ラウンドは1体1
第4ラウンドは5人戦、最後の一人になったら終了
皆が黙り込む。誰も言葉が出ないようだった。
その時壁一面に制限時間を表すタイマーが表示された。
45:00
「……なあ、どうするんだ?」
最初に口を開いたのは司だった。
「どどど…どうしよう……」
えむが今にも泣き出しそうな様子で答える。
「これ…本当に誰かが死ななきゃなんだよね……」
「…もっともーっと、皆と居たかったな…っ」
えむのその一言で皆泣き出しそうになる。類はずっと何かを考えている。
「みんなが死なない方法って無いのかなぁ…」
「…誰も死ななくても駄目なことは無いようだな、だがペナルティがあるな……」
「ペナルティ……殺し合いさせる奴が考えるなら誰かが死ぬよりももっと重いものなのかもね……」
皆が再び黙り込む。
その時類が立ち上がった。
「僕が死ぬよ」
そう言うと類はニコッと笑ってみせた。その顔はいつもとは違う、恐怖が入り混じった複雑な笑顔だった。
「類、駄目」
寧々が類の肩を掴む。
「そうだよ!みんなで帰れる方法を考えようよっ!!」
「類なら何かしら見つけることが出来そうだしな!」
「お願い、類」
類は固まる。
皆は必死な表情で類を見つめる。
「……みんな、ありがとう」
「まだ可能性は残っているしね、助かる方法を探そう」
3人の表情がぱっと明るくなる。
「ふふっ、時間も限られているし…急ごうか」
「うんっ!!」
「それではどんな方法で出られるか色々試そうではないか!!」
「じゃあ、私あっちの方見てくるから」
「じゃああたしはこっち!!」
そう言って4人は手分けして捜索を始めた。
15:00
「皆!1度集まって成果を伝え合おう!!」
司が叫ぶ。
「そんなに大声じゃなくても伝わるから…」
3人は司の元へ向かった。
「どうだ?なにか発見はあったか?」
「こっちは特に何も無かったね、えむくんのところはどうだい?」
「扉があったんだけど鍵がかかってて、何回も叩いたりしてみたんだけど開かなかったんだ…寧々ちゃんは?」
「特に何も」
「オレの所も何も無かったな……」
「じゃあえむくんの言っていた扉が唯一助かれそうだね」
「どうやって開けるかだな……」
4人は考え込む。
「色々試してみようか、まだ時間はあるしね」
「うん……!」
5:00
何度でも色々な方法を試したが、扉が開くことは無かった。
(どうすれば皆が助かるだろう……)
寧々は焦り始めていた。ほかの3人は開けることに集中していて時間に気付いていない様だった。
(誰か1人でも死ねば他は助かるんだよね…)
(……そうだ…、)
寧々は1回深呼吸をしてから、3人の方を向いた。
「向こうの方見てくる、なんかあるかもだし」
「確かに向こうはまだ見ていなかったな…頼んだぞ!」
「……うん…ッ」
「………じゃあね。」
ボソリと自分にしか聞こえないくらいの声で言った。
寧々は走ってそこへ向かった。
荒い呼吸を整えながら扉を開いて中に入る
(大丈夫、これで皆が助かるんだ……)
(裏切るみたいだけど…ごめん)
寧々が入って行ったのは武器庫だった。3人はそもそも武器庫の存在自体気付いていない。そこで寧々は銃を手にした。
ゴクリと喉を鳴らす。最後に深呼吸をして、震える手で銃口を頭に当てる。
もう一度深呼吸をした。
「…今までありがとう」
「……話すと長くなるけど…とにかく、」
「…今まで楽しかったよ……ッ!」
___バァン
「!?」
3人の動きが止まった。
「な、なんの音だ?!」
「じゅ…銃声、だろうね」
3人は一斉にタイマーの表示された壁を見た。タイマーは止まっていた。
「ど…どういうこと……?」
えむはまたも泣き出しそうになっていた。
そこで再び放送機器から声が聞こえてきた。
『オメデトウゴザイマス!皆サンハ生キ残リマシタ!!』
『1日休憩時間ヲ取リマス!時間ニナッタラ扉が開クノデ先ニ進ンデクダサイ!』
『ソレデハ!』
放送が切れると共に目の前に沢山の食べ物と休息を摂るための布団が運ばれてきた。
だが、3人はそんなものを見ている余裕すら無かった。
「……生き残った…ということは誰かが……」
3人は恐る恐る寧々の向かって行った武器庫の方を見る。
そこには頭から血を出して横たわる人の姿があった。3人から一気に血の気が引く。ふらふらとした足取りでその方へ向かった。
「……ッ?!」
「……そッ、んな…………」
そこに横たわっていたのは寧々だった。
えむはその場に座り込むと寧々の手を強く握った。ただ、その手に温かさはもうほとんど無かった。今も尚どんどん冷たくなっている。
「…ね、寧々ちゃん…ッ?」
応答は無い。
「いつもみたいに話してよぉ……ッ」
そういうとえむは横たわっている寧々に抱きついて、うわあああんと激しく泣き出した。
その姿を見た司もたまらず泣き出した。
2人が寧々を囲んで悲しみに暮れている間、類は動けないでいた。
(僕達の為に……寧々が………)
(そんな……ッ)
幼馴染を一瞬にして失ったことが受け入れきれないのだ。
まだ、そこには寧々が居るような気がした。
〔類〕
笑顔の寧々が立っていた。
類は歩み寄って手を伸ばす。ただ、その手が寧々に触れるとすり抜ける。
〔もう、そんな顔しないでよ……〕
困った顔の寧々。
〔とにかく、死んであげたんだから〕
〔私の分まで生きてよね…!〕
気付けば寧々の姿は消えていた。
類は2人の方へ向かう。
「……司くん、えむくん」
「寧々の分までみんなで生きよう、!」
2人は強く頷いた。
『休憩時間ハ終了デス!』
放送機器から声が流れる。知らぬ内に結構な時間が経っていたようだ。もう休憩は出来ない。だが、今の3人にはそんなことどうでもよかった。
次の会場へ繋がる扉が開く。3人はしっかりとした足取りで中へ向かった。
ただ心の中で1つの強い思いだけが燃えていた。
「寧々/寧々ちゃんの分まで生きてみせる」と。
___第1ラウンド(1回戦)
司、えむ、類の勝利